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巡り求めて  作者: みおま ウス
112/164

112 探索の旅(聖都編-17)

「あたたた、冗談やないでソージはん」


 デイルはもうベッドから出てしっかり立っている。

 しかしその両頬には赤く手形が付いており、彼の横には腕を絡めてピウクが頬を膨らませていた。


「あまりあっさり治ったらデイやんの頭が冷えないかもと思ったんだが。ちなみにピウクさんを誤解させたのはヴィーさんだからな」

「お、おいソーさん! それこそ誤解を招く言い方じゃないか!?」


 デイルの脚の包帯を外し薬草の痕を拭き、回復魔法をかけるともうデイルは痛みを感じず顔色もすっかり良くなっていた。


 ただデイルは突然の回復に戸惑い呆けて、ピウクは怒り夫をバシバシ叩いた。

 とは言え勘違いに気付いたが故の照れ隠しであるが。


 その間もクラリスは喜んで泣いているし、その場には何とも言えない温かい雰囲気が満ちており、緊張感は少しも無かった。


「まあえっか。なあピウク」

「もう! 思い出させないでよ。恥ずかしいじゃない。……んん〜、でも本当心配したんだから!」


ピウクの肩を抱くデイルを見るのは気恥ずかしささえ覚える。


「あ、こんな所に何かあるぞ」


  そんな空気の中にいるのがむず痒くなって、ヴィザーレは我慢できずに床の紙袋を指差した。

 ピウクの作った衣類が入っている物だ。


「あ、そうだ! これこれ、これ渡したくてずっと待ってたのよ!」


 ピウクがケープと帽子を取り出すとクラリスは目を輝かせた。


「うわあ! これ私の?」

「そうよ。お母さんが作ったんだから」

「やったあ! ねえねえ着てもいい?」

「ええ! ぜひ着て見せて。ほらあなたも」

「え、わいのもあるん?」

「そうよ。似合うかしら?」

「おお、前掛けとズボンやん。こら気合い入るで! ……なあ、これからのことやけどな」


 クラリスが着替えるので聡慈とヴィザーレは部屋を出た。


 その間にデイルは今後の生活についての計画をピウクとクラリスに話し、相談した。






「そうか、三人で商店をな」


 デイルたちは以前から商談していた商店を建物ごと買い取り、改装して商店を経営することに決めた。

 元の経営者は高齢の男性だったが、デイルたちを後継者のようにありがたがり、顧客などを紹介してくれると言う。


 デイルもその元経営者に色々相談したいと申し出た。


 経営に関する相談に関しては、元経営者の老人は喜んで了承したが、相談役として経営に組み込まれることは拒否した。

 元経営者は店を切り盛りすることの楽しさを説いた。

 家族、従業員と苦労を分かち合い一生懸命働けと。応援はするが苦労も楽しみも横取りするわけにはいかないと。


 デイルたちは良い相手から店を買えた幸運に感謝した。



「順風満帆、と言うやつだな」

「ああ、喜ばしいことだ。やはり家族は一緒が一番いい」

「ソーさん……」


 笑顔の中に悲しみがある。

 ヴィザーレは聡慈の肩を叩いた。

 元気出せよ、と言いかけたが止めて、何となく気まずくなって頭を掻いた。

 これからの話のことも頭を過ぎったが、やはりこの場に相応しい話題ではないと思い言葉を飲み込んだ。






 それから何日かが過ぎた。

 店の改装は進み、デイルたち家族は忙しい日々を送っている。


 ピウクは勤め先の衣料品店を間もなく辞める。

 衣料品店に卸す糸や生地もデイルの店で扱うため辞めることに障害は無く、それまでのピウクの勤務態度が良かったこともあって両店の関係は先行きが明るそうだ。


 クラリスは元の経営者に孫のように可愛いがってもらっている。

 彼に子どもがいないこともそうだったが、クラリスに商人としての素質を見出されたことがその理由だ。

 今は彼を商売上の先生と仰ぎ、帳簿のつけ方や商品の管理を彼から教わり始めたところである。


 デイルは商品の仕入れ先や卸先への挨拶をしたり、税金の関係で店の名義を変更したりとあちこち駆け回っている。

 毎日汗だくで腹が少し凹んでしまった。

 忙しいが夜は必ず三人揃って食卓を囲むことにした。


 聡慈とヴィザーレは気を遣って夜は外食に出かける。

 たまに夕食に招かれると、とても幸せそうにしている親子三人を見ることができた。



 その日も夕食に招かれた聡慈とヴィザーレは、玄関に駆けて来たクラリスに笑顔で迎えられた。




「もう後は看板を掲げるだけじゃないか。あの不貞腐れて寝転んでいたデイやんが今ではこんなに凛々しくなって……この成功譚に乾杯!」

「乾杯じゃないぞヴィーさん。またピウクさんに迷惑かける気か」

「ははは、まあソージはん、ええやないか。また一緒に飲もうや」

「遠慮なんてしないでくださいね。主人はお二人とお酒を飲めるのを楽しみにしているんですから」

「お母さん、お父さんとヴィザーレさんのお酒は気をつけなきゃ。いつも私とソージさんが大変だったんだから」

「え〜、そんなことないだろ? クラリス嬢……」

「そやそや。ああ、しかしええ旅の日々やったなあ」


 目を細めて懐かしむ。

 もう戻ることはない輝ける日々だ。

 それもこれも――


「あんさんらのお陰やで」


 デイルは聡慈、ヴィザーレと肩を組んだ。

 奇妙なことも起こる旅の間に、二人には家族への愛情とは別の絆を感じるようになっていた。


「今後のことやけど、もし二人が良ければ……」

「そうだ。私もみんなに感謝したい」


デイルの言葉を遮るようにヴィザーレが切り出した。


「私の研究が広く知られそうなんだ」



 ついこの前のことだ。

 返り討ちにした盗賊のこと、それに忘れかけていた水質汚染の原因の調査結果、それらの件の褒賞が下されることになった。

 騎士団にて事情聴取を受けた。

 その時同席していた聖職者の一人がヴィザーレの人定質問から触れられた研究内容に興味を示した。


 実地調査を改めて行わなければならないが、独自の文化を持っていた民族とその遺跡の発見となるだろう。

 祝福の民のことについては現段階ではまだヴィザーレの推測の域を出ないが、参考意見としては発表されそうだと言う。


「しばらくは現地に赴いたり聖殿に顔を出したりする生活になるだろう。その後は、カズカザン=トリエの王都に戻ろうと思う。デイやんの言うように、旅は楽しかったぞ」


「ヴィーはん……そか」


 楽しかった、ヴィザーレの言葉は心に染み入るようだった。

 デイルにとっては悪友で、クラリスにとっては困ったオジサンであったが、彼がいなければデイルの立ち直りはもっと遅く、旅は寂しくなっていたに違いない。


 クラリスは歪み始める口元をキュッと引き締めへの字口になっている。


「ヴィーさんに先を越されたなあ」


 しみじみし始めた場の空気に溶けるように聡慈が言った。


 クラリスがはっとして聡慈の顔を見た。

 もう何の話が出てくるのか察した様子だ。

 引き締めた口元が再び歪んできた。


「ソージはん、まさかあんさんも……」

「ああ。私も次に行く場所を決めたよ。君たちを見ていたらやはり家族は大切だと痛感した。私も早くあの子を探してやらねば」


「ふえ……」


「クラリス?」


 ピウクは娘の体が震えていることに気付いた。


 その目も口も整った形を保てそうになくなっている。

 そして


「ふえぇぇぇん! うわあぁぁぁぁん!」


 とうとうクラリスは声を上げて泣き出した。

 ピウクに抱きしめられ、胸の中でしゃくり上げている。


「こりゃソージはんがあかんで」

「ソーさんが悪いな」


「えぇ……」


 自分のことを棚に上げて、と言ってやろうと聡慈はヴィザーレを横目で見た。


 ヴィザーレの目も、デイルの目も潤んでいた。

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