51 探索の旅(王国編-17)
スパーラ=パルスパニア江を挟んで東にあるトリエ地方は、川沿いからかなり広い範囲を辺境領土として一人の領主が治めている。
辺境だけあって王都と比べると華やかさとは縁遠く、狩猟農耕で生計を立てる者が大半を占めている。
領主デミトール=ネウロ=ルガールは四十歳と若いながらも昔からの文化、暮らしを尊び、領民の税負担は軽めにしている。
辺境を預かるだけあって防衛力の保持と強化は怠らないが、それを加味しても領民には日々の暮らしに満足している者が多かった。
牧歌的で大らかなルガール領であるが、川沿いの地帯をはじめとして肥沃な土地に多く恵まれ、食糧生産量は王国随一。
王国の食糧庫と言っても過言ではない現状は領民の誇りでもある。
また、その現状を政策として保護する領主デミトールに対しても、堅実で優れた領主であると領民の自慢の種であった。
アスクレスはそんなルガール領主に仕える家系に生まれた。
そのため特に領主や領地に対する愛着心は幼い頃から高かった。
彼は勉強が好きで特に医術に興味を持っていた。
領主の覚えもめでたい親のお陰もあってか、少年の頃から医術の勉強をさせてもらった彼は、領主館で見習い医師として勤務するに至った。
ゆくゆくは領主付けの典医となるべく教育され、健康面で領主を支えていく。
それが彼の目標であり、ささやかな夢だ。
そして勉強を怠らねば叶うはずの夢であった。
民の笑顔が絶えない自慢の領は、しかし一年前から一変する。
最初は領主が発案した少しの増税だった。
不満は出たし、執政側も慎重に検討し発表したが、それまでが十分軽い税率だったので比較的容易に受け入れられた。
ところが領主は税率改定を発布した直後に、働き盛りの男を中心に労役を課した。
木材や石材を切り出させたり、用途不明の館や砦のような物を建築させたりすることを義務としたのである。
いくら領主の命令とは言え、領民に多大な負担を与え、場合によっては王都や近隣領地に反乱の疑いをかけられてもおかしくない内容だ。
領主の子をはじめとして、周囲はこぞって反対し領主に諫言をした。
領主は反対した子や側近たちを直ちに逮捕した。
衛兵の数を大きく上回る多数の武装兵が領主館に乗り込んで来たのだ。
領主が直接雇った者たちであることが明らかになると、衛兵たちも手出しができなかった。
三人いる領主の子の内、長男長女は軟禁状態。
逆らった側近たちは幽閉。
そして領主館は半ばその武装兵に占拠されるような形で、領主に反対意見を言うことさえできなくなってしまった。
アスクレスは聡慈にトリエ地方、ルガール領に来てくれと頼んだ後、領内で起こっている異変について聡慈たちに語った。
「僕は医術の師から密かに逃がしてもらったのです。師はデミトール様の急変には必ず原因があるとおっしゃいました。原因が明らかになれば治療して、元のデミトール様に戻っていただけるかもしれないと。僕も頭の怪我や病気をきっかけに性格が一変した人を知っています。だから僕もデミトール様は何かご病気を患っているんだろうと思います」
そして改めて縋るように聡慈に願い出た。
「僕はデミトール様の急変に対応できる知恵を身につけようと旅をしてました。でもソージさんを見て思ったんです。この人なら僕たちの土地を、デミトール様を救えるのではないか、と。どうかお願いします! デミトール様をお治しして、僕たちを、ルガールの民をお救いください! 賢者ソージ様!」
平伏すアスクレスを見てライオホークは言いたかった。
「ソージ先生なら絶対解決してくれるよ」と。
だが彼は、聡慈がエウリアと言う孫娘のような少女との再会を切望していることを知っている。
ライオホークとしてはこのまま旅を続けることは、正直言うと望ましいが、聡慈の気持ちを考えるとそんなことを言えるはずも無かった。
ライオホークは黙して聡慈の答えを待つ。
「すまないが」
果たして、聡慈はやはりアスクレスの申し出を受け入れられないと答えた。
家族である少女と共に略取され引き離されたことを話し、その子の安否を早急に確認したいと伝えた。
それでもアスクレスは聡慈に食らいついた。
「お願いします! その子の安否を早期に確認する手配は必ずしますから! いえ、もしその子が未だ消息を絶っているのなら、ルガール領が捜索に協力することを約束いたしますから!」
今までの彼からは考えられないくらいの必死さである。
「――分かった。行こう、アスクレスさんと共に」
聡慈は迷った末、アスクレスの故郷、ルガール領へ行くことを決めた。
確かにアスクレスの言うとおり、エウリアがまだ見つかっていないこともあり得る。
そうだった時、広大な領土の領主名で捜索の協力が得られるのは非常に心強い。
既にエウリアが帰宅しているならば、自分の所在を手紙等で連絡しておけば良いだろう。
一領地の問題を自分が向かったところで解決するわけもなかろうが、縁あって同舟したこの真面目な青年には好感を覚えてもいる。
彼が不幸な目に遭うことを良しとしない程には。
彼が無謀な行いをしようとするならば、引き止めることができるかもしれない。
そんな考えをしてしまう程、アスクレスには危うさを感じた。
この時聡慈は、ラグナに戻り、名実共に真の賢者であるミルドラモンに助力を求めようとはしなかった。
一瞬、アスクレスに対して「本当の賢者がいる」と言いそうになったが、ミルドラモンを巻き込むのは忍びない。
それにミルドラモンさえいればエウリアの世話にも支障無いはずだ。
そんな考えもあり、聡慈はルガール領行きを了承したのであった。
「ありがとうございます……ありがとうございます!」
涙を溢して手を握ってくるアスクレスを、聡慈は微苦笑して宥めた。
(とても期待に添えるとは思えないが)
現実に直面した時、アスクレスを失望させてしまうのは心が痛むが仕方ない。
自分の力はそれ程大きくないのだから。
聡慈は肩の力を抜いて、深く考えることをやめた。
一方ライオホークは熱い眼差しで聡慈たちを見ていた。
(アスクレスさんは正しい選択をした! ルガール領はきっと救われるんだ!)
ライオホークは聡慈がルガール領の異変を解決すると信じて疑わない。
彼はまるで英雄の物語に入り込んだ感覚の中にいるのであった。
入間聡慈
闘級 3
体力 157
魔力 62
力 31
防御 39
速さ 32
器用 39
精神 52
経験値 110
技能
⚪︎魔言語★5
⚪︎魔視★5
⚪︎自然回復上昇・中
⚪︎魔力自然回復上昇・小
⚪︎見抜く
⚪︎反撃
⚪︎第六感
称号
⚪︎薬師★5
⚪︎被虐者(克服)
⚪︎轡取り★5
⚪︎伯楽★5
⚪︎不屈漢★5
⚪︎狩猟者★2
⚪︎逃亡者★3
⚪︎魔具職人★3
⚪︎見習い剣士★5
⚪︎見習い魔法士★5
⚪︎翻訳士★5
⚪︎軽業師★1
⚪︎医術士★1→2
耐性 毒、麻痺、睡眠、混乱、吸収、魔封
状態 自殺者の呪印、献身者の聖印




