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この時期は時間が経つのが早いのか遅いのか。
気がつけば今年が終わるまで後数時間となった。
昼間の母は、大掃除だとかでごちゃごちゃしていたが、今は落ち着き、リビングで紅白歌合戦を見ていた。
何でもひいきにしているアイドルグループが出るんだとか。
いい歳して恥ずかしい。
私はと言うと、大晦日だからといって特別なことはない。
昨日と変わらず、市販のテスト問題と格闘していた。
それは年が明けた明日も変わらない。
センターまで後半月。
もう半月なのか、まだ半月なのか。やっぱりよくわからない。
私が今年最後の夕食の為、リビングに行った時には、今年世間を騒がせたユニットが踊りながら歌っていた。
きっと来年は見ることはないだろう。
大晦日なので、ご馳走と呼べる食卓だったが、私はいつも通り早々と食事を済ませ、部屋へと戻った。
真っ暗な部屋には、青く点滅するライトの光が目立った。
通学時にレリピーを聴く以外使い道がないスマホだ。
ー不在着信ー
ー立花健太ー
年の瀬に何の用だ。明けましておめでとうにはまだ少し早い。
一応かけ直した。
「もしも~し」
「もしもし?電話した?」
「あのさ、お前初詣いつ行く?」
「そんなのここ何年も行ってないよ」
「受験生なんだから今回くらい行こうや!別に身内に不幸とかあったわけじゃないだろ?」
「何もないよ」
「これから行かない?」
「これから!?もう遅いよ?」
「普通じゃん!それに明日行くより早く行った方が御利益ありそうじゃね?」
そんなものなのか。
「今までお互いやるだけやったんだから、最後くらい神頼みしてもいいだろ!」
結局行くことになってしまった。何故か健太の誘いは毎回断り切れない。
クラスの学校祭の打ち上げなんかは一言で断れるのに。
神頼みもたまにはいいかと感じたのも理由の一つではあるが。
いつもの黒いマフラーを巻いて夜更けに家を出た。
ここ近年ご無沙汰だが、この寒さは今にも雪が降ってもおかしくない。
もし大学に受かったら北海道。きっとこれで寒がっていては笑われるのだろう。
近くの神社で待ち合わせ、到着した頃にはすでに健太はいた。
「明けましたらおめでとう!」
「明けましたらね。凄い行列だね?」
「こんなもんじゃね?」
「夜来たの初めてだから」
「朝派か~」
「朝派って言うの?いつもは家族と一緒だから起きてからだね。いつもって言っても中一以来だけど」
「大分ご無沙汰だな~。神様に顔忘れられてんじゃない?」
「今日覚えてもらえば問題ないでしょ」
行列に並び、寒い中参拝の順番待ちをした。
「ちょっと並んでて!」
健太は私の返事も聞かず列を抜け出した。
五分程経った後に戻って来たその手には、甘酒が入った紙コップが二つあった。
「はい。甘酒!今日は寒いからな~」
「ありがと」
とは言ったものの、この甘くて白い液体は昔から得意ではなかった。
その好意は素直に受け取るが、飲み干す頃には最前列にまで達していた。
タイミングは完璧で、その時に鐘がなった。
新しい年の幕開け。
「賽銭は?」
「最初で最後の神頼みだからね。奮発して五百円!」
健太の問いに、どーだ!という表情で答えた。
「太っ腹だね~。俺はこれ!」
十円玉と五円玉だった。
「安くない?」
「気持ちの問題だからね!俺は毎年これ。十分にご縁(五円)がありますようにって。だから十五円!」
「トンチ効かせればいいの?安上がりだから私もそうする!」
急いで財布の中を確認した。
「いやいや、安上がりとかって考えはダメだろ!怒られるぞ!」
結局、ギリギリの時間で見つけた小銭二枚を古びた木箱投げ入れ、大きな鈴を鳴らした。
お参りの作法はまだ忘れてはいなかった。
「何お願いした?」
行列から抜けた後の健太の質問。
「教えると思ってるの?」
「思ってない」
「あんたは?」
「教えると思ってんの?」
「あわよくば…」
顔を見合わせて笑った。
「咲希!おみくじ引こう!絵馬も!」
健太に手を引かれ、別の行列に並んだ。
健太と一斉におみくじを引いた。
「よし!大吉!これ受験はもらったな~」
健太は私の浮かない表情に気づいたのだろう。
「まさか…」
健太の目の玉目掛けて、達筆で『凶』と書かれた紙を押しつけた。
「マジで~!この状況で凶とか笑えねえな~」
笑えないと言った張本人は腹を抱えるように笑っていた。
『凶』
学業・仕事:良くないでしょう
願事:叶いづらいでしょう
病気:治りづらいでしょう
失物:見つからないでしょう
待ち人:見つからないでしょう
旅行:良くないでしょう
結婚・付き合い:全て悪い結果になるでしょう
「何これ!何もかも最悪じゃん!」
「いや、面白いな~。内容は大凶並みじゃん!」
健太はムカつく涙を拭っていた。
「ほら、あそこに結びな!おみくじに救助システムがあって良かったな!」
私はぶつぶつ文句を言いながら、凶のおみくじを結んだ。
「そんなふてくされるなって!」
「自分は良かったからって…」
「お前がこういうの信じるタイプとは思わなかったな~」
「もう信じない」
「解けないように結んだら大丈夫だって!絵馬書きに行こう!」
絵馬の売場は他と比べると空いていた。
絵馬は初めてなので、何を書いていいのかわからず、横目で健太の絵馬を見た。
『みんな笑って合格!!』
綺麗事のキレは今年も健在だ。
少し考え、私はこう書いた。
『無駄にならないように』
無駄じゃないことなんか一つもない。
健太のこの思想には共感出来ない。
ただ、この数ヶ月やってきたことは絶対無駄ではない。
いや。 無駄にしたくない。 そんな願いを絵馬に込めた。
「風強いな~。寒いからちょっと暖まって行こう」
健太と一緒に、焚き火に両手を差し出した。
「あ、ちょっと待ってて」
健太の返事を待たず、私は焚き火を後にした。
両手に甘酒の入った紙コップを持ち、焚き火に戻った。
「二杯目。こんなんじゃ酔わないでしょ?」
「サンキュ!甘酒で酔ってたら大学行けないよ!そもそもアルコール入ってないしな!」
賽銭で485円浮いたので買ってやったまで。
私としては、やはりこの白い液体は得意じゃない。
強い風が焚き火を更に燃え上がらせた。




