4 スタート
目が覚め、ベッドから起き上がる。
凛華はまだ寝ているようだ。まだ起きそうにない。
時計を見ると、時刻は朝の8時だ。
AFWのサービス開始まで残り4時間。
俺はついに夢にまで見た、暗殺者への道が見え、いつもよりテンションが上がった。
一階のキッチンに行き、朝飯を作る。
簡単な目玉焼きだ。出来上がると米と並べて、ついでに味噌汁も置いておく。
完成後、タイミングよく、シャツを乱しただらしない恰好の凛華が降りてきた。
「おはよう! ご飯出来てるー?」
「おはよう。出来てるぞ」
「おおー、流石、冷斗! すごい美味しそうだね」
「簡単なものだけどな。ほら食べるぞ」
「了解ー」
凛華と椅子に座り、手を合わせる。
「「頂きます」」
そして、作った料理を食べる。
うん。美味い。この間の夜に食べた卵焼き? に比べたら、天地の差があるだろう。
凛華も笑顔で食べている。
「それで、サービス開始したら冷斗はどうするの?」
「まずは、魔物で暗殺の練習をしながら、スキルのレベル上げをしようと思っている……装備は任していいのか?」
「もちろんだよ! βテストの時のアイテムは少しだけ引き継いでいるからね。すぐに冷斗にぴったりの装備を作ってあげる!」
先日に聞いたが、βテストの時のアイテムは少しだけ引き継げるそうだ。
そして、凛華は俺にその引継ぎアイテムを使って、装備を作ると言った。
「ありがたいが、無理はするなよ」
「無理なんかじゃないよ。言ったでしょ。私は生産でもトップに入るほど優秀だったんだよ。そんなの余裕だよ!」
「それならいいが、対価は?」
「最初は家に住ませて貰ってるからいいよ」
「そうか。凛華がそれでいいならいいが」
「もちろん。でも、最初は だからね。慣れてきたら貰うからね」
「ああ、分かっている」
そんな会話をしていると、朝飯を食べ終わり、食器を片付ける。
まだサービス開始まで時間がある。AFWの事を調べておくか。
ソファに座り、タブレットを出すと、凛華が膝の上に座った。柔らかい感触と甘い匂いがする。
「それでそれで、裏の話はどうするの?」
「……強くなってからだな。ゲーム世界だとこっちより動けないかもしれない。その状態だと依頼が失敗するかもしれん」
「冷斗なら何とかなりそうだけどね……。じゃあ、出来そうになったら言ってよ。依頼は私が用意するから」
「……凛華はどれだけ仕事を持つ気だ?」
「情報屋に生産、後は裏の仕事を冷斗に持っていく仲介人?」
「無理してないか? お前が本当にやりたいのは情報屋だけだろう」
「全然大丈夫だよ! 私の頭の良さは知っているでしょ?」
「そうだが……分かった。ただ、無理はするなよ」
「分かってるよー」
凛華は一度見た事、聞いた事を忘れることは無い。それに複数の事も一辺に実行できる能力がある。
こいつに頭で勝つことはまず無いだろう。
「そういえば、生産って言っているが、どれに手を付けてるんだ?」
「うん? 私は装飾品だよ。指輪とかネックレスとかね」
「ん? さっき、俺の装備を作るって言わなかったか?」
「アクセサリは私がやるけど、武器と防具はフレンドに頼む予定だよ」
「……フレンドいたのか」
「ひどい! リアルは冷斗しかいないけど、ゲームだとたくさんいるんだよ!」
「……そうか」
声を上げてそれを言うことなのか?
何か悲しくなったので、凛華を抱きしめておく。凛華は首を傾けているが、幸せそうな顔をしていた。
それから俺たちはのんびり過ごし、昼飯を先に食べ、ついにその時間が来た。
「じゃあ、冷斗。完成したら呼ぶからね!」
「ああ、向こうでは俺はシャドウだ。凛華はリンだったか?」
「そうだよ。覚えやすいでしょ! 準備してからフレンド依頼送るから承認を押すんだよ?」
「そのくらい分かってる」
「それならいいよ。じゃあ、向こうでね!」
凛華はそう言って、3階にある客室に入っていった。
さてと、俺も準備するか。
同じく3階にある私室に行き、ヘッドフォン型のVR機器を頭につけて、AFWを起動する。
起動すると、前の白い空間とは違い、ゲームタイトルが画面中央にあった。背景には草原と街がある。
その街の壁にカウントダウンがあり、残り600と書いていた。時間的に秒数だろう。丁度いい時間だ。
……暇だな。仕様なのか今は動くことが出来ない。この草原をのんびりと見てるとしよう。
兎が跳ね回っているだけで、特に何事も起きず、残りカウントが10になった。
カウントは壁から離れ、徐々に近づいてくる。
残りカウントが1? だと思うが、近すぎてカウントの色だけが分かる。
しかも、嫌がらせの如く、カウントに唇がついている。
顔の真正面だ。
……この運営は大丈夫だろうか?
そう思った瞬間、急に視界が晴れ、広場のような場所に出る。
見渡すと広場の中央に噴水があり、周囲には複数の家が建っていた。遠くには他の家よりも10倍以上は高い時計台がある。
「きたーーーーー!」
「おっしゃあ! 街の外一番乗りは俺だー!」
「おえっ……」
他のプレイヤーもどんどんと転移してきたようだ。
周囲を見渡していたり、驚いたり、両手を挙げて喜んでいたり、早速走り出したりと様々だ。
……嘔吐いている人もいるが、カウントが気持ち悪かったのだろう。
そう考えている間にも、どんどん人が転移してきている。
このままだと広場はすぐに詰まり、動きづらくなるだろう。
早速、【隠密】を発動し、街の外を目指すとしよう。
事前に調べたが、この世界の名前はアナザーというらしい。そして、ここは始まりの街 アインスという名前で、風景は中世ヨーロッパ風だ。
ファンタジーと言えば、中世ヨーロッパだろ。JK。と運営は事前に言っていた……二度目だが、この運営は大丈夫だろうか?
20分程経過し、街の東の門までたどり着いた。
リアルなら10秒もかからずに着く距離だ。大幅に弱体化している。早めにこの体に慣れる必要がある。
東を選んだ理由は森だからだ。情報では始まりの街 アインスの東が狼の森、北がゴーレム鉱山、南が蟹の海で、西は兎の平原と聞いた。
森は障害物が多く、視界が悪い。更に木々が揺れる音や動物の声で、小さい音をたてたとしても、気づかれにくい。
暗殺するにはもってこいだ。
ちなみに、発動した【隠密】は1秒にMPが1減っていた。門にたどり着くころには、すでにMPは尽きていた。
だが、【隠密】が切れても、住民やプレイヤーは俺の方を見ない。門番もだ。
影が薄いというわけではなく、俺はリアルで隠密行動を極めていた。息を潜み、視界から外れ、気配を薄くする。毎日のように鍛える事で、もはや息をするように軽くできるようになっていた。
例えゲームでスキルが無く、身体能力が大幅に落ちていようが動きは覚えている。この程度簡単である。
だが、それでも【察知】を持っている人には気づかれる。仕様だからだ。
どれだけ隠密行動を極めようが、【察知】スキルがあれば意味がない。だから【隠密】スキルは重要だ。
さて、門の前で考えすぎたな。そろそろ行くか。
門を通り抜け、森へと足を踏み入れる。暗殺が出来る。その感動を求めて。
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ステータス
名:シャドウ 種:獣人(黒豹) 職:シーフ
種族Lv 1
職業Lv 1
HP 150
MP 150
STR 33
VIT 5
INT 15
DEX 10
AGI 43
LUK 5
BP 0
SP 0
スキル
【短剣】Lv.1、【暗器】Lv.1、【隠密】Lv.1、【察知】Lv.1、【鑑定】Lv.1、【看破】Lv.1、【偽装】Lv.1、【暗殺術】Lv.1、【闇魔法】Lv.1、【毒魔法】Lv.1
称号
<最初の黒豹>
STRとAGIが3上昇する。