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巡り求めて  作者: みおま ウス
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13 魔大陸離脱編-1

 森の外に広がっていたのは、背の高い草が鬱蒼と生える平原と、広大な湿地帯だった。

 森が少し高くなっているためちょうどその境界に出たことがよく分かる。


「よーしっ、とうとう抜けたぞ! ここは間違いなく見たことの無い景色だ! お前の仲間もいるかもしれないな」


 浮かれているような声を出したが、聡慈は楽観していない。

 都合よく人間の世界にいきなり切り替わるとは思っていなかったが、ここまで文明の欠片も見られない大自然が広がっていることも考えたくなかった、というのが本音だ。

 それでも明るい態度で言ったのは、落胆をリンに伝えたくなかったのと、後ろ向きな気持ちで自分の足を止めてしまいたくはなかったからである。

 もちろん慎重さを欠くことには注意するつもりだが、鬼の下で過ごした三年間の反省がある。

 地獄での罰だと思い込みされるがままだった日々。

 これからは後ろ向きな思考に陥るより先に、事態の打開について考えるように常に心がけようと思うのだ。






 さて、大草原か湿地帯かどちらを進むか。



 草原には大型の獣が見え隠れしている。

 草から出て来る小型の獣を捕まえ食らうのが見えた。


(いや、まあ鬼がいるのだから分からんではないが……巨体なんてものではないだろう)


 遠近感の加減もあろうが、捕食者側の獣は虎のようで、それが象ぐらいの大きさに見えた。


(む、目に違和感が? 焦点はあってるのに、妙に意識が向かう箇所がある……何だ?)


 聡慈の目が巨獣の体の一部にスポットを当てようとしている。

 身につけた技能【見抜く】が発動しようとしたのだが、まだ彼には使うことができず違和感として捉えられるだけだった。

 加齢による目の弱体化かと思い、聡慈は目頭を揉み違和感に蓋をした。




 湿地帯はこの森から流れる川で平原と隔てられており、大小の水溜まりが点在している。

 二足歩行する生物も見られるが、その上半身はトカゲかワニか、どう見ても人間の頭ではなさそうだ。


(鬼、鳥、牛ときて次は爬虫類人間……ちょっと遊びで齧られただけでも死んでしまうだろうなぁ。……それにあれは何だろうか? うん、やっぱり平原にしよう)


 大きな口のワニ人間にも危険を感じたが、それにも増して嫌な予感を覚えたのが、黒い靄を漂わせ歩く人型だった。

 漂わせていると言うよりは影が歩いているようなものだ。

 遠目では尚更全貌が窺い知れない。


(あの黒く渦巻く力を垂れ流しているような? あれはダメだろう)


 鬼や鳥人間が使っていた黒い力が人の形を為して歩いているような存在だと思った。

 ワニ人間との交流を候補に入れることもなく、聡慈は平原の草に紛れてまだ見ぬ人間の土地を目指すことにした。






 直立しても姿が丸々隠れるぐらいの背丈の高い草に紛れてリンと歩く。

 コシはそれ程強くなく、草を押し除けスイスイと進めるのだが、踏んでも折れずまた真っ直ぐ立つ不思議な植物だ。

 しかも先端が硬く尖っているので大型の獣が嫌がって踏み入ってこない。

 まるで小動物のためにある草むらである。


「急ぐんじゃないぞ。いきなり草むらから出てパクッとやられてはイカンからな」


 草の隙間から草むらが途切れた所を覗き見る。

 巨獣の姿が無いことを確認すると次の草むらへと速やかに飛び込む。

 中型犬ぐらいの大きさがある兎のような動物がそうやって移動していた。

 聡慈たちもそれに倣い、念には念を入れ姿勢を低くし少しずつ進んだ。


 「いないか? いないな。よし行くぞ、せえ、の!」


 囁くような声でタイミングを合わせリンと草むらを抜け、十五メートル先の次の草むらに向け駆ける。

 ザザッ、と草同士が擦れ合う音を立て無事に次の草むらに分け入った。


「な、え?」


 ところが


「う、うおおぉ!? 走れぇっリン!!」


 分け入った草むらは奥行きが狭かった。

 その草むらを突っ切って開けた場所に出てしまい、しかも五十メートル離れた所にはあの巨獣が。

 聡慈とリンは大慌てで走り出した。



 今分かった。

 巨獣はこうやって、間違えて突っ込んで来る動物を、餌を待ち構えていたのだ。

 巨体だけに動き出しは重々しく鈍いが、その逞しい脚は凄まじい加速を見せる。

 トップスピードに乗るまでに身を隠さねばならないというわけだ。



 先程の草むらまで戻るか。


 しかし反転し戻りかけた聡慈たちは再度反転し進むことを選んだ。

 反転することは巨獣の想定どおりだと、恐らくこの狭い草むらならば突破して来るだろうと思ったからである。


 ちょうどそれが巨獣へのフェイントになったようで、僅かながら距離を開けることができた。

 次の草むらに飛び込めるか。


「ファアアアアアアン!!」


 リンが嘶いた。

 乗れと言っているらしい。

 しがみついた聡慈を確認し、リンは黒い渦を脚に収束させ緑色に渦巻く力を生み出した。


 振り解かれないように両腕をリンの首にしっかりと回し、聡慈はリンに引っ張られる。

 足がふっと地面から離れて居心地の悪い浮遊感を味わいながら、目を薄く開けて草むらに突っ込んだ。


 しかしてその先は――またも隠れるスペースも無い草むらだった。

 この逃走までもが巨獣の計算の内、掌の上の行動だったのだ。


 諦めて止まることなく、リンたちは大きく弧を描いて進路を変えた。

 しかし巨獣は既に狩りを楽しむ段階に移っている。

 一度速度が乗ってしまえば、リンの全速力にも悠々と追いつけてしまう巨獣の脚力。

 小回りに勝るリンの走りも巨獣の大きな一歩の前では、哀れな獲物の取るに足らない足掻きでしかない。

 巨獣はついにリンと並び、品定めするかの如く顔を近づけ喉を鳴らした。


 脅かし揶揄うように口を開け息を吐きかける巨獣。

 その時、鋭く巨大な牙の間を通り抜け、大口の中に何かが飛び入った。


「グギャアオオン!!??」


 頭を跳ね上げ巨獣は絶叫した。

 頭を振って苦しむ巨獣が口にしたのは、聡慈が持っていた最後の、緊急用の毒物であった。



(やったか!?)


 上手く口に放り込むことができた。

 これでどうだと聡慈は振り返り見たが――巨獣は怒りの形相で目を血走らせ、彼らを睨みつけていた。

 一瞬の隙に開いた分の距離はあるが、走りを止めることもできていない。


(やはり鬼とは体の大きさが違い過ぎたか!)


 死に至るとは思っていなかったが、ここまで効果が薄いとは。

 こうなったら後はリンと離れるしかないか。

 そうすればどちらかは逃げられるかも、あるいは巨獣を迷わせその隙に二人共が草むらに避難できる可能性もあるのでは。


(やれやれ、湿地帯の方が正解だったかな……)


 聡慈は苦笑してリンの背に足を揃えて乗り直した。

 もう巨獣は迂闊に顔を近づけたりしないだろう。

 だが飛びついて来たらその前脚を掻い潜って顔に飛び蹴りをお見舞いしてやる。


 不思議と相手の挙動にタイミングを合わせられる気がする。

 鬼の集落での生活を乗り切り、困難を乗り越えたことがその自信をもたらしているのだろうか。

 冷静さを欠いている今の敵相手ならばできる。

 自分に言い聞かせ、聡慈はタイミングを計り始めた。



 巨獣が勢いを取り戻す。

 リンとの距離が縮まっていき、より強い踏み込み直前の、すっと抜けるような筋肉の弛緩が起こった。


(来る!)


 聡慈も相手の動きに合わせ脱力、次に来るはずの筋肉の収縮に合わせ全力を込める準備をした。



 ドゴオオオォォォンーー



 不意に訪れた地揺れと轟音。

 聡慈もリンも、巨獣でさえも追われ追う最中であることを忘れ、土煙が立つ方を見た。


(人間だと!?)


 土煙の中に居たのは、自分よりもどれだけ年上なのか、真っ白な頭髪に長い白髭をたくわえた小柄な老人だった。


 何が起きたのか分からないが聡慈たちは三者とも、その老人に危険なものを感じて身構えるのであった。

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