33 平穏な日々編-12
「ふぅ、終わった〜。ドラおじいちゃん、ウクイエッタの所に行ってくるね」
「ふむ、気をつけて行っておいで。遅くならんように帰って来るんじゃぞ」
「はぁい!」
聡慈愛用の“魔法の手引書”はエウリアの文字学習の教材でもある。
書き取りを終え、エウリアは宿を出る。
魔大陸からラグナに来て六年近くが過ぎた。
ラグナの海臨亭は実質の宿経営をやめていた。
今では食堂として店を営業しているが、聡慈たち三人だけは一室を借りたまま。
間借り型の下宿のような感じで住まわせてもらっている。
食堂はランチもディナーも中々の盛況ぶりだ。
ナムフェイが厨房で腕を振るいフィネがその補助と接客を兼務する。
シャジエは接客専門だが、空いた時間に料理修行もしている。
彼女もすっかり店の看板娘である。
酒は控えめながらも店が繁盛しているのは、味の優れた料理、海辺の良い景色がカップルやマダムたちに受けていること。
更に若い男の中にはシャジエを目的に来る者や、年配層はエウリアやウクイエッタを孫のように可愛がる者もいての盛況なのである。
「エウリア〜、ウクイエッタによろしく〜。今日手伝ってくれたらおやつは苺たっぷりの平焼きだよって言っといて〜」
「やったぁ! じゃあすぐ戻って来るねシャジエお姉ちゃん!」
エウリアは嬉しそうに走って行った。
「いつもすまんのう」
ミルドラモンはテラス席に腰掛けてお茶を飲み、言った。
「いいんですよ。あの二人を目当てに来る人もいるんですから。……たまにエウリアを変な目で見る男の人がいるのは気になりますけど」
「あの子も随分キレイになったからねぇ。あたしたちが気をつけてやらないとね」
「ワシの目の黒い内は大丈夫じゃて」
「あっはは、そうだろうねぇ」
晴れた日の海によく映える銀髪、優しい眼差し、通った鼻筋と桜桃のように瑞々しい唇。
エウリアは誰もが将来を楽しみにする位に美しく成長している。
また聡慈とミルドラモン譲りの勤勉さがあり、魔言語を話せ魔法の知識は大人顔負けだ。
木刀の素振りも続けており剣筋は剣士の卵のものである。
彼女を実の娘とも孫とも同じに思っているミルドラモンは、この六年の間にラグナの町の者たちに、愛娘を害する者は許さぬという態度を明確に示してきた。
また、彼女に娘の命を救われた薬屋をはじめ、その常連客、ラグナの海臨亭の客など彼女を守ろうという意識の高い者も多い。
よってこの町では彼女の安全は保証されていると言っても過言ではないのだった。
「こんにちは!」
増築され規模を拡大させた薬屋は、エウリアにとっては大好きなおじいちゃんの職場であり、妹分の自宅だ。
「おっすエウリア嬢。今日も髪が眩しいな」
「こんにちはエウリアちゃん。いつも元気ね」
「こんにちはマッスォさん、こんにちはメグムイさん」
常連客に挨拶して店の様子を見る。
今聡慈は奥で薬草を挽いているのだろうか、カウンターに出ているのはウクイエッタの母オクアルだ。
「いらっしゃいエウリアちゃん。さあ上がって。ウクイエッタのお仕事はもうすぐ終わるわ」
「ありがとう、おじゃましま〜す」
出産の手伝いをしてからというもの、オクアルとナンブットゥ夫妻はいつ訪ねても大歓迎してくれる。
ウクイエッタが可愛いので訪問するのはしょっちゅうだ。
赤ん坊の時には抱っこをさせてもらったし、オムツだって替えさせてもらった。
自分が赤ん坊の時に寝ていた籠を使ってもらい、その中に収まるウクイエッタの寝顔はいつまでも飽きずに見ることができた。
そんなウクイエッタももう五歳半近く。
今では少し生意気なことも言う遊び相手である。
お手伝いをしているなら、少し物陰から見ていてやろう。
勝手知ったる家屋を忍び足で歩いて製薬の作業場へと向かって行った。
エウリアが来る前、ウクイエッタは小さな体にエプロンを着け、液体に薬草を投入しながらかき混ぜていた。
魔力の気配がある。
彼女は生まれながらに魔力を持っており、最近は魔力量も増えたことから命の水を作れるようになったのだ。
彼女が扱えるのは白い魔力が大半であるため、作れるのは命の水だけであるが、その品質はナンブットゥが作るものより優れているぐらいだ。
幼な子が命の水を作っている話はジワジワと広まった。
命を救う薬を作れることを回復の魔力に長けたティディエルの聖女になぞらえて、今ではウクイエッタのことを“未来の聖女”と呼ぶ者も出るようになっていた。
(あ、やってるやってる)
柱の陰から覗き見るとウクイエッタが真剣な顔で大鍋をかき混ぜている。
ナンブットゥがその様子を締まりのない顔で眺めているのはいつものことだ。
(フフ、またナンブットゥおじさんデレデレしちゃってる。ま、でもしょうがないか。ウクイエッタかわいいもんね)
幼児独特の丸みを帯びた頬のラインを眺めニコニコするエウリア。
(あ、ソージおじいちゃーん)
薬草を挽く聡慈と目が合い手を振った。
「あ、エウリアお姉ちゃん!」
ちょうど調合を終えたウクイエッタが聡慈の視線を辿りエウリアを発見した。
「遊びに来たよウクイエッタ、ソージおじいちゃん。おじゃましますナンブットゥおじさん」
「よく来たねエウリアちゃん。ウクイエッタお手伝いありがとう、さぁエウリアお姉ちゃんと遊んどいで」
「うん! ねぇお姉ちゃん今日は何するの?」
「今日はね、シャジエお姉ちゃんがおやつ用意しててくれるんだって」
「やったぁ! ……あ、じゃあリンとも遊べる?」
ウクイエッタはリンに乗るのが大好きだった。
「うーん、今リンはちょっと調子悪いみたいなんだ。お見舞いだけにしてあげてね」
「そうなの? リン大丈夫?」
「うん。たまにあるんだ。ドラおじいちゃんは、ちょっと魔力が乱れてるだけだから大丈夫だって言ってるよ」
「そうなんだ。じゃあお見舞いする。お父さん行ってきまーす!」
少女二人は元気に店を出て行った。
「ウクイエッタは活発な子ですね」
作業を続けながら聡慈とナンブットゥは雑談する。
「ええ、お陰で家がいつも明るいですよ。いつも構ってくれるエウリアちゃんにもいい影響を受けているようで。あの子には本当に感謝してもしきれません」
「お産の時こそどうなるかと思いましたが、あれからもう五年半近くですか。月日が経つのは早いですね。歳のせいでしょうか」
「はは、ソージさんは変わらないですよ。いえ、それどころか最近思うんですが、むしろこちらへ来たばかりの頃よりも若々しくなってないですか?」
「お世辞が上手いですよナンブットゥさん。でもエウリアが大人になるまでは元気で居たいですからね」
聡慈はもうすぐ九十歳になると言う。
だがナンブットゥはそれを信じられず、聡慈の冗談だと思っている。
どう見ても六十歳ぐらい、見方によっては五十代でも十分通じるのだから。
一方聡慈はナンブットゥの言葉をお世辞と言っておきながら、自身の中ではまた体力が向上したように感じていた。
あまり年齢のことを考えるほど毎日暇ではないが、エウリアのことを考えるとありがたいことである。
「ところで聡慈さん、そろそろエウリアちゃんの誕生日ではないですか? 今年は何を贈られるんですか」
「おお、そうですね。ううん、どうしますか。あまり子どもっぽい物は嫌がりますかね」
そんな雑談も終えた頃、ウクイエッタが薬屋に帰って来た。
聡慈も仕事を終えエウリアと帰路に就く。
エウリアのプレゼントを何にしようかと周囲を観察しながら歩く。
ふと聡慈は充実した毎日を送れているとしみじみと思った。
だが同時に僧衣を着た者や鎧を着けた者が多いことに気がついた。
穏やかな町にそぐわない緊張を感じさせる。
(身分の高い人でも来るのだろうか)
聡慈の目には鎧の者たちの一部が持つ、杖と杯の紋章が映っていた。
聡慈は【被虐者】を克服した。
聡慈は称号を獲得した。【翻訳士】
聡慈は技能を習得した。【薬効果上昇】、【第六感】、【自然回復上昇・小】、【魔力自然回復上昇・小】
聡慈は耐性を獲得した。【魔封】
入間聡慈
闘級 1
体力 57
魔力 0
力 13
防御 15
速さ 10
器用 19
精神 19
経験値 -50
技能
⚪︎魔言語★5
⚪︎魔視★5
⚪︎自然回復上昇・中
⚪︎魔力自然回復上昇・小
⚪︎見抜く
⚪︎反撃
称号
⚪︎薬師★5 (成長時加算:魔力+10、精神+3、技能習得【薬効果上昇】)
⚪︎被虐者(克服)(成長時加算:体力+20、防御+5、精神+5、技能習得【第六感】)
⚪︎轡取り★5
⚪︎伯楽★5
⚪︎不屈漢★5
⚪︎狩猟者★1
⚪︎逃亡者★2
⚪︎魔具職人★3 (成長時加算:魔力+5)
⚪︎見習い剣士★5 (成長時加算:体力+5、力+2、防御+1、速さ+1、技能習得【自然回復上昇・小】)
⚪︎見習い魔法士★5 (成長時加算:魔力+5、器用+1、速さ+1、精神+1、技能習得【魔力自然回復上昇・小】)
⚪︎ 翻訳士★5 (成長時加算:魔力+5、器用+2、速さ+1、精神+1、耐性獲得【魔封】)
耐性 毒、麻痺、睡眠、混乱、吸収、魔封
状態 自殺者の呪印、献身者の聖印




