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巡り求めて  作者: みおま ウス
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14 魔大陸離脱編-2

 蓬髪と言うに相応しいボサボサの白髪、同じく長い白眉は目尻を隠し、白髭も何年剃っていないのか。

 しかし手入れされてない顔貌とは裏腹に、輝く純白のローブと、吸い込まれるような漆黒のブーツ、それに透明な珠を握る鷹の意匠が施された杖を手にした姿は、物語の魔法使いのようである。


「¥%$°€#〒々〆〜……」


 土煙から出て姿を露わにし、ふう、いてて、とでも言うように老人は腰を叩いた。

 場にそぐわぬ緊張感に欠けた仕草、態度だ。



(また知らない言語だ。だがちゃんと口を開けて喋ったぞ。ところで一体何処から現れた?)


 地面に激突したような音と振動だったが、まさか隕石のように降って来たわけでもあるまい。

 ――いや、ここは何が起こるか予断を許さぬ所だった。

 思い直すと、傍らのリンと巨獣が毛を逆立て強く警戒していることに気付いた。


(リンはともかく、あの巨獣の警戒のしようは何だ? あの老人が危険だと感じているのか? 餌扱いの私たちと何が違う?)



 老人は髭を手で撫でつけながら聡慈、リン、巨獣と視線を移し首を傾げた。


「@a&pjy〆=○$?」


 恐らく同じ人としての容貌をした聡慈に今の状況を尋ねたのだろう。


『この子と人里を探している。この平原を抜けようとしてあの巨獣に襲われた』


 通じるだろうか、と聡慈は探るようにこの世で習得した言語で話しかけた。

 しかし老人は目を丸くしている。


(ああ、通じなかったか……)


 聡慈は落胆しかけたが同じことをもう一度、それに加え自分の知る元の世界の言語も使い話した。

 老人は余計に困惑した顔をした。

 聡慈は諦め下を向きかけたが……


『驚いた、まさか◯◯人が△△語を使うとはのぅ。ワシの言っていることは分かるかな?』


 老人の言葉を耳にして顔を跳ね上げた。

 確かにこの世で鬼たちが使っていた、自分が身につけた難解な言語である。


『分かる、分かるとも! ああ、ようやく話の通じる人と出会えた!』


 聡慈は目を輝かせた。


 老人は彼に微笑み、再度周囲を見回した。

 そして彼の前に手を突き出し口を開いた。


『まあ待つのじゃ。先に落ち着く場所に移動しようじゃないかね。そこの彼も我慢の限界のようじゃしの』


 そこの彼――巨獣――は警戒心を上回る怒りを思い出したようだ。

 屈めた身体に力を込め、思い切り伸び上がって聡慈たちに飛びかかってきた。



『餌なら他のやつを探すんじゃな』


 老人は右手に持った杖を振り上げた。

 地面から土でできた巨大な腕が盛り上がり、巨獣をアッパーカットで殴り飛ばした。


(お、お、おおお!?)


 あの巨体がぶわっと浮き上がり、ゆっくりと反転し背中から地面に落ちた。

 聡慈の足に振動が伝わる程の重量物の落下、巨獣のダメージも相当だと思われた。


 事実、巨獣はヨロヨロと立ち上がったが足元は覚束ず、その尾は後脚の間に挟み怯えを示している。


『さて、行こうかの』


 老人が聡慈に向かって言うと同時に、巨獣は彼らの様子を窺いながらすごすごと去って行った。


 老人の作り出した土の腕は正しく魔法と言う他に表現のしようが無かった。

 しかし聡慈はほんの一瞬、杖に例の黒い渦が収束するのを見逃さなかった。

 やはり老人もこの世界の不思議な力を使える。


 ――この世界だから使えるのか。馬たちが使っているのは見たことが無い。使うのには何か必要なものがある? 体の器官? それとも何か条件を満たせば自分でもできる?――


 聡慈が考えに耽っているとリンが頭で小突いてきた。

 老人と一緒に行こうと言っているようだ。

 聡慈は気を取り直して老人に頭を下げた。


『ありがとう。助かった。ところで今から何処へ?』


 鬼の集落で身につけたせいで、きっとぞんざいな言い方だろう。

 聡慈は申し訳なく思いつつ、せめて感謝の気持ちが伝わるようにと声の調子を整えた。


『いや、ワシもこの〜〜はそれほど馴染みがないのじゃが……あなたは〜〜の人ではないのかの?』

『え?』


 老人も聡慈も互いに困惑した。


 しかしそれも僅かの間のこと。


『ああ、ならばあっちに大きな森があった。そこで腰を落ち着けて話をしようじゃあないか』


 老人はすぐに聡慈が何らかの問題を抱えていると察し、彼に申し向けた。

 聡慈は再び頭を下げ、リンの背に手を置き老人と歩き始めた。






 聡慈たちは草原を抜けた先にあると言う森へと向かう。

 道すがら老人は聡慈の拙い話を粘り強く聞いてくれた。


 老人の話で分かったことがある。


 聡慈が今話している言語は、一般人はほぼ話せる者の無い【魔人語】や【魔言語】と呼ばれるもの。


 老人に公用語を適当に話してもらった。

 やはり口を開け明確な発音で、名詞や動詞を組み合わせ意味を為す文章を作っていることが分かる。

 魔言語よりずっと馴染み易そうだ。



 今いる場所は五大陸の一つで通称【魔大陸】。

 特殊な海流のため船で来ることが困難な、他の四大陸とは交流の無い大陸である。

 ミルドラモンと名乗ったその老人は【魔法】に少々自信があり、空を飛んでこの大陸に来たらしい。


 魔大陸にはミルドラモンや聡慈のような【雑人種】は恐らくいない。

 魔言語で話し、【魔力】を直に扱える【魔人種】の土地だそうだ。



 中々信じ難い部分もあったが、聡慈は納得してもいたし安堵する気持ちも抱いた。

 どういうわけか自分はやはり異なる世界に来ていた。

 迷い込んだ場所は特殊な土地柄だったようだが、他の四大陸は自分と大差ない姿の人間がいる。

 そのことは聡慈にとって大層な希望となり彼の心を慰めた。




 さて、問題はどうやって海を越えるかということになった。

 ミルドラモンは空を飛んだと言っていたが、頼めば運んでくれるだろうか?

 ……いや、それはやめた方が良さそうだ。

 彼が空から降って来た時に起こった地面との激突、あんな衝撃に耐え切れるはずがない。


 ならば自分も魔法と言うものを使えば……と言っても、その魔法の素らしい黒や白の力を発生させることすらできたことがない。



 一人で考えても答えが見つからない。

 聡慈はミルドラモンに他の大陸に行きたいと相談した。

 ミルドラモンは事情を深く聞かずに、任せろと言ってくれた。



 聡慈は自分の事情を彼に話したかった。

 元の世界から知らぬ間にこの世界に迷い込んだこと。

 だからこの世界のことには疎いが、このまま寿命が尽きるを待つだけにはせず、人や世の中に貢献したいこと。

 他にも様々……だが聡慈の魔言語は鬼の集落で耳で聞いただけの不完全なもの。

 複雑な表現をする術は持たなかった。


 いつか野人種の公用語とやらを習得したならば、もしくは魔言語が達者になったならば、お礼と共にミルドラモンに話そう。

 聡慈はそう思い彼と歩くのであった。






 歩いている間は獣から襲われることも無かった。

 ミルドラモンが魔法を使ったのだろうか。

 巨獣を軽々倒す彼の力を察して近づいて来ないのかもしれない。

 聡慈は気を抜かなかったが、リンは獣の感性で安全を確信したのかリラックスして歩いている様子だった。






 二人と一頭が到着した森は、鬼の集落から続く森よりは木々が密でなく、日の光で明るい穏やかそうな所だった。

 それほど奥を探索するまでもなく水の流れも発見し、彼らはしばらくこの辺りを拠点にし今後の計画を立てることにした。




 ミルドラモンが何処からともなく取り出した食料は美味かった。

 その日はリンと共にすぐ眠りに就いてしまったが、明日からは公用語も教えてもらえる。

 聡慈はこの世界に来て初めて、先の見通せる安心を感じて穏やかに眠るのであった。

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