2 キャラクター作成
ソフトのインストールが終わり、俺はヘッドフォン型のVR機器を頭につける。
このまま起動すると、意識を失い倒れてしまうため、ベッドの上で横になりAFWを起動する。
目を開けると俺は真っ白い空間にいた。周囲を見ても何もない。ずっと奥まで白い空間が続いている。
しばらく周囲を見ていると、上空に気配を感じ、何があってもいいように、俺は構えた。
そして、構えながら上を見ると、そこには驚いた表情をした金髪の女性がいた。
頭には天使の輪っか、背中には天使の羽が生えている。誰でも見惚れそうなほど、美しい女だが油断は禁物だ。
「えっと、よく気付きましたね」
「気配を感じたからな」
「そうですか。では、準備をするので気楽にしてください」
「何故だ?」
「何故って、あの……キャラクター作成のためにAFWを起動したのですよね?」
「ああ」
「それだから私が来たのですよ。ゴホン、初めまして。私はAIのアイと言います。現在の仕事は、あなた達プレイヤーのキャラクター作成の補助です。よろしくお願いします」
アイと呼ばれた女性が、微笑みながら挨拶をしてきた。
AIだからアイか。シンプルで覚えやすい。そして、仕事はキャラクター作成の補助ということだ。攻撃はしてこないだろう。
俺は構えを解く。
「俺は冷斗だ。よろしく頼む」
「はい。それでは冷斗様、さっそくキャラクターを作成しますか?」
「ああ」
すると、目の前に現実世界の俺が現れた。似ているな。これと戦う事は出来ないのか? 良い修行になりそうだが。
「これは?」
「現実世界の冷斗様をスキャンし、この場に出現させました。この状態から変更させる点を言ってください」
「そういうことか。それじゃあ、瞳の色を赤に変えてくれ。それだけでいい」
「……それではリアルバレの可能性もありますが、宜しいでしょうか」
アイは若干心配そうな表情をして、こちらを見ている。しかし、バレたところでどうとでもなる。
「問題ない」
頷き、承認すると、目の前にいる俺の瞳が赤色になった。意外と変わるもんだな。
「これで良い」
「承知しました。それでは次にキャラクター名を設定してください」
「シャドウで」
「はい。シャドウ様ですね……他に同じ名前はいません。大丈夫です。決定してしまうと変更できませんが、よろしいでしょうか」
「ああ」
「承知しました」
シャドウは俺が暗殺者になると決めた時から、使っているコードネームだ。呼ぶのは凛華くらいだが……。
「では、次に種族を選択してください」
アイが指を鳴らす。
すると、俺の目の前にパネルが現れた。そこには様々な種族が書かれている。
「簡易的にですが、種族と特徴が書いてあります。詳しくお聞きしたい場合は私に言ってください」
「分かった」
結構選択肢が多いな。まずはざっと見るか。
人間
全てのステータスが平均で扱いやすい。
βテストでは一番多かった種族。
獣人
参考にする動物によって異なるが、特化しているステータスがある。
選択、またはランダムで決めることが出来る。
選択の場合は(犬、猫、熊、狼、狐)の5種類。
エルフ
人間よりINTとDEXが優れるが、STRが低い。
耳が尖っているのが特徴。
ドワーフ
人間よりSTRとDEXが優れるが、AGIが低い。
背が一定まで小さくなり、男性のみ髭が生える。動きづらくなる可能性がある。選択には注意。
竜人
人間よりMP、INTを除いて、全ステータスが高い。そのかわりレベルが上昇しにくい。
竜の翼と尻尾が生えているのが特徴。
鬼人
STRがどの種族よりも高い。人間よりAGIは少し高く、他は若干低い。
頭に鬼の角が生えているのが特徴。
小人
人間よりHP、STR、VITが低く、INT、DEX、AGIが高い。
背が一定まで小さくなり、動きづらくなる可能性がある。選択には注意。
巨人
人間よりINT、DEX、AGIが低く、HP、STR、VITが高い。
背が一定まで高くなり、動きづらくなる可能性がある。選択には注意。
予想以上に多いが、人間……いや、獣人で行くか。
獣人は身体能力が高いイメージがある。暗殺者にはもってこいだろう。
それに動物好きの凛華も喜びそうだ。
「獣人を詳しく教えてくれ」
「はい。獣人は選択すると、動物の種類を自ら選ぶか、ランダムで選んでくれる方法があります」
「ランダムだと何かあるのか?」
「はい。ランダムでは、選択できない珍しい動物が出るときがあります。ですが、注意点がひとつ。ランダムで選択する場合は、変更できませんのでじっくり考えてから選択してください」
「それは、キャラクター削除をしてもか?」
「はい。一度、キャラクター作成時に獣人をランダムで選択し、その後に削除した場合は、次のキャラクター作成時には獣人は選択不可になります」
これは情報通りか。凛華が言っていたが、リセマラというのを封じるためにやっているそうだ。
まぁ、俺にとってはどうでもいい。どの動物になっても目標は変わらない。
理想の暗殺者になる。それだけだ。
「獣人のランダムで頼む」
「承知しました。では、早速ランダムで決めましょう。こちらをどうぞ」
アイが俺の前に、どこから出したか分からないテーブルと回転式福引器を出す。
テーブルには紙が貼ってあり、激レア種族はユニーク種族で、引いた場合はその種族はランダム選択でもう出ません。と書かれていた。
「……これで決めるのか?」
「はい。中に入っている玉に獣の名前が書いてありますので。あ、激レアは金色で、レアは銀色で、ノーマルは白色です。そして、その紙に書かれていますが、激レア種族は1種類に付きお一人限定です」
「そういうことを聞いてるんじゃないが……まぁいい」
俺は回転式福引器を回す部分を握り、勢いよく回す。福引器から出ることのない音が出ているが、ゲームの中だ。壊れることないし、問題ないだろう。
グルグルと回していると、一つの玉が勢いよく飛び出した。
その色は……
「金色……激レアですね。素晴らしい運です。おめでとうございます。動物は……黒豹ですね」
「黒豹? どういう種族なんだ?」
「余り驚かないのですね……黒豹は見た目は黒い猫の獣人に似ていますが、ステータスはSTRとAGIが高いです。ここまでは銀色のレアの豹と同じですが、黒豹は【毒魔法】と【闇魔法】が取得できます」
「魔法が使えるだけか?」
「はい。それだけですが、魔法が使える使えないでは、戦略にかなり違いがありますので大当たりですよ」
凄いのか凄くないのか分からないが、暗殺者をするには良い種族だろう。
黒豹は色が黒だから、暗闇に紛れ込むことが出来る。更に、覚えることが出来る魔法の闇魔法、毒魔法も暗殺に使えそうだ。
しかし、何故、黒豹が毒魔法を使えるんだ?
分からない……まぁ、そういう設定なんだろう。あまり気にしないでおく。
「それと、シャドウ様は黒豹という種族を、プレイヤーの中で初めて引きましたので称号を与えます」
「称号?」
「はい。称号はプレイヤーの行動によって、極稀に取得できます。今回で言えば<初めての黒豹>という称号で、STRとAGIに少しだけですが、補正が入ります」
「分かった。有難く貰っておこう」
「はい。それでは、次は職業ですがーー」
まだあるのか……いや、まだ名前と種族しか決めていなかったな。どのくらい時間が経つか分からないが、夜飯は遅くなりそうだ。