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巡り求めて  作者: みおま ウス
113/164

113 探索の旅(聖都編-18)

 クラリスは今まで年齢より大人びた雰囲気があった。

 それが母親とまた一緒に暮らせるようになり、年相応の振る舞いも見せるようになってきた。


 ――と思ったらヴィザーレと聡慈に別れを告げられた途端に、幼児のように泣き始めてしまった。


 まるで今までしっかりし過ぎていた反動がきたかのようだ。

 彼女は母親の胸に抱かれ頭を優しく撫でられている。


「クラリス、旅の間この老人に付き合ってくれてありがとう。君とする商売の話は楽しかったぞ。だがこの寿命が尽きる前にやらねばならんことがあるのだ。許してくれ」

「うわあぁぁぁぁん! 寿命とか言わないでくださいよお! 絶対絶対また来てくれなきゃやだあ! お店大きくして、頑張って大きくしておもてなししてあげるんだからあ!!」


 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔だが力強くクラリスは言った。

 デイルは目を潤ませ笑顔で彼女を抱え上げた。


「よう言うたクラリス! な、約束やでソージはんヴィーはん。また来てや。もう旅には出られんかもしれへんけど……それでも絶対やで」

「分かった。分かったよクラリス。約束だ。また来るよ。今度はエウリア……君より少し年上の女の子と、私よりも年上のミルドラモンと言う大お爺さんを連れて。きっと」

「私もだ。それまでには色んな名酒を揃えた大商店にしていてくれよ」

「うん、うん! 約束ですからね!」



 それからは泣いている者は涙を拭い、みんな笑顔で別れの宴会を楽しんだ。

 酒も解禁だ。

 初めてのクラリスのお酌にデイルが照れたりヴィザーレが冷やかしたり。

 幸か不幸か置いてある酒が少なかったことから程々に良い気分になったところで酒が終わり、穏やかな雰囲気で宴会の夜は過ぎていった。






 ティディエルでは一応ヴィザーレの旅の供と言う位置付けにあった聡慈は、ほとんど私的な金銭を使っていなかった。

 それなのにヴィザーレは負担分以上に世話を受けたから給料を支払いたいぐらいだと申し出た。

 もちろん聡慈は断った。

 ヴィザーレは渡そうとした。

 だから二人は水質悪化の原因特定の報酬と、盗賊団の捕獲・討伐の褒賞金を折半することで妥協した。


「まったくソーさんの頑固さには勝てんな」

「歳を取ると頑固になるものだよ。そう考えるとヴィーさんは若いのに大した頑固っぷりと言えるのではないかね?」

「やれやれ。こんなやり取りももうできないとは、寂しいじゃないか。なあソーさんよ」

「ヴィーさんはまだあの場所を調査するんだろう? 長旅じゃないか。デイやんが羨むぞ」

「羨むものか。狩りをして森に入って川を泳いで、飲んで歌って勉強して……そんな旅はあれきりさ」


 新たな旅支度の手を止めヴィザーレは溜息を吐いた。

 早くも戻れない日々だと感傷を覚えているようだ。


「らしくないぞヴィーさん。いつでもどこでも誰とでも、酒瓶一つで楽しくなれるのがヴィーさんじゃないか。次の旅もきっと楽しいさ」

「誰だそれは。私はそんな変な男ではないぞ……まあいい。ところでユニバスタだったか、ソーさんの次の行き先は」

「そう。探している子を一緒に育てていた、私の恩人でもある人の出身地だ。それだけに行き先の候補からは外していたが、いよいよ探すべき場所も無くなってきたからな」



 盗賊団との戦闘の際に取り逃がした者の千切れた衣服――杖と杯の交差した魔法騎士の紋章が見えた物――は聡慈の心に影を落としていた。

 魔法騎士が落ちぶれたのか、それとも盗賊に襲われ衣服を奪われたのか、どちらにせよユニバスタに関することで嫌な予感を覚えるきっかけとしては十分だ。

 それにラグナからの便りで、ラグナの面々もミルドラモンとも連絡が取れていないことが分かっているので、一度訪れてみなければと思ったのだ。


(ドラさんが力ずくで留められているとは考え難いし、ユニバスタにいるとは限らないが……エウリアのことで脅迫などを受け行動を制限されているとかそんなことになっていたら、何とかして助け出さねばな)


 エウリアとミルドラモンに早く会いたい気持ちを忘れたことは無い。

 しかし二人と離れ離れになった後も自分は幸せに過ごせていた。

 ライオホークとの旅、ルガール領での出来事、王都孤児院での日々、そしてティディエルでの生活。

 感じるままに素直に楽しんだ。

 わざわざ暗い気持ちになって陰鬱な雰囲気を周囲に振り撒くことは避けたかったからだ。


 ミルドラモンが故郷を捨てた理由を聞いていた聡慈は、迷惑をかけてもいけないのでユニバスタは訪れまいと思っていた。

 しかし彼らと離れ離れになり二年半を超えた。

 二年半自分だけが楽しい年月を過ごし、ミルドラモンたちが抑圧された生活を送っていると考えると、もう行かざるを得ないという気持ちに急かされてしまうのだ。



「そうか。魔法を研究する者に知り合いはいないが、偏屈な輩が多いと聞く。厄介ごとに巻き込まれないように気をつけてな。……ま、ソーさんにはいらん心配かな」

「ありがとう。ヴィーさんも口うるさい私たちと別れたからとて、酒の嗜み方を誤らんようにな」

「ふむ、それは今の飲み方は合格をもらえていると言うことだな」

「これはまいった。まあヴィーさんの酔い方に感心することがあったのは確かだ。あっはっは」


 二人は笑ってどちらからともなく手を差し出し、固く握った。






 旅立つ日が来た。

 ネトゥミ港へ行く馬車の前には聡慈を見送るためにヴィザーレとデイル一家が集まっている。


「ドルド、お前にも世話になったな」


 聡慈が頭の一つを撫でると、もう一つの頭は首を伸ばし聡慈の体に巻き付けられた。

 ドルドなりの親愛の示し方である。

 もう一つの頭も撫でると今度は反対の首を巻き付けられる。


「ドルドも離れたない言うとるで」

「そうか。私もこの甲羅の上で寝られないと思うと寂しいぞ。亀は万年と言うが、お前も長生きしてくれよ」


 ドルドは二つの頭を差し出し、聡慈に撫でてもらうと納得したように後退していった。


「ドルドでもあかんかったかぁ。ま、しゃあないな。ソージはん、行ってらっしゃい。また必ず帰って来てや」

「ありがとうデイやん。家族を大切にな」


「ソージさん、ありがとうございました。こうして家族揃って暮らせるのもソージさんたちのおかげです。お元気で」

「ピウクさんもお元気で。夫婦は許し合える関係が一番です。賢いのは娘さんが担当してくれますから。家族仲良く暮らしてください」


「ソージさん、いつかソージさんが困ってたら、世界のどこにいても助けられるぐらいにお店を大きくしてますから。必ず頼ってくださいよ」

「ありがとうクラリス。君なら本当にそこまで達成してしまいそうだな。だがお父さんお母さんに甘えられる内は甘えておくんだぞ」


「ソーさん、元気でな」

「ああ、一足先に出発するよ。ヴィーさんも達者でな」




 四人と握手や抱擁を交わして聡慈は船へと乗り込んで行った。



「船が出るぞー!!」


 水夫の掛け声からしばらくして船は繋留を解かれ碇を上げられた。

 互いの姿が遠ざかり見えなくなるまで陸からも船からも手を振った。



 聡慈からは水平線の向こうに陸が、デイルたちからは船が消えて見えなくなる。


 空と海の青さが埋められない寂しさを感じさせた。

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