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巡り求めて  作者: みおま ウス
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41 探索の旅(王国編-7)

 森を出るとなだらかな上り坂が広がっていた。

 自然と見上げるような姿勢になり、一羽の鷹が飛んでいるのが見える。


「ソージ先生、あの鳥の方向に、町があります」


 ライオホークが指差した方も周りと同様に先は見えない。

 彼が言うにはあの先はなだらかな下り坂になり、また上り坂と波打つような地形が続き、二、三日歩くと町に着くらしい。



 青々とした草が一面に生えている。

 長くても三十センチ程しかない丈の低い草で、足を取られることもなくフカフカの感触が気持ち良い。

 青い空、頬を撫でる涼風、広がる緑の絨毯、足に伝わる感触。


(エウリアをピクニックに連れて来たら喜んだだろうな)


 聡慈は悲しげに微笑んだ。


「ソージ先生、どうしたんですか?」


 ライオホークは聡慈の憂いげな表情を心配そうに見た。


「ああ、そうだな。リオ、共に行くお前には私の目的を話しておかねばならんな」


 エウリアのことは、“木陰の人”には頼んでいたがライオホークには話していなかった。

 うっかりしていたと自分の頭を叩いて聡慈は話し出した。






「エウリア、ですか」


 聡慈から事情を聞いたライオホークは自分の境遇を棚に上げて、不遇な少女に同情していた。


(赤ちゃんの時に捨てられて、触るだけで人の力を抜き取ってしまう――どうしようもないじゃないか。なんて可哀想な子なんだ)


 そして、それと同時に聡慈に尊敬の眼差しを向けた。


(そんな子を育ててきたなんて、やっぱりソージ先生はすごい人だ!)


 魔人種という人々の言葉を話し、薬を作り、狩りもできて、魔物と戦う勇気もある。

 聡慈の闘級が低いことをライオホークは知らない。

 それもあってか、今まで比べられるほど人と関わることができなかった彼にとって、聡慈はスーパーマンであり、自分を救ってくれた神のような人物であった。


「ん、どうしたリオ?」


 聡慈はライオホークのキラキラした眼差しを怪訝に思った。


「いえ、可哀想な子だと思って。俺もエウリアを探します」


 恥ずかしいので聡慈に対して思ったことは伏せた。


「そうか、助かるよ。ありがとう」


 やはり他人を思いやれる心根の持ち主だ。

 聡慈はライオホークを見て、今度は嬉しそうに微笑んだ。






「さあ休憩だ。字の練習をするか」

「はい! あ、あと、“木陰の人”の言葉、俺も使いたいです」


(お? 学習意欲が出てきたか。いいことだ。鉄は熱いうちに打てと言うし、断る理由は無いな)


「よし、ならば道中歩きながら勉強しようか。魔言語は難しいが、時間はたっぷりある。焦らず覚えていけばいい」

「はい! ありがとうございます!」


 ライオホークは嬉々として返事をし、一層やる気を出して地面に向かい文字の練習を続けた。



 また、聡慈が木刀で素振りをしているのを見たライオホークは、剣術も学びたいと申し出た。


「私は正式に剣術を習ってないから我流になるが、それでもいいのか?」


 聡慈が言ったのは、ここの世界での一般的な剣術を習ったことがない、と言うことである。

 もちろんライオホークにはそこまで伝わらない。

 目に映る力強く流れるような体と木刀の動きが全てなのだ。


「俺は、ソージ先生に教えてほしい、です」


 聡慈には、目を輝かせるライオホークの申し出を断ることはできなかった。


「分かった。身を守る術は身につけて悪くないだろう。剣道と、護身や制圧の術も練習しながら行こうか」


 元の世界で熱心に取り組んだ剣道は自信を持って教えられるが、護身術の類は古武術を少し学んだ程度だ。

 それでも受け身や体の構造、理を覚えておくのは悪くはないだろう。

 聡慈はライオホークに剣道だけではなく、古武術も教えることになった。






 遠目だが建物が見えるようになって来た。

 明日の昼までには町に着きそうだ。


「よし、今日はここまでにして休みに入ろう」


 危険な獣にも遭遇しなかった。

 食糧にも余裕がある。

 聡慈はほっとして、少し早めに足を休めることにした。



 多めの食事で腹を満たし、焚き火の近くでライオホークと眠りに就いた。






「せ、先生! 先生、起きてください!!」


 夜中、ライオホークが慌てて聡慈の体を揺さぶった。


「なんか変な人たちに囲まれてます!」


 聡慈は飛び起きたが、周りを見て落ち着いた様子で言う。


「大丈夫だ。あれは死腐人と言って――」


 聡慈は知っていた。

 自分たちを囲んでいる三つの影は人型の魔物の一種である。

 皮膚が爛れたような外見と、体全体から発しているかのような低い呻き声が不気味な魔物だ。

 ただ、夜中しか出ないし、火には近づいて来ない。

 積極的に倒さなくても火種さえ消さなければ放置しても害は無い魔物である。


「火が苦手だし、放っておけば……」


 その内いなくなるから、と聡慈が言う前に


「火、火が苦手なんですね!」


 ライオホークはパニックを起こし、魔石を魔物に向かって投げつけ焚き火を蹴りつけた。


「お、おいやめろリオ!」


 ライオホークのまさかの行動に聡慈は慌てて起きた。


 しかし時既に遅し。

 火は消えて魔物は聡慈たちに敵意を向け、ライオホークは手足をヤケドして蹲っている。


(これはいかん……いくら死腐人の足が遅いとは言え、リオを背負っては逃げ切れんぞ)


 しかも今まで火の近くにいたため目がまだ暗闇に慣れていない。

 聡慈は冷や汗をかいた。


「〜〜、すいません、ソージ先生……うっ」

「あいつらは鈍いが力は強いからな。掴まれないようにするんだぞ」


 今は下手な慰めは不要。

 自分が抜かれればライオホークは自らで魔物に対処せねばならないのだ。

 聡慈は木刀を構え魔物の方だけを見た。






 木刀の横薙ぎが魔物の一体を打つ。

 大槌で俵を打ったような重い手応えが聡慈に返って来た。

 今までにない自分の力強さに驚く。


 しかし魔物は体をへし折られながらも前進を止めない。

 何度も攻撃すれば倒せるだろうが、そうしている内にライオホークにまで到達してしまう者が出るだろう。

 聡慈は歯噛みした。


(くっ、こんな時ドラさんなら魔法で打開できるだろうに……はっ!?)


 ミルドラモンの魔法を思い出した時、聡慈の脳裏にふと魔法陣が浮かんできた。


(ドラさんの指南書の、火の魔法だ……まさか……)


 聡慈は自分の体に意識を向け魔力を感じ取る。


(範囲……は魔力が足りないか。方向、大きさ、速度、属性)


 そしてその魔力で一つの魔法陣を描いた。


(射出!)


 悪寒を伴い体から魔力が抜き取られ、拳大の火球が魔物に向け飛んで行った。


 石を投げつける程度の速さだが、動きの鈍い魔物は避けられない。

 胸の真ん中に直撃し体を抉り取り、更にそこから火が広がり始めた。


「ヒヤアァァァオオォォ!!」


 甲高い絶叫と共に魔物の一体は崩れ落ちた。


 他の二体も慄いた様子で足を止めている。


 聡慈はその隙を逃さず、一気に木刀で目の前の魔物の脚を破壊すると、間髪入れずもう一体の魔物も頭、脚と連撃で打ち倒した。


(これが魔法を使う感覚か……)


 初めての魔法で加減ができなかったこともあり、聡慈の魔力は一気に底をついていた。

 気怠く感じる体を動かし、呆然とするライオホークの側へ寄って行く。


「リオ、ヤケドはどうだ? 他に怪我は負っていないか?」

「は、はい。ソージ先生、今のは? あ、そうだ。俺慌てて火を消してしまって――すいませんでした」


 まだ混乱から完全には立ち直っていないライオホークはしどろもどろに尋ね、謝った。


「魔法だ。初めて使った。火を消したことはまあ、互いに命があったのだから今後気をつければいい。さあ、ヤケドの治療をしないとな。傷を見せてみなさい」


 聡慈は鞄から薬草を出してライオホークの手当てを始めた。






 燻った薪を集めて落ち着かない様子のライオホークを宥めまた床に就いた。

 落ち着くまで起きてやりたかったのだが、体を襲う怠さには勝てなかった。

 マントの上に横になると、何も考えられずに眠りに落ちた。

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