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第3話 詰んだ!

 私が布団にふせっていたのは、どうも風邪をひいたかららしい。

 すっかり体調も良くなった私は、やたらと長い髪を女中に手入れしてもらっていた。


「お嬢さまが急に体調を崩されたので奥方さまも心配されていましたが、無事今日を迎えられて、わたくしも本当に安心いたしました」

「ええ、そうでございまするわね」

「あらあら、お嬢さま緊張されてらっしゃいますか?」


 別に緊張しているわけじゃなくて、シンプルに言葉づかいがよくわからないだけなんだけど。

 お嬢さまらしい口調で話そうとしてみたけど、ムリだ。

 意識すればするほど変になる。


 口調についてはムリしないことにした私は、女中に問いかけた。


「そういえば、今日は何があるの?」

「ふふっ、おもしろい冗談をおっしゃるのですね」

「いや、冗談とかじゃなくて」


 鏡ごしの私の額にじわりと汗が浮かんだ。


 気まずい沈黙があたりに広がる。


 しばらくして、本当に私が何もわかっていないことにようやく気づいたらしい。女中は困惑の表情を浮かべながらもおずおずと切り出した。


「……今日は妖祓師(ようふつし)の初級試験の日でございます」


 はい、詰んだ。





 聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥という言葉があるけど、私はたとえ一時といえど恥なんてかきたくないので、人に教えを乞う前にできるだけ自分で調べるようにしている。


 そんな私でも、今回ばかりは何も知らないままでは恥どころでは済まない気配を感じたので、女中に根掘り葉掘り質問を投げかけた。


 その結果わかったのは、やはり私は詰んでいるということだ。


「いきなり試験とか絶対ムリじゃん」


 人の入ったカゴを棒に吊るして人力で運ぶ前時代極まりない駕籠(かご)という乗り物の中で、私はボヤいていた。

 まさか、時代劇でしか見ないような乗り物を使う日がくるとは思わなかったけど、今はそんなことにテンションを上げる余裕もない。


 なにせ、私には心葉(こころは)瑠璃(るり)としての記憶が何もないのだ。

 思い出せることはどれも前の世界、夏目(なつめ)花凛(かりん)としてのものだ。

 この世界の知識は『くくり姫』のゲーム以外ない。

 さらに言えば、瑠璃の末路や、未来に何が起きるかは知っていても、それ以外のことは何も知らない。


 あの女中の名前も、それどころか父や母の名前すら知らない。

 だって、そもそもゲームでも出てきてないからね。もしかしたら、チラッと名前くらいは出たかもしれないけど、そんなの覚えているわけがない。

 そんな日常生活すらあやふやな私が妖祓師(ようふつし)の初級試験を合格できるかというと、できるわけがない。


「そもそも、妖術ってどうすりゃ使えるのよ」


 妖術を使うには霊力が必要でうんぬんかんぬん、みたいな設定に関してならゲーム知識でなんとかなると思うけど、実際に妖術を使うことに関してはさっぱりだ。

 ゲームの時はカーソルを動かしてボタンを押せば発動できるけど、残念ながらこの世界はカーソルもコマンドも再現してくれなかった。


「あーあ、あきらめよ。やめやめ、妖術なんてムリよムリ!」


 笑顔で送り出してくれたあの母親らしき女性の期待を裏切る形になるけど、しかたない。

 運が悪かったと思ってもらおう。


 テキトーに過ごして試験が終わるのを大人しく待つ。これにつきる。


 私が覚悟を決めると、駕籠(かご)の揺れが止まった。

 引き戸がガラリと開けられ、野太い声がかけられる。


「お嬢さま、つきやしたぜ」

「ありがと」


 私は手が差し伸べられるのも待たずにヒョイと駕籠(かご)から飛び降りた。

 トンと石畳みを踏みしめる音があたりに響く。

 駕籠(かご)の中はなかなかに蒸し暑く、現代のクーラーになれた私からすると快適からはほど遠かった。涼しげな風が心地いい。


 足元からまっすぐに伸びる参道の先には朱色の鳥居(とりい)がそびえ立ち、その奥には神社が見えた。


 妖祓師(ようふつし)の初級試験の会場は、その名前に相応しく神聖な場所で行われるようだ。

 どうせ落第なのはわかっているけど、せめて雰囲気だけはおごそかにいきたいものだ。


「よし! それじゃ行ってきます!」

「あ、お嬢さま」

「なに?」


 振り向くと駕籠(かご)持ちの男が信玄袋を手にしていた。


「これ、忘れてやすぜ」

「ほんとだ、ありがと」


 どうにも私に神聖な雰囲気はだせないらしい。

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