第4話 誰!
神社もとい試験会場にたどり着くと、同じ年ごろの少女が、とてとてと駆け寄ってきた。
「ルリさま! おはようございます!」
だれ?
「ええ、おはよう」
「ルリさまは今日も素敵でございますね! わたくし、試験だと思ったら緊張してしまって、オシャレもいつもよりおざなりになってしまいましたわ」
試験前にオシャレを気にする時点でそこそこに太い神経をしている気がするけど。
それに私から見れば、彼女は充分かわいらしかった。
乙女ゲームの世界観だからか、髪の色が緑がかっている。そこに止められた赤の花かんざしも相まって素敵だった。
「そうなの? すっごく可愛いけど」
そもそも、この世界の人は乙女ゲームのイラストが平均になっているからか、顔面偏差値がやたらと高い。
もしかしなくても、心葉瑠璃たる私が一番微妙な顔をしているんじゃない?
「ルリさまにそうおっしゃっていただけるなんて! わたくし、幸せです!」
「そ、そう」
犬か、ってくらいに嬉しそうに顔を輝かせる少女を前に、私は思わずさがりそうになる足をおさえた。
どうにも瑠璃への好感度が振り切れているように見えるけど、この子はいったい誰なのだろう?
子ども姿だからわからないのかもしれないけど、どうにもゲームでの見覚えも――
「あ」
「ルリさま、どうされました?」
「いや、こっちの話」
そういえば、瑠璃にいつもくっついて回っている金魚のフンみたいな取り巻きがいた。
端役も端役、モブ中のモブだし、名前すら定かじゃないけど、もしかしてその子なんじゃない?
納得した私がしきりにうなずいていると、
「おい、心葉瑠璃!」
今度は男の子が私を指さしながら、大声をあげていた。
口調といい、目つきといい、どうにも友好的という雰囲気ではない。
「は? あんた、だれよ」
友好的でないならこちらの気持ちも楽だ。
名前を聞いて気まずくなるなんてこともない。
気まずいのは最初からだもんね。
「お、おい! お前、なにふざけたこといってんだ!」
おそらく、知り合いではあるのだろう。男の子は私の反応に面食らったようだったけど、その声は私の取り巻きの緑髪にさえぎられた。
「あら、わからないのかしら? 凛之助、ルリさまはアンタみたいな奴のことは眼中にないっておっしゃられているのよ!」
りんのすけ?
聞き覚えのある名前に私は思わず目をまたたいた。
『くくり姫』における攻略キャラの一人も凛之助という名前だった。
そう思って見てみると、たしかに藍がかった黒髪には面影がある。
ゲームでの凛之助はもっと憂いを帯びた目をしていたけど、目の前の男児は年相応に生き生きとした目をしているから、わからなかった。
攻略キャラの一人ということは、私の悲惨な末路に繋がるキーパーソンでもあるわけで……さて、どうしたものかと考えているうちに、試験開始の招集がかかった。
「ルリさま、そろそろですね。行きましょう」
「え、ええ」
取り巻きの緑髪は、凛之助など知らぬ存ぜぬの態度を貫くようだ。
私の第一声が原因とはいえ、凛之助がちょっと哀れにも思える。
「くっ! おい、心葉瑠璃! それと魚住希里華! 試験ではお前らにぶっちぎりで勝つからな! おぼえてろよ!」
おお、この緑髪ちゃんは魚住希里華っていうのか。
凛之助、グッジョブ!
私は希里華に手を引かれながら、凛之助に向かって親指をたてたのだった。
もちろん、心の中で。