19 影移動
「それで、シャドウ。次はどこに行くの?」
「そうだな。……行く前にまずは【影移動】の確認をしたい。いきなり使って事故が起きても困るからな」
「それなら今は時間があるし、手伝えるなら手伝うよ?」
リンが首を傾げながら、そう言った。
手伝いか。【影移動】のMPを消費して、影の中に潜り、移動することが出来るスキルだ。
影に潜る瞬間や出るときに相手からどう見えてるのか気になるな。手伝ってもらうとしよう。
「そうだな。色々と調べたいから頼む」
「うん! 任せてよ! みんなはどうする?」
「俺は早速、この素材で武器を作りたいから、そっちを優先するぞ!」
「私も同じですねー。防具を優先しますー」
「同じく! 料理を作りたい!」
「……何もにゃいけど、二人の邪魔をするのもあれにゃ。遠慮しとくにゃ」
ふむ。と言うことは、リンと2人きりか。
「分かった。じゃあ、シャドウ。部屋行こ?」
「ああ」
「今日中には完成させるからよ! 今日の夕方くらいにまた来るといい!」
「了解だ」
ツベルトの言葉に頷き、リンに手を引かれながら、部屋を出る。
そのままリンの部屋へと移動した。
「それじゃあ、早速やろっか?」
「ああ。最初は視認されている時に発動してみるから、どんな感じなのか見ててくれ」
「わかった! いつでもいいよ」
リンがベッドの上で横になりながら、ジッと俺を見る。その顔も可愛い。最高である。
……おっと、早く発動させるか。照明の近くに行き、影を踏みながら、発動させる。
『【影移動】』
【影移動】を発動した。すると、目線が一気に下がり、あっという間に影へと落ちた。
……何も見えない。真っ暗闇な空間だ。【暗視】も意味をなしていない。他には……匂いが無い。さっきまで、リンの部屋の香りがしていたが、今は全くない。無臭である。
「シャドウー? 聞こえるー?」
考えていると、リンの声が上から聞こえる。音は聞こえるようだ。
「ああ。聞こえてるぞ」
「うわぁ。影から声が聞こえる。というか、何でこの影残ってるんだろう?」
「影が残ってるのか?」
「うん。何も無いのに影が残ってるよ。それで、そっちはどう?」
「真っ暗で何も見えん。他には匂いも無い」
「音だけが聞こえる感じ? 移動は出来る?」
移動か。……出来ないな。壁のようなものがある。
「……狭くて、移動が出来ん」
「うーん? ああ。そう言うことかな?」
「何かわかったか?」
「うん。影に潜るとき自分の影に潜ったでしょ?」
「ああ……そう言うことか」
リンが言ったように、俺は影に潜るときに自分真下にある影に潜った。そして、影の中は狭く、ほとんど動けない。
おそらく影の範囲内でしか動く事が出来ないのだろう。自由に動くには大きな物の影や複数の影が隣接している場所に行く必要があるな。
非常に狭いが、まだ試したい事もある。このまま続けるか。
「次はリンが入れるか試してくれ」
「うん。無理だよ」
即答で真上から声が聞こえる。もう既に試していたのか。
ん? 何か肩に当たった?
「……何かやったか?」
「ナニモ?」
「何か入れただろう?」
「……石を」
「はぁ。まぁ次に試そうと思ってたから、別に良い」
「まさか、影に入るとは思わなくて」
他の人は入れないが、アイテムなどは入るようだ。影に潜っても、武器での攻撃は当たりそうだな。
次は、影の中の高さでも測るか。右手を上げてみる。……リンから反応が無いから、出てないのだろう。なら、
「きゃあ!!」
珍しくリンの驚いた声が聞こえた。
何をやったかというと、影の中で跳躍し、影から手を出して、ちょうど真上にいたリンの柔らかい足に触れた。
ふむ。俺の身長からして、影の中の高さは3mほどだろう。
「影から手だけを出すことは出来るみたいだな」
「もう! やるならやるって言ってよ。影から手が出るなんてホラーだよ!」
「さっきの仕返しだ」
「ぐぬぬ……」
上から悔しそうな声が聞こえる。
このくらいか? ほかには……あれがあったな。
一度出るとしよう。
「一度出るから、影の上から離れてくれ。さっきの感じだと、跳んで影から出るようだから、ぶつかる可能性がある」
「了解ー……もう大丈夫だよ」
リンの言葉を聞き、影から出るように跳躍する。
若干、眩しく感じながら、リンの方を見ると、未だに影を見ていた。
「……シャドウー。まだー?」
「……いや、ここにいるぞ?」
「え!? いつのまに出てたの!?」
「今だな」
「全く気づかなかったよ。シャドウはいつも気配薄いし、影も若干薄いから見つけにくいけど、流石に影から出るときは分かると思ったよ……【隠密】の効果がまた発動したのかな?」
「あり得そうだな。【隠密】は視認されると効果を失うが、影に潜ることで視認されなくなる」
「何というか、シャドウに持たせたらやばいスキルだね。見つかっても影に潜ればいいし」
攻撃し、見つかれば隠れ、また攻撃しのループが出来るな。【察知】を持っているやつを除くが。
「ああ。随分と良いスキルを手に入れたな。それで、そっちはどうだった?」
「うん。影に潜るときは見えてたけど、影に落ちるような感じだったよ」
「まぁ、実際落ちてたぞ」
【影移動】を発動した瞬間、俺は影の中に落ちていた。真っ暗な落とし穴に落ちた感じだ。
「後は、さっきも言ったけど、シャドウの姿は見えなくなった後、影だけはあったね。あれは不気味だったよ」
「……不自然だな」
「うん。あれは世にも奇妙な光景だったよ」
リンがしみじみという感じで言った。
これは試して置いて良かった。知らなければ、隠れてると思い込んで、実際には隠れきれていない間抜けになるところだった。暗殺者失格だろう。
「それじゃあ、次はどうする?」
「影に入ったときに、その影が動いた場合どうなるかをやってみるか」
「なるほど。じゃあ、やってみようか」
リンに近づき、影を踏む。
そして、【影移動】を発動させた。
『【影移動】』
今度はリンの影に落ちていく。狭いな。
「じゃあ、動くよ?」
「ああ」
……ほとんど変わらない。だが、若干広くなったり、狭くなったりしている。移動して、影の大きさが変わってるのだろう。
MPは余り消費していないな。そんなに消費は激しくないようだ。
「どんな感じ?」
「広くなったり、狭くなったりだな。影の大きさが変わってるからだと思う」
「それって、もしかして、潜ってる最中に影が無くなったら潰れる感じかな?」
「……可能性としてはありえるな」
「やってみる?」
「……遠慮しよう」
そう言って、影から出る。
一通り試せたし、もう良いだろう。
「このくらいで大丈夫だ」
「分かった! ほかには何かある?」
「いや、特には無い。助かったぞ」
そう言って近くにいたリンの頭を撫でる。すると、満面の笑みを浮かべ、抱きついてきた。
ふむ。こっちでもずっと撫でたくなるな。感触もあまり変わらない。そういう細かい事もキャラクター作成時に出来るのだろうか? 今の技術は昔に比べれば、かなり進んでいる。可能性としてはあり得そうだな。
そんなことを考えながら、リンをしばらく撫で続けたが、満足したのか少し離れた。
「ふふ。気持ちよかったよ。それで、次はどこに行くの?」
「そうだな……冒険者ギルドだな。ゴブリンファイターの武器を売る。その後は第一エリアの3つのどれかに行く予定だ。狼の森の隣は影狼王の装備が出来てからだな」
「それが良いと思うよ。第二エリアは、まだ誰も行ったことがないから、どんな感じなのかは分からないしね。装備を整えてたら行った方が良いね」
「そういうことだ。じゃあ、俺はもう行くな」
「うん。昼はどうする?」
「冒険者ギルドに行った後に一度戻る」
「了解ー。後、影狼王の事はどうする? 情報として言っても問題ない?」
「問題ない。だが、俺の事を聞かれても伏せといてくれ」
「了解ー。ぞれじゃあ、はい。影狼王の情報料」
リンから30万ゴールドが送られてくる。これは……
「多くないか?」
「いやいや、影狼王の事は相当聞かれると思うよ。そのことを考えると、簡単に元は取れるからね」
「そうか……リンが良いならいいが」
「もちろん。あ、でも、もし良い素材があったら持ってきてね」
「……それが目的か? まぁいい。素材が手に入ったらまた来る」
「うん! いつでも歓迎するよ」
【ワークス】の屋敷の前で、リンが笑顔で手を振っている。
それを俺は手を上げるだけで返し、冒険者ギルドに向かった。
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ステータス
名:シャドウ 種:獣人(黒豹) 職:シーフ
種族Lv 8
職業Lv 8
HP 200
MP 200
STR 41
VIT 5
INT 15
DEX 10
AGI 69
LUK 5
BP 0
SP 4
スキル
【短剣】Lv.9、【暗器】Lv.4、【隠密】Lv.11、【察知】Lv.7、【鑑定】Lv.9、【看破】Lv.2、【偽装】Lv.1、【暗殺術】Lv.11、【闇魔法】Lv.5、【毒魔法】Lv.7、【跳躍】Lv.7、【登攀】 Lv.3、【暗視】Lv.8、【投擲】Lv.5、【サイレンス】Lv.-、【無臭】Lv.-、【採取】Lv.1
付与スキル
【影移動】Lv.10
称号
<最初の黒豹>
STRとAGIが3上昇する。
<エリアボス初攻略者>
STRが3上昇する。
<エリアボス初ソロ攻略者>
PTメンバーがいない時に与えるダメージが上昇する。
<影狼王を制し者>
AGIが5上昇する。
<大物殺し>
HP、MPが50、STRが5上昇する。
自身よりレベルが高い相手に対し、ダメージが増加する。
<無情>
状態異常の付与成功確率と効果が上昇する。