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巡り求めて  作者: みおま ウス
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47 探索の旅(王国編-13)

 体内の異物を取り去り、容態の安定した水夫に周囲で見守る者たちが沸いたのも束の間。

 船の浸水は段々と増えて来ており、いずれ沈むのを避けられないことは明白だった。


「緊急脱出用の小舟を出す」


 水夫たちはそう判断した。

 真っ先に出す小舟には恩人である聡慈と青年を乗せることになった。

 三人乗るのが精一杯の小舟で、ライオホークを入れると操船できる水夫が乗れなくなってしまう。


「大丈夫、陸地に行くぐらい僕が舟を操ってみせますよ」


 すっかり聡慈に好意的になった青年が櫂を取って自信ありげに申し出た。


 水夫たちは負傷者を抱えながらのギリギリの乗船になりそうだ。


「気をつけてなー!」


 それでも水夫たちは、他の小舟を出しながら遠ざかる聡慈たちに声をかけていた。

 聡慈たちは手を振って彼らの無事を祈るのであった。





「アスクレスさん、岸から遠ざかってるんじゃないかな?」


 ライオホークが不安そうに尋ねる。


 医師見習いの青年、アスクレスは首を傾げ櫂を漕いでいる。


「想像よりずっと難しいんだよ、これが。――よいしょっと!」


 アスクレスが細腕で小舟を岸の方へ押し出すように櫂を漕いだ。

 少し小舟が揺れただけで、全く方向が変わった気がしない。


「想像って……経験者じゃ無かったんだね」

「ええ〜っ! ちょっと俺代わった方がいいですかソージ先生?」

「ちょっと、ホント難しいんだから。リオもやってみなよ」


 小舟を出す時の自信は何だったのか。

 聡慈は肩透かしを食らったような気分で苦笑し、ライオホークは呆れる気持ちを隠しもしない。


 アスクレスは口を尖らせて櫂をライオホークに渡した。


「せーのっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……」

「ちょっとちょっと! 揺れてる揺れてるよ! 転覆しちゃうってば」


 思い切り水を掻くライオホークだが、小舟が揺れるばかりで進路が変わる様子はない。

 アスクレスは声こそ慌てているが、表情はそれ見たことかと言わんばかりである。


「〜〜〜っ」


 ライオホークは悔しそうに櫂を見つめる。


「素人三人ではどうしようもなさそうだな。二人ともいざとなったら着衣で泳げるか?」


 聡慈の問いに二人は揃って首を横に振った。


「じゃあ舟が転覆したら速やかに舟にしがみついて服を脱げるように気をつけていよう」


(気休めだよなぁ)


 聡慈は自分の言葉の軽さに自分で呆れたが、転覆したら剣もちゃんと手放そうと心構えだけは整えるのであった。







 川下へと吹く風が強さを増した。

 目的地から遠ざかって行く自分に聡慈は泣きたい気持ちになった。

 もうライオホークの町は通過しただろうか。

 岸も見えないし、このまま流されて海へ出てしまったら生きて帰れるかも怪しい。

 何とか岸へ辿り着かなければと聡慈は風の魔法を使い始めた。


 流れに逆らうと舟が揺れてしまう。

 多少加速してしまうのも仕方なしと、舟が僅かでも西へと向くように風を出す。


 ライオホークとアスクレスには、体を休めておくように指示をした。


 そして一夜明けた。






 昨日とは一転、南から穏やかな風が吹く爽やかな晴天。

 微かに潮の香りを感じる所まで来てしまったが、小舟は陸地近くまで来ていた。


 しかし――


「こんな切り立った崖みたいになってたら接岸できませんよ〜」


 断崖で上陸が難しそうな地形だ。

 アスクレスは泣き言を漏らした。


「ああっ、ソージ先生! あれ、あそこ見てください! 壁に穴が空いてますよ!」


 いよいよ小舟から飛び降りるか、そう思っているとライオホークがちょうど岸壁に空いた洞穴のような場所を見つけた。


 櫂を振り回すようにして何とか小舟を

ゴツゴツした岩肌の洞穴にねじ込んだ。


 三人は小舟から降りると、風も来ずに暑くも寒くもないその場の空気に一気に緊張が解けるのを感じた。

 聡慈とライオホークは壁にもたれかかり、アスクレスは鞄を枕にして横になって、三人とも眠ってしまった。






『〜〜……、、』


 どれ程眠っていたのか、聡慈の耳が話し声を捉えた。


(ん? 今のは、魔言語だったか?)


 寝ぼけていたが、考えると野人種の言葉と違ったような気がする。

 聡慈が起き上がるとガサガサという物音が遠ざかって行くようだった。


『すまない、ここは入っては行けない場所だったか?』


 聡慈は声を上げた。

 またガサガサと物音がする。今度は近づいて来ているようだ。


『野人種なの? 私たちの言葉を話せるのかしら?』


 出てきたのは二人。

 身長八十センチメートル位の二足歩行する魚肌の男女だった。


 魔人種“水辺の人”である。


『ああ、話せるよ。三人で舟に乗っていたんだが流されてしまった。危うく海に出るところだったが、横穴を見つけてここに入らせてもらったんだ。三人とも疲れて知らない内に寝てしまっていたみたいだ。邪魔なら彼らを起こしてすぐに出て行くよ』


 聡慈は頭を下げて返事を待つ。


『どうする姉さん?』

『いいんじゃないかしら。悪い人たちでは無さそうよ』


 二人は姉弟のようだ。

 華奢な鮎肌が姉で、シャープな太刀魚肌が弟だ。

 鮎姉が聡慈に向かい首を傾ける。


『ここも私たちの部屋の一つだけど構わないわ。病人がいるからおもてなしはできないけど、休むぐらいならどうぞ。ゆっくりしていって』


『ありがとう。だがそろそろ彼らも起きていい頃合いだ』


 聡慈はそう言ってライオホークとアスクレスを軽く揺すった。

 そして目を覚ました二人に(アスクレスは驚いていたが)事情を話し、“水辺の人”の姉弟を紹介した。






「ソージさんはやはり凄い人なのですね! 魔人種と会話ができるなんて」


 アスクレスは大蛸に襲われた船上の出来事や漂流を通して聡慈に敬意を向けつつあった。

 それが今“水辺の人”と普通に会話をしているのを目の当たりにして確実な尊敬へと進化した。


「だから何度もそう言ってるじゃないかアスクレスさん! でも先生、俺せっかく魔人種と会えたのにまだ魔言語よく分からないです……」


 ライオホークは小舟の上で何度も聡慈の偉大さをアスクレスに説いていたので、それが証明されたようで鼻高い気分だ。

 ただし“木陰の人”以来の魔人種との邂逅なのに、未だ魔言語が分からないと残念がってはいる。


『じゃあしばらくここにいてもいいけど、あまり騒がないでよ。さっきも言ったけど病人がいるんだから』


 鮎姉が釘を刺したので聡慈は思い出した。


『そうだ、こちらには見習いらしいが医師がいる。彼にその病人を診察してもらったらどうだろうか』

『あ〜、そうね。でも、病気って言うかね……』


 何故か鮎姉は言い淀んで弟を横目で見る。


『姉さん、体面を気にしてる場合じゃないって。このまま放っておいても治りっこないんだから』


 太刀魚弟は嗜めるように姉に言い、聡慈たちに向き直った。


『病人って言ったけど、おかしいんだ。薬が効かない。呪いじゃないかって言う人もいる。でも誰にも感染してない。もし分かるならどうか見てやってほしい』


 何かを訴える眼差しに困惑していたアスクレスは、聡慈から通訳を受け驚いた。


「ちょ、ちょっと聡慈さん! 僕をどんな風に紹介してくれたんですか!? 僕はまだまだ見習い、しかも呪いとか専門外ですよ〜!」

「まあまあ、見てもない内から決めるものではないよ。彼らの家で休ませてもらったんだし、一度見てやってもらえないかい? 三人寄れば文殊の知恵って言うじゃないか」「え、何の知恵ですって? ――も〜、分かりましたよ」


 聡慈が頼むし、魔人種姉弟の視線も気になるのでアスクレスは要望に応えることにした。


「解決しなくても文句言わないでくださいよ……」


 気弱に独りごちてアスクレスは姉弟、聡慈に続いて病人の元へ歩いて行く。


 ライオホークは揶揄うように彼の尻をグイグイと後ろから押していた。

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