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巡り求めて  作者: みおま ウス
106/164

106 探索の旅(聖都編-11)

 聖都に戻った四人はそれぞれの行動に移った。


 デイルとクラリスは仕入れに。

 ヴィザーレは有料の都立図書館で調べものを。


 そして聡慈は探索者組合に。

 彼はそこで、とある依頼票を目にした。



 “尋ね人

 森林系野人種の親子デイルとクラリスの情報求む

 ピウク”


(デイやんとクラリスのことだよな? 尋ね人との関係も書いてないが、誰だろうか)


 何となく察せられることはあるが、とりあえず彼はデイルに尋ねてみることにした。






「デイやん、ピウクさんとは誰かね?」

「な! ちょ、何やねん!? ……ソ、ソージはんちょっとこっち来て!」


 聡慈が青果店の前を通りかかるとちょうどデイルとクラリスが商品を見ていた。

 聡慈に声をかけられたデイルは慌てて聡慈の腕を引っ張りクラリスから離れた。


「クラリスには聞こえないように気をつけたつもりだが。奥さんかい?」

「何で知っとるの!? もしかして()うたん?」


 デイルからもクラリスからも奥さん、或いは母親に関する話は聞いていない。

 きっとデイルが愛想を尽かされ逃げられたんだろう。

 聡慈もヴィザーレもそう思ったので敢えて聞かなかったのだ。

 デイルたちがその話題に触れないでほしいような気配を出してもいたし。


「いや、会ってないが。探しているらしいぞ」


 聡慈は探索者組合で見かけた依頼のことを聞かせた。



「何やねん今更! 愛想尽かして実家に帰ったのはそっちやないかい! 会わへんで。わいは……クラリスもあんな奴に会わへん」


「あ、ソージさんいつの間に? お父さんと何話してるんですか?」


 デイルが声を大きくしたせいかクラリスに気づかれた。


「何でもないで。さ、おとんと一緒に品定めしよ」

「なあにお父さん。変な声出して」


 猫撫で声でクラリスを店の奥へと連れて行くデイル。


 聡慈に向けられた目は「余計なこと言わんといてよ!」と切に訴えていた。




 聡慈はクラリスに「またな」と手を振り、店から遠ざかりながら考える。

 デイルは妻と会いたくない。

 クラリスの意思は聞けそうにない。


(ふうむ、どうしたものか。いや、こういう時は決まっている)


 そう。

 もう一人の仲間のヴィザーレに相談するのだ。

 一人で突っ走っても良いかもしれない。

 しかしどうせ突っ走るなら仲間と一緒の方が勢いが付くし、間違っているなら止めてくれるだろう。

 元の世界で現役の企業戦士だった時、上に立つほど孤独を感じることが増えたが、同時に人の力を借りることの大切さとその威力も学んだものだ。

 聡慈は酒瓶を持ってヴィザーレの元に向かうのだった。






「なんだと? デイやんの奥方が……それはさぞ心配していることだろう」


 ヴィザーレは聡慈から一連の事情を聞いた。

 彼はデイルよりもその妻の味方をするかのような態度を見せている。


 旅の間にデイルの気分の浮き沈みの大きさと調子の良さを目の当たりにしてきた。

 何でも器用にこなせるし、盛り上がった彼は面白い。

 将来の展望を明るく語る彼の姿は魅力的ではある。

 しかしその反面軽率さが目立つ。

 一度沈むと立ち直るのに時間がかかるし、卑屈さも一段大きいので慰めるのは非常に面倒だ。

 デイルの妻が愛想を尽かしたと言うのが真実かは不明だが、そうだったとしても不思議ではないと思える。


「クラリスからは母親のことを聞いたことがないことはどう思う?」

「デイやんに対する遠慮、なら話は早いのだが……母親に何かしらの悪感情を抱いているならば、慎重にならねばならんかな」


 そうは言ってみたが、虐待などの心配はほとんど無かろうと思っている。

 それだけクラリスは優しく賢くしっかりした子なのだ。

 深く心の傷を負わされているとは考えにくかった。


「行くか、二人で」

「頼むよ」


 二人は顔を見合わせ不敵な笑みを交わした。


「よし、景気付けに一杯やろうじゃないか! やるんだよな? その酒は、そう言うことだよな?」

「ああ、そう言うことだとも」

「よし、行くぞ! いやあソーさんと飲むのは久しぶりだなあ」




 ヴィザーレを連れて橋のたもとにやって来た。

 穏やかに流れる川と岸辺に生えた花々、それに広げた乾物をつまみに二人で酒を酌み交わす。

 酒場に行くと際限無く飲むヴィザーレを知り、懲りている聡慈だ。

 ここならば今持っている分だけを限りに安心して飲むことができる。


 ヴィザーレもどんな雰囲気でも酒を楽しめる男だ。

 今回は風流を肴にちびりちびりと舐めるように酒を飲む。


「楽しいなあ」

「ん、そうか。そんなに飲みたかったのか」


 旅の間は酒から遠ざかっていたから、久しぶりに飲めて嬉しいのだろう。

 聡慈はヴィザーレの呟きをそう解釈した。


「違うんだよなあ」


 ヴィザーレは片側の口角を上げ器の酒を見つめた。


「この旅が、だよ。ソーさん」



 ヴィザーレは裕福な家柄の出である。

 生まれの順序により家を継ぐ立場では無いが、足るを知る彼には――酒を除いてだが――与えられた一部の財産で十分に半生を過ごせる余裕がある。

 そんな彼にとっては研究も道楽と言って差し支えない。

 生きる糧を得るための生業ではないのだから。


 ある日偶然、風土史や伝承の類である文献同士が繋がりそうなことを発見した。

 仮説を立て検証して、しばしの暇潰しになるかと思っていた。


 ところが目的のバラバラな三人と出会った。


 人探しの老騎士、父親を立ち直らせたい少女、落ち込んで休みたい商人。


 馬車にでも乗り目的地を巡り、帰ってそれらしい論文を書くだけだった旅は、風変わりな二つ頭の大蛇亀に乗る旅になった。


 少女に対する同情から始まったような旅は楽しかった。

 教え、教えられる。

 自己満足の学問だと思っていたが、こちらが雑談のつもりで話した知識は、クラリスたちにとっては商売にどう結びつけるかという命題になるらしく、どんな知識も無駄にならなかった。

 木登りや狩りに関しては見てるばかりだったが、他の生活術など学ぶことは多く、三人とも気の良い好人物で話していて心地良さがあった。

 酒が無いことは寂しくも思ったが――持っていた酒はドルドにより早々に舐められてしまった――、お陰でドルドに懐いてもらったし酒が無くとも人生楽しめることはよく分かった。



「まだ続けたいなあ」

「そうだな。まったく旅は楽しいものだ」


 聡慈の返答は聞こえていたのか、ヴィザーレは酒の香りを楽しむと少しばかり口に含んで、満足そうに舌で転がし飲み下した。






「ほう、ここが探索者用受付か。あまり賑わってはいないんだな」


 二人で探索者組合にやって来た。

 ヴィザーレは依頼者用受付にしか入ったことはないそうだ。


「時間帯にもよるし、あまり長居する場所でもないからな。大体は自分好みの仕事を手早く見つけて出て行くんだ」


 聡慈は答えながら窓口に向かい職員を呼んだ。


「この依頼の件ですが。依頼主のピウクさんと直接話すことは可能でしょうか」

「少々お待ちください……依頼者様のご希望は尋ね人と会える、または案内してもらえるなら面会希望となっておりますが。その要件を満たすことはできますか?」


 職員の言葉に聡慈とヴィザーレは目配せを交わした。


「それは、約束できません」

「でしたら」

「それでは、我々からピウクさん宛てに伝言差し上げようと思いますが」

「それは構いませんが、手数料がかかりますよ」

「ええ、承知しておりますので心配なさらず」

「はい……? でしたらこちらへどうぞ」


 聡慈たちは事務手続き用の机に向かい、ピウクへの面会を希望する伝言を認め組合に託した。

 依頼主の希望には触れていないため手数料が取られるし、ピウクが拒否すれば無駄になるものだ。

 それは承知の上で二人はピウクからの返事を待つことにした。

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