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巡り求めて  作者: みおま ウス
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30 平穏な日々編-9

「うっす、おっちゃん。命の水が安くなったって聞いたぜ? 俺っちも一個もらっとこっかな」

「こんにちはマッスォさん。ちなみに安くなったのではなくて、安い物もできたのですよ」

「ん? よく分かんねえけど安けりゃ一つぐれえ持っといてもいいかなって思ってよ。何かあった時に安心だもんな」

「ごもっともです。さ、こちらからどうぞ」


 命の水、魔力の水、共にその品質の向上と廉価品の出現は、時を経ず町の話題となった。

 元々危険な職種に就いている者は携帯することが常識だったが、低価格の品が出たことでお守り代わりに常備する家庭が増えたのだ。



 目に見えるぐらいに腹が膨らんできたオクアルは夫の補助を受けずとも、高品質の命の水を作れるようになっていた。

 それがまた精神の安定に一役買っているようである。


 ともかくオクアルが高品質の命の水を手掛けているお陰で、ナンブットゥは今まで通りの品質の命の水を作っていれば良い。

 店の繁盛により蓄えていた命の水は少しずつ減ってはいたが、まだ底を突く心配はせずとも良さそうだった。






「ドラおじいちゃん」


 シャジエの影響で、“ジィジ”から呼び方を変えたエウリアがミルドラモンの袖を引いた。


「ん? 何じゃエウリアや」

「ソージおじいちゃんのお仕事見たい」


「そうかそうか、人のお仕事に興味が出てきたのかの――ならば、行ってみるかの。ソーさんの職場に」

「やったぁ!」


 エウリアを喜ばせるなら大抵のことは承諾するのがミルドラモンである。


(まあ邪魔にならんように見学させてもらえばいいじゃろ)


 最近になり過度の人見知りも収まってきたエウリアを連れ、ミルドラモンは散歩がてら聡慈の勤める薬屋へと向かった。






「ソージさん、次は魔力の水が品薄になるかもしれませんよ」

「その割に楽しそうですねナンブットゥさん」

「うふふソージさん、その通りなんですよ。この人ったらソージさんが帰った後もいつも楽しそうにニコニコしてるんです」

「ちょ……い、いいじゃないか。お店の繁盛も、お客さんが僕たちの薬で喜んでくれるのも本当に嬉しいんだから」


 ははは、と笑い声が響く客が少ない時間帯の薬屋。

 聡慈たちは今後の店の経営方針を話し合っている。



 ーーおじいちゃんを驚かせてやろうーー

 エウリアが薬屋を見つけてそっと店の入口を開ける。



 談笑する聡慈が見えた。


「ずるい!おじいちゃん!」

「エウリア!?」

「これこれエウリア、ソーさんの邪魔しちゃいかんぞい」


 怒るエウリアに驚く聡慈。

 ミルドラモンは困った顔で慌ててエウリアを抱え上げた。


「だってぇ、ソージおじいちゃん遊んでるもん!」


 ちょうど談笑していたし、その辺には木刀や見慣れたすり鉢が置いてある。

 魔大陸でエウリアが遊んでもらった時もそんな感じだった。

 彼女が勘違いするのも無理は無かったかもしれない。


「ドラさんこれはどういうことだい?」

「すまんのうソーさん。エウリアがソーさんの仕事を見学したいと言うて……」

「なるほど……見に来たら私が遊んでいるように見えたわけだな」


 聡慈はやれやれと肩を竦めた。

 エウリアは頬を膨らませている。


「あはは、お嬢ちゃん、ソージさんはしっかりお仕事しているよ。ソージさんのお陰でお店は繁盛して、だから僕たちは笑っていられるのさ」

「そうよ。あなたのおじいちゃんは偉大な人だわ」


「……本当? おじいちゃんすごいの?」


 父親代わりの聡慈が褒められている。

 エウリアは先程までの不機嫌が嘘のように、喜びと誇らしさで目尻を下げた。


「そうだとも。ソージさんはきっと、僕たち三人に神様が遣わして下さった方なんだ」

「三人?」

「もう、あなたったら。ごめんなさいお嬢ちゃん。私のお腹にもう一人居るのよ。そのことをこの人は言ってるんだわ」


 言われて初めてエウリアはオクアルの腹に目を向けた。

 痩せているのにぽっこりと出た腹部。

 彼女の目には奇妙と言うか、不思議なものに映った。


「ほら、そっと触ってごらん。たまに動くから」


 目の前の少女が妊婦を見たことがないらしいと察したオクアルは、エウリアに優しく手招きをした。


 恐る恐るオクアルの腹に手を置くエウリア。


「きゃっ!」


 ポコっと手に感じた衝撃につい手を引っ込める。


「今きっと寝返りでもうったんだわ。ニュルンって動くのを感じたもの」


 そう言うオクアルの目は優しい。


 エウリアはオクアルの笑顔をきれいだと思う。

 同時に、不思議な懐かしさと胸の痛みを感じた。

 そっと手を取るオクアルにされるがまま、再びその腹部に手を当てる。


「あ……」

「ね、動いたでしょう? 赤ちゃんはお母さんのお腹の中で時々運動するのよ。そして大きくなったら出てくるの」



 いつの間にかエウリアはオクアルの腹に耳を当て、頭を撫でられていた。


 その姿は聡慈とミルドラモンの胸を締め付けた。

 エウリアが捨てられていたという事実を久しぶりに思い出させたのだ。


「さあ、エウリアや。邪魔しては悪いのではないかの? 今日は一旦戻ろかの?」

「あ、いや。うちは大丈夫ですよ。お孫さんにお仕事を見せにいらしたのですよね。でしたらぜひ見せてあげてください」


 気さくに勧めてくれるナンブットゥに頭を下げ、ミルドラモンは聡慈をチラリと見る。


 聡慈は頷くことで了解の意を示した。


「すまんのう。お言葉に甘えさせていただこうかの。エウリア、お礼を言うのじゃ」

「見せてくれてありがとう!」

「どういたしまして」


「ナンブットゥさん、オクアルさんありがとうございます」


 聡慈も夫妻に頭を下げる。


 エウリアは怒っていた気分をすっかり置き去りにし、オクアルに付き添われ聡慈の仕事を見学し始めた。






 たくさんの人が聡慈を頼って店に来る。

 客の質問に聡慈は丁寧に堂々と答え、客は皆満足そうに何か買って帰った。

 自分のことを「ソージさんに似て賢そうなお孫さんだ」と言ってくれる人もいた。

 特に、もじもじしたおばさんと、気楽そうなおじさん、二人の客は聡慈に好意を持っていることが良く伝わってきた。


 店の営業が終わる頃にはエウリアはすっかりご機嫌になっていた。






「ふむ。なかなか面白い試みを見せてもろうたのう。どれ、ワシも命の水と魔力の水、それぞれ一通りずつ買って帰るとしようかの」


 ミルドラモンも薬に高い評価を与えた。

 魔法院で教授を務めた彼にとってもここの薬は良い物だったらしい。


「ありがとうございます。さ、どうだったエウリアちゃん? おじいちゃんのお仕事は?」

「うん。見れて良かった。……あのね」


 ナンブットゥが商品をミルドラモンに渡しながらエウリアに今日の感想を尋ねた。

 エウリアは一つ棚を指差す。


「あれ、お灸ってやつ欲しい」

「お灸かい? 何でまた」

「さっきのお客さんたちが言ってたの。疲れが取れるって。おじいちゃんたちに使ってあげるの」


 その場の全員の顔が綻んだ。


「エウリアちゃんはいいお姉ちゃんになってくれそうね」

「お姉ちゃん?」

「ええそうよ。生まれてくるこの子のお姉ちゃん」


 オクアルは腹を撫でながら愛おしそうに言った。


 エウリアは不思議そうな表情で自分とオクアルの腹とを何度も見ていた。






「ねえおじいちゃん」


 帰り道、聡慈とミルドラモンの間で二人と手を繋いだエウリアが、下を向いたまま口を開いた。


「お姉ちゃんって、シャジエお姉ちゃんみたいなこと?」


 何となく言いたいことは分かった。

 親代わりの二人は微笑ましい気持ちになった。


「ああ、そうだな。赤ちゃんが生まれたらエウリアはお姉ちゃんだ」

「シャジエがエウリアにしてくれるように、エウリアも赤ちゃんの面倒を見てやらんといかんのう」


「うん! 私お姉ちゃんがんばる!」


 エウリアの張り切る様子に、両側の二人は見合って笑うのであった。

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