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巡り求めて  作者: みおま ウス
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38 探索の旅(王国編-4)

 “木陰の人”たちから人食いの特徴を聞いた。


 それは熊や犬のような外見だが二足歩行である。

 聡慈と“木陰の人”の中間ぐらいの背丈で鋭い爪と牙を持っている。

 黒い靄を体の周りに漂わせ、その吠え声は“木陰の人”を竦ませ動けなくさせる。


(魔物、か?)


 説明を聞いた聡慈は思った。


(だが魔物ならば食事する必要はないはず)


 動物の体の一部や長く魔力を浴びた道具を核として、魔力が凝縮してできたモノが魔物である。

 肉のようで肉ではないその体を維持するのに食事を必要とはしないはずだ。


 聡慈は“木陰の人”に問う。


『食うと言うが、咀嚼し飲みこんでいたか? 食いちぎっていたのではないか?』


『分からない。そう言われると千切られ失われた体がモグモグと食われるところを見た者はいない。そこから逃げないといけないからな』


 “木陰の人”は答えた。

 被害の大半が木の実などを集めに村の外に出て、突然出くわして体を噛みちぎられ或いは爪で払いちぎられたものだ。

 食事風景を観察している暇は無く、可及的速やかに逃げなければならなかった。


(核となった動物と似たような行動を取ることが多いと言うし、もしかしたら魔物だったとしても食うことはできるかもしれないな)


 どのみち肉食の獣と同等に見なさねばならないだろう。もしそうだとしたら――


(罠にかけるしかないか)


 鋭い刃の剣も、厚い鉄の斧も無いのだ。

 聡慈は対処の方針を決めた。






 罠にかけることにしたものの、ここにはロクな道具が有りはしない。

 落とし穴を掘れるシャベルは無い。

 馬防柵の槍部分を切り出せるだけの刃物も無い。


 聡慈は毒を調合することにした。

 効果があるのか心配な面はある。

 また、心理的な抵抗はどうしても感じてしまう。

 それでも武器らしい武器が先端の尖った石程度のみであるため、割り切ることにしたのである。






「ライオホーク、兎を捕ることはできるか? 生け捕りがいいのだが」


 少年――ライオホーク――に主要な任務をさせなければならない。

 聡慈は一つ計画を考えてライオホークに尋ねた。


「やったことない、ません」


 ぎこちない返答だが、丁寧な言葉を使おうとしているのは伝わる。


(幼年期は礼儀正しくするようしつけを受けたか、それなりの教育を受けていたのかもしれないな)


 みすぼらしい外見だが、好感を持てる性格だと思う。


「そうか。ならば“木陰の人”たちと協力して捕獲を試みてくれないか」


 ライオホークと“木陰の人”の間に言葉が通じないことを分かっていて聡慈は言った。


「分かり、しました。やってみ、ます」


 ライオホークの返事を聞いて、聡慈は満足そうに微笑んだ。






 ――兎のような小動物を捕まえ毒を仕込んだ上、薬で錯乱させ魔物の前に放り出す。魔物が兎を食うならば、魔物は強力な毒を摂取することになるし、もし食わなくても破裂した毒袋から飛散した毒が魔物を襲うだろう――


 聡慈がライオホークと“木陰の人”に示した考えはそのようなものであった。

 聡慈は混乱を招く毒と、神経に異常を来す毒を調合すべく植物採取を始める。


 そしてライオホークと“木陰の人”たちは言葉が通じないながらも、兎の罠を仕掛けたり直接捕まえに行ったりすることに協力して取り組み始めた。






 ライオホークと“木陰の人”で互いの言葉は全く通じない。

 しかし互いに真剣であることは言葉を交わさなくても伝わってくる。


 特にライオホークは一人の“木陰の人”と親しくなりつつあると感じていた。

 子どもの遺体を埋めた地面の前で跪き泣いていた“木陰の人”である。



 ライオホークは“木陰の人”の顔を見分けられず、声も聞き分けられなかったが、その“木陰の人”の顔についていた二本の傷で彼を認識した。


 ライオホークが聡慈に教わった罠を懸命に作ろうとしている隣で、二本傷は同じように罠を作る。

 二本傷は時々ライオホークの背中を叩いた。

 ライオホークには表情が読めないので最初は要領の悪い自分に怒っているのかと悲しくなった。


 だが聡慈は言った。

 二本傷はライオホークを励ましているのだと。

 子どもなのだから気にせず学べと言っているのだと。


 そう言われると、同じ叩かれるという行為にも温かみを感じるから不思議なものだ。


 ライオホークは聡慈の助言で、自分も機会を見て二本傷の背中を同じように叩いてみた。

 相変わらず表情は分からなかったが、二本傷が好意的な感情を向けてきたことは分かった。


 ライオホークが上手くできないことは二本傷が手を貸し、二本傷ができないことはライオホークが手を貸した。


 その時からライオホークは二本傷に親しみを抱くようになったのである。






 兎を捕えるまで後一歩のところまでには来ている。

 しかしまだ一羽も捕らえられずにいた。

 幸運にも魔物に遭遇しないで五日目。

 聡慈は必要な植物を全て集め毒などを調合し終えた。


 今日から兎の捕獲に参加しようと話し合っていたところである。


『魔物が現れた!』


 悪報がもたらされたのは“今から仕上げの段階”ちょうどそんなタイミングだった。


 混乱する“木陰の人”たち。村にはまだ逃げ足の遅い幼児もいる。


(まずは魔物の姿を見ねば)


 聡慈がそう思い木刀を手にした時、二本傷は突然毒の入った袋をひったくり走り出した。


『あ、な!?』


 その場の誰もが不意を突かれ反応が遅れた。


「待って!!」


 ライオホークは後を追う。


(くっ!)

『私が行く! 追って来るな!』


 二本傷は魔物に一矢報い、自らを犠牲にしてでも仲間を逃す時間を稼ぐつもりだろう。

 だができれば彼のような勇敢な者を失うのは惜しい。

 ライオホークもこれからきっと、その輝く魂に見合う成長を遂げる将来がある。

 いざとなったら毒を全てばら撒いて逃げる。

 その効果も確かめる機会と思えば良い。

 聡慈は一つ一つ言い訳をするように二本傷とライオホークを追って行った。






 ライオホークと聡慈は遠目だが魔物の姿を視認した。


 熊と犬の合いの子のように丸みを帯びて鼻の突き出た顔。

 聡慈の胸ぐらいまでの身長だが太い腕や分厚い体、それに鋭い爪と牙は野生の獣と変わらない脅威を放っている。



 そして二本傷は何のフェイントも無く、ただ無防備に魔物の前に踊り出た。


 魔物は嬉々として二本傷に襲いかかり、柔らかそうな首元を食いちぎった。


「あぁぁあああ!!」


 ライオホークは悲鳴を上げ二本傷に駆け寄り、血が噴き出る彼を奪うように抱き上げた。


「何で! 何で!!」


 泣き喚くライオホークに二本傷は何も言わず、魔物の方を指差した。



 魔物は苦しそうに呻いている。


 二本傷が自分の肉に紛らせ、毒を一緒に食わせたことが分かった。

 期待した程ではないが毒の効果はあったのだ。

 目をやられたのかデタラメに腕を振り回す。

 そしてライオホークが二本傷を抱えた時、魔物はヨロヨロと迫り彼らに腕を振り下ろそうとしていた。



「うっ!」


 動揺し硬直していたライオホークは横から突き飛ばされた。


 割って入ったのは聡慈だ。

 腕を浅く切り裂かれたが動きを鈍らせる様子は無い。


(掠っただけでこの傷、やはり相当に力は強い。だが……毒も効いているようだ)


 倒すなら今、聡慈は木刀で魔物の鼻を何度も殴りつける。


 しかし魔物はタフだ。

 血の代わりに魔力の粒子を鼻から飛び散らしつつも倒れる気配は無い。

 また、早くも毒が薄れてきたのか目も薄らと開いてきた。


 このままでは倒すよりも先に反撃をくらいそうだ。

 聡慈はある決意をして声を上げた。


「ライオホーク! 今から魔物に隙を作る! 見逃すな!」


 聡慈は魔物に連打を浴びせる。


 とうとう魔物は片目を開けた。


「グワアァァアァァ!!」


 大きく息を吸い彼に浴びせた咆哮は彼を突き抜け後ろの木々を震わせたように見えた。


 戦闘の行方を陰から見ていた“木陰の人”たちは、聡慈が例の咆哮をまともに食らったと思った。

 一方的に攻撃していたのにここまでか。

 彼らは諦め絶望に落ちようとしていた。

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