9 装備
特に何事もなく街に到着。リンに連絡するか。
メニューを開き、その中のフレンドリストを開く。リンを選択して……これだな。
『はいはーい』
『着いたぞ』
『遅かったねー。お楽しみだった? なんてー……』
『ああ、楽しかったな』
『なん……だと』
『どうした?』
『女の人と?』
『? ……そうだな』
ゴブリンやPKを暗殺出来て楽しかったな。
肉を切る感触。血を噴き出す魔物や人。突然の事に驚愕する表情。あんなに楽しいことを忘れるなんて無理だ。
思い出すと、また暗殺がしたくなってきたが、今は装備だ。一旦、心を無にして忘れよう。
しかし、リンは何でアオイとアカネの事を知ってるんだ?
まだ、言ってさえいないぞ。
『浮気かー!』
『は? 何を言っている』
『女の人と楽しんだんでしょ!』
『……何か誤解をしているようだな』
帰り道であった出来事ををリンに説明した。
『ふーん。それならいいや。怒鳴ってごめんね』
『問題ない』
『ありがとう。それで、今どこ?』
『東の門の前だ。どこに行けばいい』
『それならマップに、私の家の場所が分かるようにするから、そこに来て』
『ああ、分かった』
『じゃあ、後でねー』
リンとのチャットを切ると同時に、メッセージが届く。
メッセージには招待状と書かれている。
招待状を開くと、マップにリンの家である場所が表示された。始まりの街 アインスの東南か。
この場所から近いな。早速移動しよう。
移動の中、周囲を見渡すと、街中は賑わっていた。
サービス開始してまだ初日だからだろう。
叫んでいるもの、パーティーの募集をしているもの、その辺に寝て全く動かないもの、様々だ。
……最後の動かないやつ死んでないか? 道の真ん中で全く動かないのだが……周囲は指を向けて笑っているプレイヤーやひそひそ話しているプレイヤーがいる。
住民は苦笑いだ。
どういうことだ?
……分からない。丁度、リンの場所に行くことだし、聞いてみるか。
【隠密】を発動しながら走ること数分。
リンの家がある場所に到着した。
……でかいな。中庭を含めれば、周りの家の10倍以上はでかい。
ひとまずチャイム? みたいなのがある。それを押すとしよう。
鐘の音が鳴り、少し待つ。
待っていると、リン? が出てきた。
そういえばゲームの方では初めて見る。
……リアルと変わっているのは茶髪に青目だけか。
身長も変わらず140cm程で、髪をサイドに纏めている。
顔もリアルと同じで可愛い顔だ。
【鑑定】してみるか。
名:リン 種:小人 職:ワーカー
種族 Lv.2
職業 Lv.6
小人? 確か身長が縮むはずだが……リアルと変わってないぞ。
「シャドウ? どこ?」
「ここだ」
「うわ! びっくりした。相変わらずどこにいるか分からないね」
「リアルの隠密技術とスキルの【隠密】も使っているからな。それでリンは小人なのか? 全く変わってないが」
「うん。そうだよ。変わらないでしょ! 普通だったら小人を選択すると身長が一定まで縮むんだけど、私は選択しても変わらなかったんだよ!」
「……そうか」
「何か気になる反応だけど、シャドウは……猫の獣人? 【鑑定】したけど、名前がクロだし【偽装】しているでしょ」
「ああ」
【偽装】は自分で名前、種族、職業を変えることが出来る。
今の俺は【偽装】で名前と種族を変えている。
【看破】が無い人はこう見えているだろう。
名:クロ 種:獣人(猫) 職:シーフ
種族 Lv.2
職業 Lv.2
シンプルだが、アイが言うには獣人(黒豹)の見た目は獣人(猫)に似ているらしい。
【鑑定】で名前、種族、職業を見られても、不自然に思われないだろう。
「それでそれで、どんな種族?」
「黒豹だ」
「……聞いたことない。掲示板にも載ってない種族でしょ! 詳しく教えて!」
「ここでは無理だ」
「ん? ああ、そうだね。私の部屋に行こ」
「ああ」
リンに手を引かれながら中庭を歩く。
中央に噴水があり、外郭には一定間隔に実をつけている木があった。
まだ、サービス開始してから数時間だからか、置物はそれくらいだ。
「この屋敷はリンだけの屋敷か?」
「違うよ。私が所属しているギルドの家」
「ギルド? じゃあ、他にもいるのか」
「うん。ギルド名は【ワークス】。人数は私を含めて5人だけど、全員βテスト時の生産職トップだよ。鍛冶、裁縫、料理、調薬、そして私の装飾品、錬金」
「リンは装飾品だけかと思ったが、錬金もやるのか」
「うん。呪いをつけるのが楽しいんだ。嫌いな相手になら特にね」
「……そうか」
内容はあれだが、楽しいなら何よりだ。
「それと、シャドウ」
「ん? どうした?」
「暗殺が楽しかったのは分かるけど、その笑みは隠した方が良いよ? もちろんその顔も格好いいけど」
「おっと。顔に出てたか」
「うん。私じゃ無かったら通報するレベルだね」
「そこまでか……まぁ、最初だけだと思うぞ。今まで、我慢してきたからな。その分の反動が来ているんだ」
「それなら仕方ないけど……くれぐれもその顔で、堂々と街の中を歩いたら駄目だからね」
「当たり前だ」
「うん! それならよろしい。じゃあ早く行こう!」
リンに手を強く引かれながら家に入る。
外から見て分かっていたが広いな。前には巨大な階段があり、左右には長い廊下に複数の扉がある。
「一階は鍛冶、料理の人の部屋と作業場、それと会議室。二階は私と裁縫、調薬の人の部屋と作業場があるよ」
「結構、金がかかったんじゃないか?」
「うん。でもほら、5人の生産職のトップだから、結構ゴールドもあってね。意外と簡単に買えたよ」
「それはすごいな」
「でしょー」
巨大な階段を上り、二階に行く。
そして、そのまま長い廊下を歩き一つの部屋に入る。
「ここが私の部屋だよ」
「……ベッドと宝箱しかないな」
「生産に必要なものは作業場においてあるからねー。部屋には特に置いてないよ」
「ベッドは意味があるのか?」
「もちろん。というかそれが無いと、ログアウトの時に危ないよ?」
「そうなのか?」
「うん」
リンが言うには、家や宿屋など安全な場所にある寝具の上でログアウトする場合は、意識が現実世界に戻ると同時に、ゲーム世界の体も消えるそうだ。
しかし、それ以外でログアウトするとゲーム世界の体が残るそうだ。ここに来る前に、寝っ転がって全く動かないやつは、それを知らなかったのだろう。
俺も気を付けるとしよう。
「そこに座って座って」
「分かった」
リンがベッドを指をさしてそう言った。
ベッドに座るとリンも横に座る。
「それで黒豹って何? 教えてくれたら代価を払うよ」
「必要ない。装備をくれるんだろう?」
「ふふ、優しいね。じゃあ、ありがたく教えて貰うよ!」
「ああ」
俺はリンに獣人(黒豹)の事を教える。
聞き終えたリンは驚いた表情をしていた。
「すごいよ! 激レアを引くなんて! シャドウは知らないと思うけど、激レアってまだ獅子しか知られてないんだよ?」
「そうなのか? しかし、レアの豹と違って魔法を覚えるくらいだ。 そこまで驚くことは無いだろ」
「そんなことないよ! その魔法が問題なんだ。確かに闇魔法は誰でも覚えれるけど、毒魔法は誰からも聞いた事がないんだよ」
「……そうなのか?」
「うん! 現状、魔法は火、水、風、土、光、闇の6属性に治療魔法、支援魔法、呪魔法だけなんだ。隠してる人もいるかもだけど、これ以外はまだ知られていないよ!」
「……それなら情報は公開した方がいいか?」
「うーん。別にいいと思うよ? 取得方法が黒豹を引き当てる以外に分からないし、公開してもデメリットしかないからね」
「ふむ。じゃあ、リンだけに教えるとしよう」
その言葉にリンが満面の笑みになる。
「いいの!? それは有難いよ!」
「ああ、それと俺は言う気は無いが、情報屋として聞かれたなら言ってもいいぞ。毒を対策されたところで俺には問題ない」
「それは……そうだね。分かったよ! でも、この情報は契約付きで教えるね」
「契約?」
「うん。契約書ってアイテムが錬金で作れるんだ。そのアイテムを使って契約を結んだあと、契約を破ったら、破った相手に罰を与えることが出来るんだ。強制的にね」
「それは恐ろしいな。どんな内容でも良いのか?」
「契約書に書いてある罰ならね。二度とこの世界アナザーにログインすることが出来ないとかキャラクター削除とかもね」
「そこまで出来るのか……」
「出来るよ。だから契約には気を付けるんだよ。今回は毒魔法について教えても、他の人に情報を広めないっていう契約かな。破ったらAFWを辞めて貰おう!」
「それは、掲示板に書いても効くのか?」
「もちろん。掲示板も運営に見張られてるからね」
そこまで見張ってるのか。すごいな運営。
「おっと、結構時間が経ったね。そろそろシャドウの装備を渡すよ。待ってて」
リンがベッドから降りて宝箱に近づいていく。
……しかし、あの宝箱は何だ? 一人は余裕で入れそうな程大きいが。
その宝箱を開け、リンがゴソゴソと中を探っている。
「リン。その宝箱は何だ?」
「これは家限定のアイテムボックスだよ。300マスまでアイテムを入れることが出来て、ゴールドも預けれるから、ぜひとも入手した方がいい家具だね。 家やギルドを購入すると、入手することが出来るよ」
「それはすごいな。今後のために買っておくべきか」
「シャドウは滅多にないと思うけど、デスペナルティとして、一定時間ステータスの減少に、装備品以外のアイテム全てとゴールド半分を落とすからさ。早めに購入した方が良いよ」
「ん? 装備は落とさないのか?」
「うん? あー、さっき言っていたPKだね。PKはデスペナルティが重いんだよ。一定時間ステータスの大幅減少に武器、防具含む全アイテムと全ゴールドを落とし、更に種族レベルやスキルの経験値の減少さ」
「それは……重いな。よくそれでPKをやるな」
「そういうスリルが楽しいんじゃない? よく分からないけど……っと、準備出来たよー」
リンがニコニコしながら近づいてくる。
「じゃあ、シャドウ。装備を上げるからトレードしよ」
「トレード? 別に構わないが、何もないぞ?」
「シャドウは何も渡さなくていいよ。私が装備を上げるだけだから」
「分かった」
メニューを開き、フレンドリストにいるリンを選択。
そして、トレードを押す。
リンは空中で手を動かしていて、おそらく装備を入れているのだろう。
「はい。承認押して」
「ああ」
「これで完了だよ! アイテムボックスに装備が入ってるでしょ」
リンに言われ、アイテムボックスを見る。
ウルフの皮の服(黒) 耐久度 300 品質B レア度 N
作成者 テリル
DEF+5 SPD+5
ウルフの皮で作られた服。非常に軽い。動きを阻害しないように作られている。
黒で染色しているため、夜中では見つかりにくい。
フード付きローブ(黒) 耐久度 300 品質B レア度 N
作成者 テリル
DEF+3 SPD+5
黒い布で作られたフード付きローブ。非常に軽い。
フードを被ると目元まで隠れる。どんなに激しく動いても、フードは目元から外れることは無い。
ウルフの皮の靴(黒) 耐久度 300 品質B レア度 N
作成者 テリル
DEF+2 SPD+5
ウルフの皮で作られた靴。非常に軽い。
黒で染色しているため、夜中では見つかりにくい。
ウルフの皮のポーチ(黒) 耐久度 300 品質B レア度 N
作成者 テリル
SPD+2 所持品枠+20
ウルフの皮で作られた靴。非常に軽い。
所持品の枠が20枠増える。
鉄の短剣(黒) 耐久度 500 品質B レア度 N
作成者 ツベルト
ATK+8
鉄で作られた黒色の短剣。
夜中では見つかりにくい。
鉄の暗器(黒) 耐久度 300 品質B レア度 N
作成者 ツベルト、リン
ATK+5
鉄で作られた暗器。見た目は黒色のリストバンド。
手の平を突き出すと、そこから15cmほどの刃が出る。
鉄の投げナイフ(黒) 耐久度 200 品質B レア度 N
作成者 ツベルト
ATK+5
鉄で作られた黒色の投げナイフ。
夜中では見つかりにくい。
鉄の針(黒) 耐久度 100 品質B レア度 N
作成者 ツベルト
ATK+3
鉄で作られた黒色の針。
長さは20cm程だが、かなり細い。
鉄のマスク(黒) 耐久度 500 品質B レア度 N
作成者 ツベルト
DEF+3
鉄で作られたマスク。
装備すると顔の下半分は隠れる。
小さい声が周囲に聞こえなくなる。
黒真珠の指輪 耐久度 500 品質B レア度 R
作成者 リン
SPD+5
黒真珠が付いている指輪。
錬金により呪いがかかっている。
呪い1:薬指以外の指に装備するとSPD-10になる。
呪い2:作成者が選んだプレイヤー以外が装備すると、外せなくなる。そして、徐々に衰弱し、ゲーム時間で一日経過すると死亡する。
黒真珠の指輪ネックレス 耐久度 500 品質B レア度 R
作成者 リン
SPD+8
黒真珠が3個付いているネックレス
錬金により呪いがかかっている。
呪い:作成者が選んだプレイヤー以外が装備するとSPD-30になる。
全て黒色で出来ている。
そして、短剣は2本、投げナイフは30本、針は99本ある。
暗殺者には最高の装備だろう。
SPDはATKとDEFと同じだ。AGIの装備版と考えれば良い。
しかし……リンの作ったネックレスはまだいいが、指輪はひどいな。
外せなくなって、一日経過で死亡とは……まぁ選ばれているから問題ないが。
「装備していいか?」
「うん! もちろんいいよ」
武器や防具は装備方法が二つある。
アイテムボックスから直接出して装備する方法と、メニューから装備画面を開き、その中にいるキャラクターに装備をスライドして装備する方法だ。
戦闘中にゴブリンの槍を投げていたのは、前者のやり方だ。
防具はメニューから装備した方が楽だから、後者のやり方で装備する。
すると、一瞬で装備が変わった。
「おおー、暗殺者っぽい」
「そうか?」
「鏡あるよ……はい」
リンがどこからか2mほどの鏡を出した。
覗き込むと全身黒い姿の俺がいた。
黒い靴に黒い服、黒いフード付きローブを着て、顔はフードと黒いマスクで完全に隠されている。
腰には、服とローブが同色のため見えにくいが、短剣を二本差し、ポーチを身につけている。手首にはリストバンド型の暗器、左手の薬指には黒真珠の指輪をつけ、首元にはこれも見えにくいがネックレスがある。
手もローブで完全に隠れているな。
街中で見かけたら怪しすぎて通報されるだろう。
しかし、不思議だな。
どの角度から見てもフードで隠れて目の部分が見えないが、俺はフードの外が見えている。
「どうしたの?」
「フードが目元まで行っているのに、俺自身見えているのが、不思議でな」
「ああー、それはゲームの仕様だよ。そういうプレイをしたい人のための仕様。設定で変えれるけど、変えなくていいんじゃないかな」
「……そうだな。このままで良いだろう」
「うん! で、どう? 気に入った?」
「ああ、いい装備をありがとう」
「それじゃあ、皆に紹介していい?」
「いいぞ。この装備のままでいいのか?」
「もちろんだよ。その装備を作った人たちだから」
「ああ、分かった」
次はリンのギルドメンバーの紹介か。
いい装備を作って貰ったから、礼を言うには良い機会だ。
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ステータス
名:シャドウ 種:獣人(黒豹) 職:シーフ
種族 Lv 3
職業 Lv 3
HP 150
MP 150
STR 33
VIT 5
INT 15
DEX 10
AGI 49
LUK 5
BP 0
SP 1
スキル
【短剣】Lv.4、【暗器】Lv.2、【隠密】Lv.4、【察知】Lv.2、【鑑定】Lv.4、【看破】Lv.2、【偽装】Lv.1、【暗殺術】Lv.5、【闇魔法】Lv.1、【毒魔法】Lv.1
称号
<最初の黒豹>
STRとAGIが3上昇する。