【其之拾参】拘束
ナイフを握ったミサトの手が振り下ろされた。
間一髪逃れるキョウジ。その背中に追い縋ろうとしたミサトの足元が急にふらついた。
「……?」
おかしい。目眩と共に不自然な脱力感を覚え、ミサトはキョウジを睨み付けた。
「キョウジ……貴方……」
キョウジは肩で息をしながら勝ち誇った様に言った。
「危ない危ない。まさかナイフを出してくるとは思わなかったよ。でもまぁ……ぎりぎりセーフ、かな」
ミサトの取り落とした果物ナイフが音を立てて床に跳ねた。
「何を……飲ませたの……!」
床に崩れ落ちるミサトを見下ろしながらキョウジが野獣の笑みを浮かべた。
「安心しろよ。ただの鎮静剤さ。まぁ……意識がもつのはあと10分ってとこだろうけど」
キョウジの声が妙に遠く聞こえる。
ふいに顎を持ち上げられた。蛍光灯の眩しさに目が眩む。視界が翳ってキョウジの顔が覗いた。
「……やっと手に入れたよ。俺の可愛いミサト」
「離……し……て」
ミサトの唇がキョウジに塞がれた。
「……!!」
全身に虫酸が走る。
だがミサトはもはや指一本動かせない。
無抵抗のミサトはキョウジの思うままだった。
舌が入れられ、ミサトの舌を絡め取った。
キョウジの舌は思う存分ミサトの口内を蹂躙した。
ようやく口を離したキョウジはミサトを抱え上げると、隣の部屋へと移動した。
部屋へと運ばれたミサトの虚ろだった眼が一杯に見開かれた。
部屋の真ん中には白いベッドがぽつんと置かれている。
ミサトは直感した。ここは解剖室だ、と。
必死にもがくミサトをキョウジが優しく抱きしめ、耳元で囁いた。
「大丈夫。解剖したりなんかしないから」
キョウジがミサトをベッドに横たえる。身を捻って逃げようとするミサトを押さえつけ、キョウジは手早く拘束具をミサトの手首に嵌めた。
「実習で慣れてるからね。無駄だよ」
更に足首が固定される。
「大丈夫。大人しくなったら外すからさ♪」
その行為の意味を悟り、ミサトの背筋に悪寒が走る。
キョウジの手でメスが鈍い光を放った。