19 魔大陸離脱編-7
乳児のエウリアを育てるのは大変な苦労があった。
だが成長著しい時期である。
お座りが、ずり這いが、ハイハイが、掴まり立ちができるようになっていく。
そして感情も豊かになってくる。その過程で聡慈もミルドラモンもすっかり彼女に魅了されていた。
「ソーさん、ちぃとだけこの大陸から離れるのが遅れてもいいかの?」
「ん? どうしてだね?」
「ああ、エウリアにの、放命の発動を防ぐ魔道具を作ろうと思うんじゃ」
ミルドラモンがそんなことを言い出すぐらいに、である。
彼はエウリアを抱っこもできない現状に不満を抱いていた。
「ほら、ここから出た時には多くの人と交流するじゃろ。その時に手当たり次第に力を抜き取ってはこの子が嫌われてしまう」
「はは、ドラさんはエウリアと触れ合えないのが残念なのだろう? ――それはさておき、もちろんエウリアを優先しておくれよ。先の長いこの子の人生を孤独に過ごさせるわけにはいかないからね」
「おいソーさん、変な勘違いはじゃな……」
「たぁ〜い」
「おぅおぅエウリアや、どうした? お腹空いたかの? ソーさん、エウリアがメシを欲しておるぞ! ほれ早よう!」
「はいはい、すぐに用意するよ」
ミルドラモンへの追及もそこそこに、聡慈はエウリア用の食事を手早く作り始める。
エウリアがニコニコと手を伸ばすのを、ミルドラモンは寂しそうに笑顔で応えていた。
「ソーさん、エウリアの力を抑える魔道具じゃが、何が良いかのう?」
額当て、首飾り、腕輪、指輪――ミルドラモンはあれやこれやと挙げて唸っている。
「私が着けるならば指輪みたいな、無くさないで邪魔にならない物を選ぶが、なにせ女の子だからなぁ」
本人が気にしないのは赤ん坊の頃ぐらいである。
三歳にもなれば鏡を見てカワイイかどうかを気にする、女子とはそういうものだと聡慈は経験で分かっているのだ。
「そうじゃろ? どれが一番似合って可愛いかが問題なんじゃ。真剣に考えようぞ!」
ミルドラモンは本気で唸っている。
「ところでそんな自由に選べるほど、素材なんかは種類があるのかい?」
「うっ」
ミルドラモンは気まずい顔をした。
「実は、困っとるんじゃ……」
エウリアの力がどこに集まりどのように処理されているか。
それが分からなければ、子どもが身に着けられて効果的な魔道具は作れない。
そう彼は言った。
「ふむ、何か規則があるものなのか。じゃあ観察してみようじゃないか」
「お、そう言えばソーさんは魔視ができるじゃないかのう! ほれ、なら見ておくれ、ほれ」
聡慈は促されるままエウリアを抱き上げ、ミルドラモンに差し出した。
「ほ?」
目を点にするミルドラモンを顧みず聡慈は言う。
「私もリンもエウリアの力は通用しないじゃないか。その辺の獣を触れさせるわけにもいかんし、ドラさんが抱っこするしかないだろう?」
「うぅ」
ミルドラモンは目を泳がせる。
迷っているのだ彼は。
聡慈がエウリアと接触して脱力感を覚えたのはほんの数日、すぐに自身の身体がエウリアの力に抵抗していることが分かるようになった。
リンもはじめからエウリアの力が効きにくいようだったが、やはりすぐに完全に効かなくなった。
どうしても自分で試さなくてはならない。
結局ミルドラモンは手を伸ばすエウリアの微笑みに勝てず、この機会に思う存分体力の続く限り、彼女に触り愛でることにしたのである。
「では……ネックレスを作れば良さそうじゃな……」
エウリアが喜ぶのでつい長く触れ合い過ぎた。
ミルドラモンは藁と毛皮で作った柔らかい敷布団に身を横たえ、聡慈の見たことからそう結論づけた。
エウリアが誰かと接触すると胸に魔力の源(と思われる)の黒い粒子が渦を巻く。
その後接触者は脱力感あるいは悪寒に襲われる。
接触者から無くなった力はエウリアが吸収しているわけではないようだ。
少し足元が暖かくなるので地面に向かっているのかもしれない。
とにかくエウリアの胸辺りに発生する魔力源の収束を阻害すれば効果的に力を抑止できるのでは。
作成する魔道具はこうして首飾りということになったのだった。
素材はミルドラモンが持っていた鉱石とそれを嵌め込む台座、首に掛ける紐の三つである。
鉱石は白金に似ている。
曇りが無く滑らかな楕円形をしている。
台座は酸化した銅のように緑青色の金属で、ペンチ的な工具を使えば形状は変えられるらしい。
紐はくすんだ茶色でグニグニと弾力のある平たい物だ。
これら台座と紐に魔法陣のように機能を示す記述を為し、鉱石を触媒にしてネックレスを作る。
かなり狭い範囲でしか魔法を阻害できないが、エウリアの力を抑えるには十分だそうだ。
片眼鏡と針を使い極小の文字を毎日少しずつ刻んでいく。
単に文字を刻むだけでなく、魔力を通し馴染ませながら刻まねばならないので、長時間の作業はできないらしい。
聡慈は暇な時にはミルドラモンの細かい作業を静かに見学した。
エウリアも聡慈に抱かれ作業を見る時は大人しく、しかし強い好奇心を覗かせる眼差しを向けていた。
ミルドラモンは逸る気持ちもあろうが、魔道具作成に当たっては賢者らしい落ち着きを常に見せていた。
「できたぞい〜」
片眼鏡を外し背伸びしてミルドラモンはネックレスを掲げた。
「お、ジィジがエウリアへのプレゼントを作ってくれたみたいだぞ」
エウリアの歩行を見守っていた聡慈は、彼女が転びそうになるのを受け止め明るい声で伝えた。
「ジィジ〜」
「!」
「!」
エウリアがミルドラモンの方へ歩いて行く。
聡慈とミルドラモンは驚いた。
今まで喃語しか話さなかった彼女が初めて明確な言葉を口にしたのだ。
「おお、エウリアやほらおいで!」
ミルドラモンは我を忘れてエウリアを待ち構え、躓かずにやって来た彼女を抱きとめた。
素早くネックレスを着けさせる。
エウリアに黒い粒子は収束せず、ミルドラモンの力が抜けることはなかった。
「おお! エウリアや、これからは抱っこもおんぶもいっぱいしてやるぞい! ほれもう一度ジィジって言ってみい!」
「きゃきゃぁっ」
エウリアの柔らかい頬をミルドラモンの髭が撫でる。
エウリアはくすぐったそうに喜んだ。
「落ち着いた感じのいい造形じゃないか。宝石をちゃんとしまっておけば、これぐらいなら人混みに入っても狙う者もいないだろう」
エウリアに呼ばれる初めての機会を先取されてしまった。
口惜しさが表に出ないようにして聡慈はネックレスのデザインを褒めた。
「ふぉっふぉ、エウリアや、ソーさんのことも呼んでやったらどうじゃな。……なに、まだまだ先だとな? そうかそうか、じゃあ何かあったらジィジを呼ぶんじゃぞ」
「たぁ〜い」
「ドラさん……」
大人げないミルドラモンに聡慈は非難の眼差しを向けた。
「ファファッ!」
「てゃいっ」
「あいたっ!」
意地悪をするなと言わんばかりにリンが頭でミルドラモンを小突いた。
同時にエウリアの振り上げた手が顔に当たり、ミルドラモンは思わず声を上げた。
「あははは、バチが当たったぞドラさん。しかしエウリアは順調に成長してるじゃないか。何とも嬉しいことだな、ドラさん」
「まったくそのとおりじゃて。さあ、この子をいつまでもこんな辺鄙な所に住まわせとくわけにはいかんぞい。飛行の魔道具作成も本格的に取り組まんとな!」
老い先短い自分たちとの別れを見据えねばならぬ。
エウリアが可愛いだけに、将来を考えると胸の痛みを隠しきれない老父二人であった。
聡慈は称号を獲得した。【魔具職人】
聡慈の【被虐者】の進度が低減された。
入間聡慈
闘級 1
体力 52
魔力 0
力 11
防御 13
速さ 8
器用 16
精神 16
経験値 -3,650
技能
⚪︎魔言語★5
⚪︎魔視★2
⚪︎自然回復上昇・小
⚪︎見抜く
⚪︎カウンター
称号
⚪︎薬師★3
⚪︎被虐者★4 →(低減)★3
⚪︎轡取り★5
⚪︎伯楽★5
⚪︎不屈漢★5
⚪︎狩猟者★1
⚪︎逃亡者★2
⚪︎魔具職人★1
耐性 毒、麻痺、睡眠、混乱、吸収
状態 自殺者の呪印、献身者の聖印




