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巡り求めて  作者: みおま ウス
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5 地獄編-4

 小鬼はリンに縄を噛ませ走らせる。

 普通の馬に乗ってはいけないのか、それともリンの姿が珍しいから面白がっているのか、小鬼が乗るのは専らリンである。


 そしてリンの世話は聡慈が行うようになっていた。

 聡慈とて何が鬼たちの気に障るか不明であったので、あからさまには世話をしなかったが、鬼たちに見咎められることは無かった。

 

 また、小鬼がリンで遊ぶ時には小鬼の跨ったリンを聡慈に引かせることが多かったが、それを老鬼が止めさせることも無かった。

 老鬼が小鬼に甘いのか、それとも薬草の備蓄もかなり増え聡慈の仕事が減っても良いと思われたかは分からない。


(轡取りというわけか。ここにもそんな小姓のような役割があるのだろうか。もしかして戦争なども、あるのか……?)



 聡慈の足腰にはリンの轡取りは堪える。

 それでもリンは上手いこと速度を調節してくれるし、一人ひたすら苦痛を与えられるよりはずっとマシだった。

 それよりも蛮族と言うに相応しい鬼たちが戦を行うとしたら。

 相手は何者なのか、何かルールはあるのか。

 新たな不安が聡慈の心に広がっていった。






 小鬼の中にも序列があるらしい。

 よくリンに乗り偉そうにしており、小鬼の中でも比較的体が大きい奴が小鬼のリーダー格だろう。

 他の小鬼たちも遠慮がちな素振りを見せる。


 その小鬼のリーダーは厄介な癖をもっていた。

 とにかくよくリンを噛むのだ。

 小鬼と言えど聡慈に近い身長で骨格は太く頑健そうな顎を備えている。

 そして口からはみ出した二つの牙。

 リンの首元の鱗だって砕くことは可能だ。


 幸いに口当たりが悪いらしく、鱗に守られた急所は無事だ。

 しかし自分の意図した動きをしないとすぐ噛みつくのでリンの体は傷が絶えなかった。




「すまないなリンよ。私に奴らに負けない力やすぐ逃がせられる知恵があれば良いのだが……気休めのこんな薬しか塗ってやれなくて申し訳ない」


 聡慈は小鬼から解放されて納屋に戻ると、汗を拭うこともせずこっそり持ち込んでいた傷に効く薬草をリンに塗ってやった。


「ファア〜」


 リンは甘えるような声を出し聡慈の腹に頭を擦りつけた。


「よしよし、次はこれでも飲んでグッスリ眠るといい」


 聡慈は既に自分には効果を発揮しなくなった眠り薬をリンに飲ませてやった。

 

 リンが眠りに落ちたのを見届け、聡慈は石臼を挽きに向かう。

 薬はいくらあっても良さそうだ。

 黙々と聡慈は薬草を調合する。

 リンのためだと考えると薬草の調合も以前よりはやり甲斐を感じられた。






 幾分か鬼たちの表情を読めるようになり、その言葉のニュアンスも予想できるようになってきた。

 音の高低までもが言葉の意味を決定する要素らしい。

 複雑だが獣の鳴き声とは違い、定まった言語体系の下に話されていることは分かる。


 自由に会話をできるなら覚えも進もう。

 だが鬼たちとコミュニケーションを取ることは藪蛇でしかない気がする。

 耳が捉える音とその場の状況、分かりづらい表情とで意味を推察し言語を覚えようとするしかない。

 老いた聡慈にとってそんな方法で言語を習得するのは、大層困難だった。


 それでも商社勤務の現役時代は各国を飛び回り様々な言語に触れた経験は伊達ではない。

 今、当時のバイタリティを呼び起こされるように聡慈は観察眼を鋭く持とうと発起する。


 聡慈がここの言語を習得する日はまだ遠そうだ。

 しかし彼の脳は新たな刺激を糧に、次々と神経の網を広げつつあった。






 聡慈が広い外の景色を見られるのは、薬草の材料を採取する時や、リンの轡を取らされる時ぐらいである。

 いつか来る集落を出て行く時のために周辺の地理や植物、獣の群生を頭に叩き込まねばならない。


(今までより観察を深くせねばならないな)


 気の抜けない日々は過ぎていく。






 そんなある日轡取りで外に出ていた聡慈は、集団で集落に戻って来る鬼たちを見た。


(ん? あんな多人数で何処かへ出かけていたのか、気がつかなかったな)


 鬼たちは手に白黒縞模様や緑色の半透明の石の飾り物などを誇るように掲げている。


(瑪瑙に翡翠か? 奴らにも宝石を愛でる文化があるのか)


 また鬼たちは何頭もの馬を引き連れており、馬たちの背には毛皮や敷物のような物が引っ掛けられている。

 確かあんな数の馬は集落にいなかったはずだ。

 再び鬼たちを見ると、興奮冷めやらぬ様子と生傷、血の跡が確認できる。


(何処からか奪ってきたようだ。――馬も毛皮も宝飾品も。盗賊行為か、はたまたもっと規模の大きな争いでの戦利品、なのだろうか?)


 相手は同じような鬼なのか、それとも自分のような人間がいるのか。

 もし鬼たちと互角の勢力がいて、この集落が襲撃される可能性があるのなら――


(いつでも脱走できるように、もっと周到に準備しておかねばならないな)


 聡慈はもっと体力をつけ緊急時の持ち出し品を蓄え、語学力を高めねばと気を引き締めた。






 その日以降、聡慈の仕事に鹵獲した馬の世話が追加された。


 馬はほとんどが聡慈の頭より低い体高で、ずんぐりむっくり型の木曽馬を一回り大きくした感じの種だ。

 力は有りそうだが脚はそれ程速くないだろう。


 馬の世話などしたことない聡慈だが、賢いリンと共に過ごす内に少しは馬っぽい動物の扱いは心得たつもりではある。


(目を見て、体の動き、特に耳の向きに気をつけるんだ)


 馬たちの耳の動きは怯えと警戒を表している。


(無理もない。アレらはあらゆるものを力任せに扱う。そしてあの破壊を楽しむ気質だ。まずはこの子らに安心してもらわないとな)


 きっと何頭かは負傷もしているだろう。

 すぐにでも診てやりたいが――

 聡慈は我慢する。

 馬たちがこの場所は安全だと認め落ち着くまで待つのだ。




 その機会は割り合いに早くやって来た。


 馬たちは聡慈に懐いているリンを見て、聡慈に害意は無く鬼たちと違うのだと理解すると、聡慈に何かを伝えたそうにジッと見つめた。


「ん? もしかして触っても大丈夫かい?」


 聡慈が馬の横からそっと話しかけると、馬は「ブルル」と静かに鼻を鳴らし円な瞳を聡慈に向けた。


「そうか……ありがとう。では最初は毛を解かせてもらっていいかな」


 聡慈はリンから剥がれ落ちた鱗とリンのたてがみで作ったクシを持ち、リンに断りを入れそのクシで馬の毛をブラッシングし始めた。


 気持ち良さそうに目を細める馬。

 リラックスしているのが伝わってくる。


「ファア、ファァ〜」

「はは、分かってるよ。次はリンの番だからな」


 甘えか嫉妬か、頭を擦り付けてくるリンを笑って宥め、聡慈は心が癒されるのを感じていた。






 暖かい日が続き、草は放っておくとすぐ伸びる。

 そのことが馬たちにはとても都合が良かった。

 どれだけ食べてもまたすぐ伸びるし、土地も十分に広い。


 ただここの気候はどういう変化をするのか。

 いつまでも青々とした草が茂ってくれるのか。

 この土地の季節や気候の変化を一から体験する聡慈は、馬たちの食料を備蓄しておいた方が良いと考える。


 そして彼は干し草を作ることにした。



 全くの手探りである。

 適当に草を刈り、天日に当てれば良いだろうか。

 そう考えたものの、草刈りは大変な重労働だった。

 それに草をある程度広げていたとは言え、やはり下になる部分には湿気があるせいなのか、上にあった草と比べるとまだ青いままだった。

 数日経過しそのことに気づき、並べ干した草をひっくり返す作業をせねばならないことを知った。


 大変だが不思議と聡慈の体はこの重労働に良くついて行った。

 もちろんここでできた初めての仲間のため、という前向きな理由もあるだろうが、それだけではない力が働いているように聡慈は感じた。



 彼とリン、そして馬たちは互いに寄り添い、助け合うようになっていった。




聡慈は称号を獲得した。【轡取り】

聡慈は技能を習得した。【魔言語】

聡慈は耐性を獲得した。【睡眠】【混乱】

入間聡慈

闘級 1

体力 50

魔力 0

力  10

防御 12

速さ 6

器用 15

精神 15

経験値 -4,310


技能

⚪︎魔言語★1


称号

⚪︎薬師★1

⚪︎被虐者★1

⚪︎轡取り★1


耐性 毒、麻痺、睡眠、混乱


状態 自殺者の呪印、献身者の聖印

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