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桜咲ク  作者: 水上橋博士
7/15

6

11月も終わろうとしていた。

その日の朝は流石に起きるのが辛かった。

たかが10分程度の運動でも体の節々が痛い。

次の日に来ないだけまだ若いのだろうが。


学校でも予備校でも、ほぼ実戦的な学習に変わってきている。

この期間で成績が伸びてる私を、担任の八島も、講師の「いっちゃん」もとい「一戸」も絶賛している。

一浪すれば、兼ねてから希望していた神奈川の大学にも届くと。

冗談じゃない!

神奈川の大学に魅力を感じたわけでもないし、何よりお寿司の為なのだ。

私は変わらず、北海道を志望することにした。


センター試験まで二ヶ月を切ると、どうしても周りはソワソワし始める。

しかし私はさほど焦りは感じなかった。

英語の勉強と称して、ビートルズを和訳してみたからなのだろうか。

聖母マリアが賢い言葉をくれた。

成すがままに…


よくわからない。

ジョン・レノンやポール・マッカートニーと同じ時代に生きたとしても、恐らく友達にはなれなかったであろう。 ようやく英語の模試で、半分行くか行かないかからだ。言葉の壁は思ったより厚い。


「もういいよ。後はセンターまで一人でやるから」

「大丈夫か?」

「勉強の仕方は何となくわかったから。あんただってそろそろ締めに入りたいでしょ?」

万が一健太が受験に失敗した時、私のせいにされたくはない。


「まあ、教える側も勉強にはなるんだけどな」

「わかんないとこあったら聞くから大丈夫」

「そっか。お前もかなり基礎固まってきたし、ここまで来たら俺が口挟むとこじゃないかもな。じゃあ、お互い頑張ろうな!」

免許皆伝といったとこだろう。勉強してるフリではない。今の私なら大丈夫。

自分に言い聞かせ、健太を見送った。


深夜一時。お気に入りのマンガは本棚の中で順番通りに整列している。

最近は主に構ってもらえない為、少しだけ埃が被っていた。

ペンを置いた私は、ふと窓の外を眺めてみた。

通った車のライトが眩しく、すぐに窓を閉めベッドに仰向けになった。

これまでのこと。これからのことを考えた。


北のキャンパスで笑っている自分を想像し、少しだけ笑った。


自分が行く道に何があるのか…

色々考えたが、やっぱり答えは出なかった。

今はまだ答えを出すべきではないだろう。

電気はついたまま、気づけば眠りについていた。

母が持ってきたコーヒーが冷めていくのもそのままに。


「どうだ?勉強の方は?」

これは父の決まり文句だ。

「まあ、ぼちぼち…」

これは私の決まり文句。

「この前の模試良かったもんね!」

これは最近の母の決まり文句だ。

「いくら点数取っても、模試だしね」

自分ではカッコいいことを言ったつもりだったが、

「咲希。結果はどうあれ、自分が後悔しないように頑張りなさい」 という父の言葉にはちょっとかなわなかった。


後悔。


今自分がしていることは、「頑張っている」とは思う。

他にすることがないので、辛いとは思わないが。

成績に関しても、スタートはもう落ちるとこがない程下にあったので、伸び悩むこともない。

これで失敗して後悔するだろうか? その時にならなきゃわからない。


「やらないで後悔するより、やって後悔した方がいいんじゃない?」

予備校の帰りに、今朝の家族の会話を健太に漏らしたら、そんな言葉が返ってきた。

「何もしなきゃ何も始まらないだろ?行動起こして失敗したなら、次に繋がるしさ!」

「あの時あーしたらとかが?」

「バスケでもさ、試合後にたらればを言い出したらキリがないけど、それ言わなきゃ何も成長しないし」

健太は「ん~」と一つ伸びをした。

これはクサい台詞を言う前兆だ。


「俺さ、人生に無駄なことなんて一つもないと思ってるんだ」

昔聞いたことがある。

あの時は、全ては無駄から、つまり無意味から構成されていると返した。

「例えば受験でもさ、意味なく無駄に過ごした時間があっても、それが無駄だと気づけただけ、無駄じゃないんじゃないかな?」

「私のこと言ってるの?」

「例えばだよ!でも自分でそう感じてるんなら、それも無駄じゃない」

何だろう?教師と言うか、ドラマの教師役の方が向いているのでは?

それを口にしないだけ、私も丸くなったものだ。


その夜、久しぶりに夢を見た。

夢を見ても朝になれば大抵覚えていないことが多いが、その日は鮮明と思い出せた。

鮮明と言えば綺麗な夢に思えるかもしれないが、何のことはない。

ただただ真っ暗な道を一人でひたすら歩くだけの夢だ。

途中つまずいたりもしたが、それでも歩き、ある扉を開けた。

その扉の先には真っ白く美しい光景があった。

部屋の真っ白な天井である。

要は扉を開けた瞬間目が覚めたのだ。


結局、その先には何があるのはわからないままだった。

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