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世界が死んだ日

「──御臨終です」


 その一言でミサトの世界は脆く崩れ去った。


 看護師が事務的に動くのを、ただぼんやりと眺める。

 本当は夢なのではないか。そう錯覚しそうになる程、現実味が無かった。


「ユウジ……」


 ミサトの唇が無意識に“彼”の名を呟いた。

 だが、返事は無い。


 いつもなら


『ん? 何だよミサト♪』


 そう言って満面の笑顔でミサトの頭をくしゃくしゃ、と撫でる筈の“彼”──ユウジはベッドの中でたった今、その生命の灯火を消してしまったのだから。


 ミサトはゆっくりとユウジに近付き、手を握った。

 ユウジの温もりを繋ぎ止めようとするかの様に。

 だが……無情にも、“死”はユウジから生命の余韻を奪い取っていった。


「ミサト……」


 ミサトは虚ろな視線を声の主へと向けた。


 白衣に身を包んだその人物は、先程ミサトにユウジの臨終を告げた医師であった。


「すまない……ユウジを……アイツを助けてやれなかった……」


 苦悩に顔を歪める男にミサトは無理矢理笑顔を作り、首を振った。


「ううん……ありがとう、キョウジ」




 ユウジの葬儀はひっそりと行われた。


 ユウジの家族は事故で早くに亡くなった為、喪主は妻であるミサトが行った。


 実はまだ入籍が済んでいないミサトには本来その権利は無かったのだが、諸事情を考慮した結果、特別に計らってもらったのだ。それにはユウジの親友であり、大病院の院長の跡取り息子でもあるキョウジの尽力が大きかったと言えよう。


「キョウジ……貴方には何とお礼を言ったら良いか分からないわ」


 葬儀の後、キョウジにお茶を出しながらミサトが言った。


 キョウジが慌てて手を顔の前で振る。


「何言ってるんだよ。ユウジは俺の一番の親友だったんだ、これくらいじゃ足りないよ。それに……俺はアイツを助けてやれなかった。その償いの為なら何でもやるさ」


 そう言って一息にお茶を飲み干した。

 ミサトが目を伏せる。


 コトリ、とキョウジが湯呑みを置いた。


「ミサト……何て言っていいか分からないけど……一人で背負い込むなよ。俺で良ければいつでも相談に乗るからさ」


「キョウジ……ありがとう」


 ミサトは声を震わせ、それでも笑顔を作ってみせた。

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