確信
ミサトはついに覚悟を決めた。
「キョウジ……私、知ってるのよ。貴方……ずっと前から私を想っていてくれたのでしょう?」
「ミサト……?」
「貴方は……ずっとずっと私を見ていてくれた……ユウジがいなくなってからも、私に優しくしてくれた……」
ミサトがゆっくりと席を立った。机を回り、キョウジへと歩み寄る。
ミサトを見つめるキョウジの瞳に欲望の焔が揺れるのを認め、ミサトは薄く笑みを浮かべた。
「ずっと……ずっと私が欲しかったのよね?」
「……あぁ」
キョウジは頭の片隅で警報を聞いていた。
“おかしい” “いつもと違う”
だが、キョウジの欲望がその警報を消し去った。
ずっとずっと欲しかったモノが目の前に……手を伸ばせば届く距離にいるのだ。
キョウジはもうその事しか考えられなくなっていた。
「ずっと……ずっとミサトが欲しかった。けど……ミサトはユウジのモノだった……」
「そうね……私はずっとユウジのモノだったわ……でも……それでも欲しかったのでしょう?」
ミサトがつぃ、と手を伸ばした。
ひんやりした感触がキョウジの頬に当たる。
ミサトに頬を撫ぜられ、キョウジは頭に血が上った。
「あぁ……そうだよ……ずっとずっとミサトを好きだったんだ……ユウジがミサトを独り占めしているのが……いつも羨ましかった……だから……」
そこまで言った途端、ミサトの手の感触が消えた。
代わりに冷たく鋭い言葉が突き刺さった。
「……だから『殺した』の?」
上った血が一気に引いた。
「ミサト? 何を……」
「……貴方が殺したのよ。私を自分のモノにする為に。自分の欲望を満たす為にユウジの命を……私の世界を奪ったのよ!」
ミサトがバッグから果物ナイフを取り出し、キョウジへと切りつけるのを、椅子から転げ落ちる様にしてキョウジが避ける。
「待てよミサト、落ち着けって!」
「落ち着いてるわ。私、知ってるのよ。あの日、ユウジに貴方が何を言ったのか」
「な……」
「あの場にいた人が聞いてしまったのよ。貴方がユウジに『ミサトは俺が貰う』って言ったのをね!」
ミサトが果物ナイフを振りかざす。
刃が光を反射してギラリと光った。