17 魔大陸離脱編-5
聡慈を他の大陸に連れて行く方法。
やはりミルドラモンと一緒に飛行しては行けないらしい。
小さな物を抱える程度なら可能だが、大人二人分のコントロールはできないそうだ。
また着地時の衝撃もやはり問題だと言う。
「そこでだ、ソーさん。ワシは飛行の魔道具を作ろうと思う」
ある程度飛行でき防御魔法も両立させる。
着地地点は付き添いコントロールして陸地に近い海上にすれば良いだろう。
そうミルドラモンは言った。
「ありがたやありがたや……ところで魔道具と言うとドラさんの魔法の鞄みたいな? こんな場所で手作りでできる物なのかい?」
草と木と動物たちばかりのこんな場所で?
工房なんかは必要ないのだろうか。
聡慈は首を傾げた。
「物によるのじゃがな。今回考えてる物は簡単な大工仕事で作れるじゃろう。それより問題は素材を集めて魔力を注入することじゃ」
「素材、魔力注入……どういう物を作るんだい?」
「簡単に言えば、“空飛ぶ筏”、かの」
「空飛ぶ筏……」
想像してみる。
筏に乗って空を飛んでいるところを。
「とても不安なんだが……」
空中分解して断末魔を上げながら落下するはめになりそうだ。
「ソーさんが何を思い描いとるか大体予想できるが……飛んでる途中にバラバラになるものなんざ作らんぞい」
白い目を向けるミルドラモン。
聡慈は照れ臭そうに目を逸らした。
「まあいい。してその必要な素材じゃが。船体部分は魔人樹の胴体じゃな」
ミルドラモンは次々と説明していく。
筏を固定するのに水飛びイモリの皮、飛行能力を付与するのは仰星大銀杏の葉、バランスを保つのに大鶏面蛙のトサカと羽根。
それらを集め、魔力を充填した後に組み合わせ一つの空飛ぶ魔道具とする。
「魔力の充填に二年以上、それなのに使い捨て、かぁ〜……」
聡慈は申し訳なく思えてきた。
「気にせんでええぞ。どうせやることも無いんじゃし」
「すまないな、ドラさん」
ミルドラモンがその素材を探しに行った。
聡慈もリンを連れて食材の調達に出て行った。
この頃には聡慈たちの拠点は海岸沿いに移っていた。
猛獣も少なく現地人も見当たらない。
食糧も海と森とで選択可能だ。
魔人種が居ないのは湿地帯や大草原、また森の中にある巨大食虫植物群を抜けることができないからだろう。
その辺はミルドラモン様様、人類最高峰であろう闘級七十は伊達ではなかった。
以前ミルドラモンと交わした会話を思い出す。
「いつも凄いなぁドラさんは。ところで闘級七十を超えるものはいないのかい?」
「フォッフォッフォ、ワシより強い敵が出てこんか心配かね? まあ今の時代にはこの闘級を超える者はそういないじゃろうな」
「おお〜」
「ところが、じゃ」
思わず拍手しかけた聡慈を手を突き出し制すミルドラモン。
「強さは闘級のみでは決まらぬよ」
「ああ、前言っていた魔物を倒して上げたりとかそう言うケースかい?」
身体能力は高いが基本が疎かなスポーツ選手のようなものだろうか、と聡慈は推測する。
「ふむ。それも然り。他にも称号と言うものを得ている場合があっての」
ミルドラモンが言うには、職業を極めていく内に称号と言うものを得ている時があり、称号が付くと特殊な技能を習得したりするものだと。
称号はそれ専門で鑑定する者ではないと詳しくは分からない。
が、称号を得ると天からの贈り物を受け取ったように技能を閃くことが多いので、その技能の内容からも称号を推測することは可能らしい。
「称号によっては、突然体力や魔力が大幅に上昇したり、強力な剣技が使えたりするものがあるので、称号次第では闘級を上回る相手と互角に戦えることもあり得るぞい。他にも相性じゃな。格闘家が魔法使いと戦うには間合いを如何に潰せるかに掛かってくるしの」
(ドラさんはあまり自分のことは話したがらないんだよなぁ)
ドラも称号を持っているのだろうと尋ねた時には渋い顔をされた。
結局、彼は【賢者】の称号を得ていることを教えてくれたが、称号のことをあまり話に出してほしくなさそうにしていた。
だから聡慈はミルドラモンが望むように、彼を魔法が少し達者な友人として扱っている。
貝でも取ろうか素潜りで魚でも獲ろうか。
ミルドラモンから聞いたこの世界の話を思い出し自分なりの理解を深めようと考え、また、今日の食事はどうしようかとぼんやり考えながら聡慈は歩く。
「ファア、ファアア!」
その時リンが聡慈の袖を引っ張った。
「お? おお、どうしたリン、いきなり……あっちに何かあるのか?」
リンに引かれるままに走った。
その先には一つの籠のような物が見える。
(クーハンに似ているな。まさか赤ん坊が入っているはずはないが)
孫が生まれた時に聡慈の息子たちが使っていた、赤ちゃんを入れて持ち運べる籠に似ている。
まるで日避けのように白い布のカーテンで覆われているのがまた、それらしい雰囲気を出している。
「何をそんなに興奮してるんだか。困ったやつ……だ……」
籠を覗き見た聡慈は硬直した。
中には本当に赤ん坊が入っていたのだ。
「な、に? 人形では……ない……生きている」
細く柔らかそうな銀髪はまだ一度も切られたことは無さそうで、同じく銀色の眉にもかからない長さだ。
口を何度もムニュムニュと窄めているのは母親の乳を吸っている夢でも見ているのだろうか。
幼児独特の丸い輪郭と相まって、聡慈も思わず顔を綻ばせる。
(いや待て待て待て! こんな所に赤ん坊がいるわけが!)
聡慈は自分の頬を叩いて辺りを見回した。
(流れ着いた? ……こんな籠で海を漂流できるわけもないか。現地人の捨て子? にしては綺麗過ぎる。まるで家で寝ているかのような安らぎようじゃないか。……っと、そんなことより!)
こんな所に置いていては波に浚われたり、どんな危険が及ぶか分からない。
とりあえず安全で日の当たらない場所へ。
聡慈は二つの持ち手を両手で持って、揺らさぬように慎重に運んで行った。
(六キロ位か。生後半年と言ったところだな。しかし妙に怠い……この程度の重さで、おかしいな)
聡慈は拠点のテントに着いた時には息を切らしてへたり込んでしまった。
(いきなり赤ん坊なんか拾ったものだから気疲れしたのだろうか)
「リン、すまないがドラさんを呼んで来てくれないか」
「ファ〜」
とにかくこの変事を相棒に相談しないわけにはいかない。
自分では動けなさそうな聡慈はリンが行ったのを見届けると、大きく息を吐いて赤ん坊を見た。
何事も起きていないかのように安らかに眠っている。
この子の親は一体どうしたのか。
ところで落ち着いて見てみると、籠に敷かれていたクッションと思っていた物はこの子の衣類らしい。
何セットかあるようだ。
(この子が愛されていなかったというのは考えたくない。が、まるで拾われることを前提としたような感じじゃあないか)
幼い子が虐待を受けて亡くなったりする、元の世界でそんな報道を見るといつも聡慈は悲しくなった。
自分の子に置き換えて考えると胸が張り裂けそうになり、まともに新聞もニュース番組も見られなかったものだ。
彼は嫌な想像を否定するかのように赤ん坊の銀髪を優しく撫でた。
何故か手に、重い物を握り持った後のような疲労感があった。
リンがミルドラモンを連れて戻って来た。
「これこれ、リンや。全く何をそんなにはしゃいで。なあ、ソー……さ、ん?」
ミルドラモンでも意外なものを目の当たりにすると硬直することがあるらしい。
息の荒いリンと、目を丸くして籠の中を見るミルドラモン、まだスヤスヤと眠る赤ん坊。
聡慈はこの赤ん坊との出会いが吉なのか凶なのか、予想すらできずにいるのであった。
入間聡慈
闘級 1
体力 52
魔力 0
力 11
防御 13
速さ 8
器用 16
精神 16
経験値 -3,900
技能
⚪︎魔言語★5
⚪︎魔視★1→★2
⚪︎自然回復上昇・小
⚪︎見抜く
⚪︎反撃
称号
⚪︎薬師★3
⚪︎被虐者★4
⚪︎轡取り★5
⚪︎伯楽★5
⚪︎不屈漢★5
⚪︎狩猟者★1
⚪︎逃亡者★2
耐性 毒、麻痺、睡眠、混乱
状態 自殺者の呪印、献身者の聖印




