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巡り求めて  作者: みおま ウス
102/164

102 探索の旅(聖都編-7)

 デイルは僅かに貯まった金を思い切って放出し、聖都から農村部に商品を売りに行くことにした。

 農村への売却は生活必需品が主である。

 値段を上げ過ぎると住民の生活を圧迫するので利益が少ない。

 それでも彼が農村へと商品を持って行くことに決めたのは、儲けの少ない必需品を持って行くことで農村との信用を築くことができると考えたからである。

 それに長旅の間はヴィザーレと聡慈から旅賃をもらえる。

 手間はあるが経費はほとんどかからないことから損はしないという打算もあった。


「うしっ、行くでえ」


 テントの中を荷物で埋め、デイルはドルドに出発を促した。




 クラリスは父親が麦の取引で大損を被ったことを思い返している。


(ちょっと調べれば麦が高騰するなんて根拠のない話だって分かったんだ)


 聖都で聞いて回っただけの話でも博打の要素が強い取引だと判断できたはずだ。

 彼女は集めた情報を多角的に見て分析することを覚えた。


(で、この道であのことが分かれば……)


 そして手の中で水の魔石を転がしながら、目を着けたあることを考察してみようと考えていた。




 父親に勧められクラリスも弓を扱うようになった。

 引く力が弱いので単純な腕力だけでは遠くを射ることはできない。

 だが聡慈から魔法の手ほどきを受けると、一つだけ使えるようになった風の魔法と合わせれば、速く鋭い矢を放つことができるようになった。


「あ〜、もう少しで当たったのにぃ」

「ふっふっふ、まだまだおとんには勝てんな」

「あとちょっとだもん!」


 木の上で休む鳥を狙った矢が外れた。

 悔しがるクラリスを見てデイルはまだ娘に負けないと安堵している。


「しかし目覚ましい勢いで上達するな。これが若さか、素晴らしいものだな」

「ソージはん、まんまおっちゃんのセリフやで」

「いやいや、ソーさんにこそ許されるセリフだろう」

「それもそうやな」


 クラリスは勤勉だった。

 弓もそうだが、新しいことに挑戦するのに躊躇が無い。

 聡慈が薬草を作る様子も真剣に見学し、植物などの採取も手伝い有用な植物の種類も覚えていっている。


「あれ? この水辺の草、初めて見ますよね?」


 クラリスは川で草摘みをしている時、スッと一本茎だけの、葉の無い植物を見つけた。

 普段なら葉や花が千切れたのだろうと思うところだが、最近は良く観察するのでこの草が今の姿で正常な植物だと分かったのだ。


「よく見ているな。その通り、これは水が際立って綺麗な所にしか生えない草だが……この辺りの水質ならもっと頻繁に見かけても良さそうなのに、ここに来て初めて見るとは妙な感じだな?」


 大本山とは違う山から流れてくる小川だ。

 大本山からの流れと同じように清らかな水に見える。


「聖都出てから水の魔石の魔物って、あんまり出てないですよね」


 特に粘這魔は見かけない。

 クラリスは指で口元をトントンと叩いて考える。


「ふうん、何やろな。クラリスは青色が好きやから水の魔石が多い方がええんかな」


 深くは考えてなさそうな父親を置いて、クラリスは考えごとをしながら採取を続けていた。






 聡慈の木登りもデイルに教わりかなり上手くなった。

 また技能【風精契約】を使うと風を使って、木から舞うようにゆっくりと降りたり、木から木へ飛び移ったりすることもできるようになった。


「ソーさんのデカイ体でスイスイと木に登る姿は……面白いな」

「うふふ、熊みたいですね」

「まあまあ筋のいい弟子やで」


 下で好き放題言われていることには気付かず、高い所まで登った聡慈は遠くに建物を見つけた。


「お、村かな? 民家のような建物が見えるぞ」

「ようやくか、いい酒場があるといいな!」

「ほどほどにですよ! あとお父さんはちゃんと商売するんだからね!」

「分かっとるてクラリス。わいの荷を待っとる人たちがおるかもしれんからな」


 デイルは神妙に腕を組む。

 クラリスは満足そうに頷いた。


「売り切ったら仕入れも考えんとあかんし、商売に没頭する時間しか無いかもなあ」

「つれないぞデイやん! つまらんじゃないか」

「……何か企んでない? お父さん」

「なんも〜」


 父がこんなに奇特なのは変だ。

 ヴィザーレはデイルの言うことを真に受けたようだが、クラリスは半目で父親を見つめる。


「デイやんの商人っぷりを見られるのか。楽しみだな」


 聡慈はマイペースにドルドに話しかけていた。






 テントが向かって来るような異様な光景に警戒をしていた村人たちは、それが行商だと分かると一転して歓迎を示した。


「塩と香辛料はあるかい」

「布が欲しいんですけど」

「包丁と鍋はどれだけある?」


 商店も無いような小さな村であり、ちょうど誰か村の代表が買い出しに行かねばならない時期だったらしい。

 売れ行きは好調、荷物は一気に半分近くまで減った。


「いやあ、手間が無くなって助かりましたよ。聖都まで往復すると長く家を空けることになるし、億劫だったんです」


 村長から自宅に招かれて食事を振る舞われている四人。

 この村の村長は持ち回りで買い出しを担当する雑用係だそうだ。


「お水、美味しいですね」

「ん、そうかい? 水の味なんて気にしたことないが。お酒なら分かるがね、ははは」


(聖都の水も前はこんな感じだったかな)


「お、酒があるんでっか?」


 娘が水の味に真剣になっているのに、デイルは水のことよりも酒と言う言葉に食いついた。


「こんな小さな村でも何か名物ができないかと思いまして。酒を作ってるんですよ」

「ほほう! 地酒!」

「これはいいな! 一本買おうじゃないか、なあデイやん!」

「もちのろんやで!」

「どうぞどうぞ! 一本や二本ご馳走しますよ。その代わり、気に入ったら他の場所に広めてくださいね」


 大人たちは緩んだ空気の中酒を飲み始め、場は宴会のようになっていった。


 クラリスは席の端で何か食べては水を飲み、何事か考えている。

 聡慈はキュッと鼻に抜ける辛口の酒を口に含みながら、真剣な顔のクラリスを見て微笑むのだった。




「ふい〜、目が覚めるような強烈な酒やったで」

「目が覚めるどころか泥酔して寝てたけどな!」

「まあ万人受けする酒とは言えへんけど、ツウな人にはええ酒やと思うで。とりあえず箱で二つばか頂きたいけど、ええですかな?」

「ありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いします」


 村で一泊し翌日、デイルは酒だけを仕入れて村長に別れを告げた。



「ん? この袋は何やろ?」


 テントに置かれた、見覚えのない袋を発見してデイルは首を傾げた。


「水の魔石だよ。クラリスが買っていいか聞いていたじゃないか」


 聡慈の言う通り、昨日の宴席でクラリスはデイルに「水の魔石買ってもいい?」と尋ね、適当な返事をもらい途中退席していたのだ。


「ん? そうでっか? それにしても買い過ぎとちがうかな……」


 子どもが小遣いで買うには少々多いように思える。

 デイルは怪訝な顔をした。


「まあいいのではないか? 魔石だから損も得もしないのだろう」


 ヴィザーレの言うように、魔石はそうそう需要も供給も変化しない。

 また、価格操作をしようと大商店が買い占めをすることは法律で禁じられている。

 そのため安定した取引価格が保たれているのである。


「せやね。クラリスは青が好きやし。損せえへんなら構わへんかな」


 村での取引が上手くいったことでデイルは大らかになっていた。

 この調子で何度か往復すれば聖都に物を卸せるぐらいには資産が回復しているだろう。


 自作の弓を鼻歌まじりで手入れするデイル。

 傍らではクラリスが水の魔石を一つ手に取り口笛を吹いていた。




聡慈は技能を習得した。【風属性追加攻撃】

⚪︎軽業師★4→5 (成長時加算:力+1、速さ+2、器用+1)技能習得【風属性追加攻撃】

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