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元旦。 私宛の年賀状は健太と予備校と、美容室からだけだった。
お雑煮を食べながら、特番の若手漫才師のネタを見ていた。
無名コンビだったが、番組中に実力はかなり評価されていた。
「今年は何か変わりそうな気がします!」 コンビのどちらかが言った。
同感だ。私自身も何か変わりそうな気がする。
父と母は初詣に出かけた為、リビングでは一人だった。
次のコンビのネタのオチ前にはテレビを消し、部屋へ戻った。
受験生には正月なんてないらしい。
本番を想定し、時間を計りながら予想問題を解く度、手応えを感じる。
自分の頑張りが形になって実るとはこのことだろう。
凄く嬉しいとまではいかないが、悪くない。
採点し終わったテスト用紙のすぐ隣に、初詣で買ったお守りが置かれていた。
センターは今月の16日と17日。
何故か少し楽しみになっていた。
これなら良いスポーツマンになれそうだ。
イブのファミレスで言われた言葉。
「受験は人生に一度しかない一大イベントだ!せっかくだから楽しもう!」 一度しかないのだ。
今回はダメだったとしても、来年また挑戦する気なんてさらさらない。
ダメならダメで、バイトをしつつ仕事口を探す。
せっかくの機会だ。一度しかないのだから楽しもう。
1月3日までは予備校は休みだったので、一歩も家から出なかった。
食事とトイレと入浴以外は机から離れなかった。
いつか見た夢。真っ暗な道の先の扉。
今はその扉の鍵でも作っているのだろうか。
考え方一つで、過酷な受験だって楽しめる。
予備校の他の生徒は鬱になっている者もいた。私もそうなってもおかしくなかった。
想像力が割と豊かで助かった。
部活をやっていたものは受験に強いと聞いたことがある。
帰宅部よりは体力があるからだ。そう考えると、意外と私も体力がある方だ。
偉そうに言ったが、夏頃から勉強を始めた私は一般的な受験生とはスタートが違う。
みんながフルマラソンを走り、中間地点からハーフマラソンの私がスタートする。
それで勝ったところで自慢にもならないし、情けないだけ。
そして、それでも太刀打ち出来ない相手が私の身近にいる。
最近は冷え込みが激しく、雪が降ってもおかしくない。
関東ではしばらく降ってはいないので、久しぶりに見てみたい気持ちはある。
大学に入学する頃でも、恐らく北海道に残ってはいるだろう。
すでに受かった気でいるのも恥ずかしいが、それは周りは合格間違いないと豪語しているせいだ。
本番までの間、予備校では予想問題、次の日にその解説と、再び予想問題。
この繰り返しだった。
日を増すごとに私の点数は更に伸びていった。
結果、もう少しレベルの高い大学も可能らしいが、時すでに遅しであった。特に興味もない。
単純な毎日は時間の経過がやけに早い。 14日。 明後日からセンター試験が始まる。
「明後日だな。だんだん緊張してきた…」
予備校の帰りのカフェだった。
今日解説された三角比の問題がどうしてもわからず、申し訳ないがつき合ってもらった。
「緊張?する?」
「普通するだろ!」
「いや、別に…」
「尊敬するわ~。どんな神経してんだよ!」
「そこまで賭けてないしね」
「でも落ちたら絶対悔しいぞ!ここまで頑張ったんだから」
「無駄になるのは嫌だな」
「無駄にはならないさ!」
「達成感ってやつ?」
「頑張ったお前はお前のもんだからな!絶対無駄じゃない!」
「それさ、私が落ちたらもう一回言って」
とは言え、浪人するつもりなんてこれっぽっちもないが。
「明日雪らしいね」
窓の外の寒そうな風景を見て呟いた。
「近々降るとは思ったけどな~。予報ではセンターの日吹雪くらしいぞ」
「マジ?」
「でも、試験の日って天気悪いと逆に縁起良いんだってな?」
「でもそれは全員平等でしょ?みんなに縁起良いなら意味ないじゃん!」
「凄い正論だな!気休めにもならないだろうけど、ジンクスみたいなもんだろ」
「雪はいいけど、吹雪はイヤだな」
もう一度窓の外を見て呟いた。
寒いのは苦手。それが今から3、4ヶ月後には、日本で一番寒い地域だ。
また受かったつもりでいる。
「別にとか言ってるけど、ホントは合格したいかも」
初めて本音を口にした。独り言でも言ったことがなかった。
「わかってるよ。言ったろ?お前はわかりやすい」
自分で自分のこともわからないのに。
「それに合格したくないやつがこんなに頑張るわけないもんな!」
帰り道にある別れ道で、少し立ち止まった。
その後は特に会話もなく、時間だけが経過した。
と言っても数分なのだろうが、私には数十分くらいに感じた。
どちらかが口を開くよりも、天からの贈り物の方が早かった。
「雪?」
もちろん健太の言葉の前に気づいた。
「ホントだ。もう降ってきたんだね」
「綺麗だな~」
「桜みたい」
「寒ささえなければそう見えるな~」
また沈黙があった。ただ黙って空を見上げた。
「多分私頑張ったよね?」
「頑張った!胸張っていいぞ!お前は…」
「もういい!それだけでいい」
健太が何を言おうとしたかわからないが、それだけで充分だった。
「帰ろっか?」
「だな。風邪ひいてらんないし。体調管理には気をつけないとな!」
「じゃあね」
「咲希!」
健太の呼び声を背中で聞いて、振り返った。
「春になったら、本物の桜見ような!大学生になって!」
「おやすみ」
分かれ道をそれぞれ歩く。
二人のこれからを暗示しているような気がした。
健太は地元の大学、私は遥か北の大学。
それぞれが希望としている道への分かれ道。




