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巡り求めて  作者: みおま ウス
32/164

32 平穏な日々編-11

「さあ、こちらです。リン、よく連れて来てくれた。ありがとう」


 通りで待機していた聡慈がリンと並走して宿の入口に来た。

 リンは聡慈に頬擦りすると、伏せて夫妻を降ろしてやった。


 オクアルは大きく息を吐く。

 顔色が青い。

 陣痛が始まったようだった。

 多少なりとも揺られたことが刺激になったのだろう。


「よろしくお願いします!」

「任せときな! さあこっちだよ!」


 ナンブットゥの背中に勢いよく張り手を食らわせて宿の女将フィネがオクアルに肩を貸す。



(なんで苦しそうなの? 生まれるから楽しいんじゃないの?)


 エウリアはここにきて初めて不安を感じた。

 あれほど嬉しそうだったオクアルが痛みに顔を歪めている。

 赤ちゃんは本当に生まれて来るのだろうか。

 ミルドラモンの脚に抱きつき震える。


「大丈夫じゃ。赤ん坊が出て来ようと一生懸命頑張るから母親も頑張っとるだけじゃ。さ、ワシらはワシらにできることをしようぞい」


 ミルドラモンに抱き上げられたエウリアはコクンと頷いた。


 彼女に合わせるように集まった者たちも動き出した。


 オクアル、ナンブットゥ、産婆、フィネは二階の部屋へ。

 他の者は一階のリビングで待機することになった。






「う、ううぅっ!」

「ほら、手を握ってやんな!」

「は、はい」


 陣痛が始まり二時間が過ぎた。

 もう陣痛の間隔はかなり短くなっている。

 痛みが襲う度にオクアルのか細い手がナンブットゥの手を潰しそうな程に力強く握る。

 ナンブットゥはその力に驚き、出産の苦しみを思い知った。


「こりゃあお産まで随分早そうだねぇ」

「さあダンナさんはここまで! 後は女の戦いさね!」


 産婆とフィネは出産がもう間近だと告げナンブットゥを部屋から出した。






 妻の呻き声と荒い息遣い、産婆たちの激励の声を聞きながらナンブットゥは部屋の外で祈る。


「んんんーーーーー!!」

「もうすぐだよ! それ、いきんで!」


「ああああぁぁぁぁっ!」


「うううぅぅぅぅ!!」


(オクアル! あぁ神様! どうか無事に生ませてやってください!)


 赤ん坊が出かかっているらしい。

 緊張で弾けそうな雰囲気が扉越しに伝わってくる。

 待つだけのナンブットゥはとうとう床に膝を突いた。


 その直後




「ああ何てこったい! それ、泣いておくれ! 泣くんだよ!!」

「赤ちゃんは、赤ちゃんは……!? ひぐっ……うぐっ……」



 産婆たちの必死な声と息絶え絶えの妻の悲痛な声に、ナンブットゥは我を忘れて部屋に飛び入った。




「!?」


 一瞬顔を背けたくなる程の眩い光が視界を覆い、その後布団を掛けられ顔を覆う妻が、動かない赤ん坊の尻を叩く産婆たちが目に入った。



「オクアル……どうしたんだい……ねえ」


 まさか、生まれた赤ん坊が死――

 ナンブットゥは恐ろしい想像をかき消して妻に尋ねる。

 妻からは嗚咽が返ってくるだけだった。






「ナンブットゥさん! オクアルさん! 今入っても構いませんか!? ……シャジエ、フィネさんに聞いてきてくれるか!」


 何らかの異常が起きていると察知した聡慈たちが部屋の外から声をかける。



「いやいいよ、入って来とくれ!」


 死産に近いと言っても過言ではないような状況。

 だがフィネは聡慈たちを招き入れた。

 赤ん坊に僅かながら生命力の欠片を感じたためか、それとも言い知れぬ直感に突き動かされたのか。



「これは……魔力障害か!!」


 駆け寄ったミルドラモンが目を見開いた。


「ドラさんそれは!? 治療の方法は!?」

「幼くして魔力を持ってしまった子がかかるものじゃ。症状は過呼吸、発熱、麻痺、低体温、他にもある。魔力の質によって様々でそれに合わせた対処をせねばならんが、一度症状を緩和させれば次からは体が魔力に馴染んでくれるはずじゃ」


 聡慈の問いに、赤ん坊の様子を観察しながら早口で呟くように話す。


「ソーさんなら見えるじゃろ? この子の魔力が。この子の症状は、恐らく回復能力の強化じゃ」

「これか……見たことも無いぐらいに真っ白な」


 確かに聡慈の目には白い粒子が、行き場を失ったように赤ん坊の胸の辺りを渦巻く様子が映っている。


「回復能力の強化は、元々相当に体の強い者でないと受け入れることはできん程に負担が大きい。赤ん坊ではそれこそ命に関わるじゃろう。きっとこの子はその強化を防ぐために、身体の機能自体を止めてしまったのではないじゃろうか」


 生きるために死ぬことを選ばなければならない。なぜ生まれたばかりでこのような悲運に見舞われなければならないのか。


「あの、この子は――対処して症状を緩和すればいいんですよね!? じゃあ、魔力を枯渇させれば……!」


 ミルドラモンは期待の眼差しを向けるナンブットゥとオクアルを見ることはできなかった。


「魔力が無くなっても既に過剰回復の作用は働いてしまっておる……それ故の今の仮死状態なのじゃ」

「そんな……ではこの子は死ぬのを待つだけではありませんか!」


 ミルドラモンに怒りをぶつけるのは筋違い。

 それが分かっているからこそナンブットゥは誰にともなく大声を上げるしかなかった。


 集まった者たちはナンブットゥたちの悲しみを思い、誰も何も言うことができず下を向くばかりであった。






「エウリアおいで」


 シャジエに釣られて泣きそうになっていたエウリアが顔を上げた。


 微笑んだ聡慈にその手を引かれて来たのは、まだ胎脂も落ちていない赤ん坊の側だった。


「エウリア、ネックレスを外しておくれ。ドラさん、エウリアだけでは加減はできないだろう。上手く調整してやってくれないか」


「え? ……うん…… 分かった!」

「そうか! 分かったぞい! エウリア、大丈夫じゃ! ワシらがついてるからの」


 エウリアはネックレスを外した自分が能力を制御できないことを知っている。

 しかし今、聡慈の言わんとしていることを正しく理解した。

 聡慈とミルドラモンがついているから心配ない。

 彼女はネックレスを外し聡慈に預けると、その手でそっと赤ん坊に触れた。


 怪訝な顔をしながらもナンブットゥたちはその行為を咎めない。

 いつも誠実であった聡慈への信頼が、彼らに逆転の期待をさせた。




 エウリアは聡慈に手を添えられ赤ん坊の胸を押す。

 軽く、リズム良く。

 ミルドラモンは集中して魔力を収束させている。




「赤ちゃんが……!」


 ピクッと一瞬動いた程度。

 だがオクアルは母親の鋭さで我が子の微妙な動きに気がついた。


 エウリアは同じ動作を続ける。

 押された反動のようにも見えるが赤ん坊の指は動き始めている。

 しかし赤ん坊からは次第に生気が抜けているようにも思えた。




「ここじゃ!」


 その時、ミルドラモンが魔法を吹き込むように赤ん坊に向け放つ。

 再び眩い光が赤ん坊から発せられた。




「ケハッ」




 赤ん坊の口から空気が吐き出された。


「あ……」


 小さな変化だがみんなが赤ん坊の変化に気がついた。




「ふにゃ……ふにゃあ、ふにゃあぁぁぁっ!」




「い、生きてる。生きてるよ、オクアル!! ほらオクアル、抱いてやんな!!」


 エウリアが聡慈に抱かれそっと離れると、産婆とフィネはエウリアたちに頷いて、赤ん坊をキレイな布に包みオクアルに渡した。


「ああ、良かった……本当に」


 ポロポロと涙を流してオクアルは赤ん坊を抱きしめている。


 産婆たちと赤ん坊親子を残し、聡慈たちはそっと部屋を出て行く。


「あ、ありがとうございます、ありがとうございます!!」


 ナンブットゥがそれに気付いて何度も頭を下げていた。



 部屋から出たシャジエはナムフェイに抱きついて笑顔で泣いた。


 聡慈の首に腕を回し顔を埋めたエウリアは、聡慈とミルドラモンから優しく頭を撫でられ一筋涙を流した。

 涙が出るのに胸が温かく嬉しい、不思議な気分だった。




聡慈の【被虐者】の進度が低減された。

入間聡慈

闘級 1

体力 54

魔力 0

力  12

防御 14

速さ 9

器用 17

精神 17

経験値 -3,120


技能

⚪︎魔言語★5

⚪︎魔視★5

⚪︎自然回復上昇・小

⚪︎見抜く

⚪︎反撃


称号

⚪︎薬師★3

⚪︎被虐者★2 →(低減)★1

⚪︎轡取り★5

⚪︎伯楽★5

⚪︎不屈漢★5

⚪︎狩猟者★1

⚪︎逃亡者★2

⚪︎魔具職人★2

⚪︎見習い剣士★3

⚪︎見習い魔法士★3


耐性  毒、麻痺、睡眠、混乱、吸収


状態  自殺者の呪印、献身者の聖印

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