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髪の毛



 下川はその後も黒田に難癖をつけようと試みたけれどそのたびに村雨がだっせーだっせーと言いまくり、元々黒田に対して「どーでもいい」と思っているやつと「どっちかいうとクラス内でそういうのがあるのがうざい」と思っているやつが多かったから下川は孤立し始める。江崎ですら「悪いけど、おまえについていけねーわ」と下川を見放す。江崎は俺にほとんど恐怖を抱いている。縋るものがなにもなくなった下川がどうしたかというと、黒田に縋った。下川がおかしな足取りでふらふら黒田に近づこうとしたのを水島が咄嗟に間に割って入る。

 下川は黒田まで辿り着けずに「ごめえええええん」と言って崩れ落ちて床に手をついて視線を下に向けたまますすり泣き始めた。

「かみが、かみが、うらやましかったの」

 下川は泣きじゃくる。要領を得ない下川の話をよくよく聞いてみると髪の毛の話らしい。いまでこそサダコヘアーを確立している黒田だが中学生の時に転校してきた当初はさらっさらのモデルみたいなロングヘアーだった。下川は癖っ毛で何度ストレートパーマをかけてもすぐに元に戻ってしまっていまは色を変えたりでふんわり内側にまとめたりで誤魔化しているけどほんとはロングヘアーに憧れを持っていたんだそうだ。自分の憧れの髪の毛を都会からきたキラキラの女の子が持っているのを見て嫉妬の炎が燃え上がって下川を焼き尽くしてしまったらしい。ここにも馬鹿がいる。高校生なんてのは子供で子供なんてのはみんな馬鹿でたぶん大人も実は馬鹿ばっかりなんじゃないかなと俺は思う。

 いじめって楽しくて仕方なくてなんらかの形で誰かを殴っているのはストレスと同時にどこか快感で最初の理由なんてのは忘れてしまうものだと思っていた(なんで知ってるかって俺がいじめっ子だから)のだけれど、下川は黒田を標的にした理由をちゃんと覚えていたしそれを誤魔化しも正当化もせずに黒田があーしたからだこーしたからだと言い訳もせずに「髪が羨ましかった」と素直に吐き出せたのは結構すごいことなんじゃないだろうか。その理由は黒田にとっては傍迷惑なものだが下川にとってはとても大事なものだったのだろう。

 下川のそんなスーパー自分勝手な理由を披露されて黒田はどうするのかと思いきや、下川のことを許してやって俺は驚く。

「触ってみる? いまごわごわだけど」

 下川の手を自分の髪に触れさせる。下川はえーんえーんとみっともなく泣きながら黒田の長い黒髪に触れる。愛おしそうに触れる。俺は自分なら下川を絶対に許さないだろうなと思う。黒田が下川を許した理由は女性的な性質とか優しさとかそういうのではなくて単に黒田は誰かを許さなかったり憎むことに疲れていた。母親と父親に対して憎しみに近い感情を持っている黒田はこれ以上憎しみの対象を増やしたくなくて誰かを許すことで疑似的に母親と父親を許したかったのだ。

 クラス内ではまだ下川を許さない風潮が残っていたけれど黒田が許してしまったし、攻撃性を収めた下川を孤立させ続けるのは村雨の本意ではなくて教室の雰囲気は次第に落ち着いていく。

 そんなこんなでクラス内でのごたごたはだいたいの解決を見る。


 火を噴いたのは別の問題。

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