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桜咲ク  作者: 水上橋博士
10/15

9

この時期は時間が経つのが早いのか遅いのか。

気がつけば今年が終わるまで後数時間となった。


昼間の母は、大掃除だとかでごちゃごちゃしていたが、今は落ち着き、リビングで紅白歌合戦を見ていた。

何でもひいきにしているアイドルグループが出るんだとか。

いい歳して恥ずかしい。


私はと言うと、大晦日だからといって特別なことはない。

昨日と変わらず、市販のテスト問題と格闘していた。

それは年が明けた明日も変わらない。


センターまで後半月。

もう半月なのか、まだ半月なのか。やっぱりよくわからない。

私が今年最後の夕食の為、リビングに行った時には、今年世間を騒がせたユニットが踊りながら歌っていた。

きっと来年は見ることはないだろう。

大晦日なので、ご馳走と呼べる食卓だったが、私はいつも通り早々と食事を済ませ、部屋へと戻った。


真っ暗な部屋には、青く点滅するライトの光が目立った。

通学時にレリピーを聴く以外使い道がないスマホだ。


ー不在着信ー

ー立花健太ー


年の瀬に何の用だ。明けましておめでとうにはまだ少し早い。

一応かけ直した。


「もしも~し」

「もしもし?電話した?」

「あのさ、お前初詣いつ行く?」

「そんなのここ何年も行ってないよ」

「受験生なんだから今回くらい行こうや!別に身内に不幸とかあったわけじゃないだろ?」

「何もないよ」

「これから行かない?」

「これから!?もう遅いよ?」

「普通じゃん!それに明日行くより早く行った方が御利益ありそうじゃね?」

そんなものなのか。


「今までお互いやるだけやったんだから、最後くらい神頼みしてもいいだろ!」

結局行くことになってしまった。何故か健太の誘いは毎回断り切れない。

クラスの学校祭の打ち上げなんかは一言で断れるのに。

神頼みもたまにはいいかと感じたのも理由の一つではあるが。

いつもの黒いマフラーを巻いて夜更けに家を出た。


ここ近年ご無沙汰だが、この寒さは今にも雪が降ってもおかしくない。

もし大学に受かったら北海道。きっとこれで寒がっていては笑われるのだろう。


近くの神社で待ち合わせ、到着した頃にはすでに健太はいた。


「明けましたらおめでとう!」

「明けましたらね。凄い行列だね?」

「こんなもんじゃね?」

「夜来たの初めてだから」

「朝派か~」

「朝派って言うの?いつもは家族と一緒だから起きてからだね。いつもって言っても中一以来だけど」

「大分ご無沙汰だな~。神様に顔忘れられてんじゃない?」

「今日覚えてもらえば問題ないでしょ」

行列に並び、寒い中参拝の順番待ちをした。


「ちょっと並んでて!」

健太は私の返事も聞かず列を抜け出した。

五分程経った後に戻って来たその手には、甘酒が入った紙コップが二つあった。

「はい。甘酒!今日は寒いからな~」

「ありがと」

とは言ったものの、この甘くて白い液体は昔から得意ではなかった。

その好意は素直に受け取るが、飲み干す頃には最前列にまで達していた。

タイミングは完璧で、その時に鐘がなった。


新しい年の幕開け。


「賽銭は?」

「最初で最後の神頼みだからね。奮発して五百円!」

健太の問いに、どーだ!という表情で答えた。


「太っ腹だね~。俺はこれ!」

十円玉と五円玉だった。


「安くない?」

「気持ちの問題だからね!俺は毎年これ。十分にご縁(五円)がありますようにって。だから十五円!」

「トンチ効かせればいいの?安上がりだから私もそうする!」

急いで財布の中を確認した。


「いやいや、安上がりとかって考えはダメだろ!怒られるぞ!」

結局、ギリギリの時間で見つけた小銭二枚を古びた木箱投げ入れ、大きな鈴を鳴らした。

お参りの作法はまだ忘れてはいなかった。


「何お願いした?」

行列から抜けた後の健太の質問。


「教えると思ってるの?」

「思ってない」

「あんたは?」

「教えると思ってんの?」

「あわよくば…」

顔を見合わせて笑った。


「咲希!おみくじ引こう!絵馬も!」

健太に手を引かれ、別の行列に並んだ。


健太と一斉におみくじを引いた。

「よし!大吉!これ受験はもらったな~」

健太は私の浮かない表情に気づいたのだろう。

「まさか…」

健太の目の玉目掛けて、達筆で『凶』と書かれた紙を押しつけた。

「マジで~!この状況で凶とか笑えねえな~」

笑えないと言った張本人は腹を抱えるように笑っていた。


『凶』

学業・仕事:良くないでしょう

願事:叶いづらいでしょう

病気:治りづらいでしょう

失物:見つからないでしょう

待ち人:見つからないでしょう

旅行:良くないでしょう

結婚・付き合い:全て悪い結果になるでしょう


「何これ!何もかも最悪じゃん!」

「いや、面白いな~。内容は大凶並みじゃん!」

健太はムカつく涙を拭っていた。


「ほら、あそこに結びな!おみくじに救助システムがあって良かったな!」

私はぶつぶつ文句を言いながら、凶のおみくじを結んだ。


「そんなふてくされるなって!」

「自分は良かったからって…」

「お前がこういうの信じるタイプとは思わなかったな~」

「もう信じない」

「解けないように結んだら大丈夫だって!絵馬書きに行こう!」


絵馬の売場は他と比べると空いていた。

絵馬は初めてなので、何を書いていいのかわからず、横目で健太の絵馬を見た。


『みんな笑って合格!!』

綺麗事のキレは今年も健在だ。


少し考え、私はこう書いた。


『無駄にならないように』

無駄じゃないことなんか一つもない。

健太のこの思想には共感出来ない。

ただ、この数ヶ月やってきたことは絶対無駄ではない。

いや。 無駄にしたくない。 そんな願いを絵馬に込めた。


「風強いな~。寒いからちょっと暖まって行こう」

健太と一緒に、焚き火に両手を差し出した。


「あ、ちょっと待ってて」

健太の返事を待たず、私は焚き火を後にした。


両手に甘酒の入った紙コップを持ち、焚き火に戻った。

「二杯目。こんなんじゃ酔わないでしょ?」

「サンキュ!甘酒で酔ってたら大学行けないよ!そもそもアルコール入ってないしな!」

賽銭で485円浮いたので買ってやったまで。

私としては、やはりこの白い液体は得意じゃない。


強い風が焚き火を更に燃え上がらせた。

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