闇を切り裂いて
キョウジはミサトの上に跨がったまま、研究室と続くドアを凝視した。
ガチャ。
ドアノブが回された。だが鍵がかかっている為、開かない。
ガチャガチャ。
ガチャガチャ。
キョウジは息を潜めて身体を硬直させた。
ドアノブの動きが止まった。諦めたのか、それとも……
静寂の中でキョウジの心臓の音だけが加速していく。
キョウジは“ソイツ”に聞かれてしまう気がして、思わずシャツの胸元を鷲掴んだ。
その瞬間。
ドアは薄紙の如く切り裂かれ、その隙間から巨大な刃先が突き出した。
「……ヒィッ?!」
キョウジがベッドから転げ落ちた。
慌てて部屋の隅まで這いずっていく。物陰に隠れる様にしてドアのある暗がりに目を凝らした。
ガタン……ガタガタ。
何者かがドアに開いた隙間から侵入しようとしている。
キョウジは叫び出したい衝動を必死に堪えた。腕を抱く指先に力が込められ、爪が食い込むのにも気付かない。
ガタッ……カタン。
ドアの破片を押しやり姿を現したのは予想外に小さな人影だった。
その小さな姿に見合わぬサイズの巨大な鎌を構えた“ソイツ”は……
少女だった。
見た感じは十歳前後か。だが、キョウジは奇妙な事に気付いた。
何と少女は一糸纏わぬ全裸であった。
少女はベッドの上のミサトをチラリと見た後、キョウジの隠れる物陰に向かって声をかけた。
「隠れてないで出てきたら? そこにいるのはわかってるのよ」
キョウジが物陰から姿を現す。
「何なんだお前? ここはお前みたいなガキが来る所じゃねぇんだよ!」
相手が小さな少女と見てキョウジは俄然、強気になった。
だが大鎌を警戒する事は忘れない。
キョウジは鎌の刃が届かない様に、間にベッドを挟んで向かい合った。
ミサトの横たわるベッドを。