12 マイホームと食事
『じゃあ、シャドウ。また後でね』
『ああ、少し家を見てからログアウトする』
『分かったよー』
冒険者ギルドを出て、買ったばかりのマイホームへ移動する。中央広場からは【ワークス】の屋敷の方が近い。先にリンを【ワークス】の屋敷に送った。
PTを解散し、再び1人となる。
それから、10分ほど。特に何事もなくマイホームに到着した。
……見た目は普通の家だな。
場所は路地裏にあり、周囲の家と同じような見た目の家で目立たない。周囲に街灯が少なく、家の前は薄暗かった。
ふむ。素晴らしい。暗殺者が住んでそうな家だ。
家の近くまで行き、アイテムボックスにある鍵を使い中に入る。
家の中には、10帖ほどの部屋に質素なベッドと宝箱の形をしているアイテムボックスの拡張版が置いてあった。入って左側に風呂があったが、トイレはない。ゲーム上、排泄はないからだろう。
ただ、このゲームは臭いがある。定期的に風呂に入らないと徐々に臭くなるそうだ。
臭いがすると暗殺する時に気づかれる可能性がある。毎日入るとしよう。
メニューを開くとマイホームの欄が追加されていた。
それを選択すると、どうやらマイホームを改造出来る機能のようだ。ゴールドを払うと、部屋を拡張することや、新たな家具を追加できる。
ちなみに、リンから聞いたが、部屋を拡張しても家の外見は全く変わらないそうだ。不思議であるが、この対策をしないと、拡張した際に周囲の家を巻き込む可能性がある。周囲の家からは堪ったものでは無いだろう。
さて、今は拡張をする予定は無い。家の確認も済んだことだ。一度飯を食べにログアウトするか。
ベッドの上に寝転がり、メニューからログアウトを押す。
意識が現実世界に戻ると、何かが腹の上に乗っていた。気のせいではないだろう。目を開けると、そこには頭にVR機器が着けている凛華がいた。
まだ、戻ってきてないのか意識はない。客室でやるように言っていたが、何でここにいるんだ?
そんなことを考えていると、凛華がゆっくりと目を開け上半身を起こす。
「んー。おはよう!」
「おはようなのか? 夕方だぞ」
「一応言っておこうとね。それで家はどうだった?」
「イメージ通りで住み心地が良さそうだ」
「それは良かった! 情報を買ったかいがあったよ」
「ああ。ありがとうな」
凛華の頭を撫でると笑みを浮かべ、抱きついてくる。
ふむ。相変わらず可愛い。このままだとずっと撫でたいが、今日はこの後、AFWで夜戦を試す予定だ。
非常に惜しいが手を離しベッドから立ち上がる。しかし、それでも凛華は手を離さなかった。このまま一階に連れて行けと言うことだろう。
コアラのように抱きついてくる凛華と一緒に一階へ到着した。
俺は料理を作るためにキッチンに行き、凛華はおそらく情報収集のためにリビングで壁一面にある巨大なディスプレイをつけ、動画を再生した。
動画はAFWの戦闘シーンが再生されていた。料理を作りながら、俺も少し見てみる。
……ん? 何か見覚えがあるな。
「凛華、その三人組を知っているか?」
「んん? 気になる? 三人とも美少女だからね。しょうがないね」
「はぁ、そういうのではない。さっきPKの話をしただろう」
「したね。女性二人を援護したんだっけ?」
「ああ、その三人組の左にいる赤髪と青髪は、援護した二人に似ている」
「え? ほんと?」
「ああ。で、どうなんだ?」
「もちろん知ってるよ。むしろ知らない方が少ないんじゃないかな。この3人はアカネ、アオイ、ミドリっていう名前で、リアルで3姉妹らしいよ。3人ともβテスト経験者でかなり有名なトッププレイヤー」
初日から戦闘に慣れているなと思っていたが、全員βテスト経験者だったのか。
あのとき、不意打ちで1人やられたのは、ミドリという女か。
「続きだけど、三人とも種族は狼の獣人で全員がファイター。武器は違うけどね」
「バランスが悪くないか?」
「いや、そうでもないんだよ。斧と盾を持って敵の攻撃を防ぐタンク役の長女アカネ。双剣でガンガン攻めるアタッカーの次女アオイ。槍杖を持ち、味方を回復するヒーラーの三女ミドリ」
「槍杖?」
「槍の根元部分が杖になってるんだ。ファイターでもスキルがあれば治癒魔法は使えるからね。真似をする人もいるけど、扱いが難しくて大体は諦めてる」
「確かに難しそうだな」
「うん。ちなみに作ったのはツベルトだよ。この人たちは【ワークス】のお得意様だからね」
「そうか。なら【ワークス】の家で遭遇しそうだな」
「そうだけど、冷斗なら見つからないでしょ?」
「確実にとは言えない」
話しながらも戦闘の動画が流れている。誰かがミスをしても、何も言わずにすぐさまフォローに入っている。連携が上手い。
もし、3人いたら、あの場で援護しなくてもPK達を倒せただろう。
「この3人についてはこのくらいだよ」
「ああ。情報ありがとうな」
「これくらいなら何度でも聞いて良いよ」
「ああ。それならもう一つ。AFWでは動画を取る事が出来るのか」
「うん。メニューから録画開始を押せばいいよ。そうすると勝手に録画してくれるから。生放送も出来るけど、冷斗はしないでしょ?」
「ああ、しないな」
「なら、生放送はいいね。それと録画されたデータは勝手に保存されるから、いつでも見れるし公開も出来るよ。だから、変なことに使ったら駄目だよ」
「しないさ」
会話をしながら、料理を作り、完成した。凛華が好きなハンバーグだ。自作のデミグラスソースをかけている。
それに米と味噌汁に野菜を添え、完成だ。
それを見た凛華は目を輝かせた。
「おお! それは、もしや……ハンバーグ!」
「そうだな。戦闘見ながらでもいいから食うぞ」
「もちろんだよ! ほんと冷斗は一家に一台欲しいね」
「何だそれは」
「まぁまぁ、ほら早く」
「はぁ、分かった」
「「いただきます」」
肉を切り、口に入れる。
ふむ。これは成功だな。美味い。
「うん! 最高だね!」
「そうだな」
「そういえば食事で思い出したけど、冷斗はゲームの中で食べた?」
「いや、食べてない。食べる必要はあるのか?」
「あるよ。AFWは満腹度があって、食べなかったら減っていくんだ」
「減ったら何かあるのか?」
「もちろん。満腹度が0になると、時間が経過するごとにステータスが減少していくんだ。満腹度が回復すれば元に戻るけどね」
ステータスが減少するのか。教えてくれなかったら危なかったな。
満腹度はメニューから見れるそうだ。再ログイン後に確かめるか。
「後で適当に買って食べるとしよう」
「それなら、ミカンの料理を買って行くといいよ。少し値段がするけど」
「ああ、分かった。どこで売ってるんだ?」
「【ワークス】の屋敷の隣に、もう一個家があるんだ。そこは【ワークス】の店だから、いろんなのが売っているよ」
「……トップ生産ギルドなら、売り切れてるんじゃないか?」
「いや、そんなこと無いよ。そっちは私たちが許可した人しか入れないからね」
「それならログイン後に向かうとしよう」
「うん。装備の作成依頼や修理などを依頼をしたいとき、もしくは受けたいときは【ワークス】の屋敷に。料理やポーションなどの一般的なアイテムが欲しいときは横にある店に来てね」
「分かった」
その後も会話を続けながら、料理を食べ、しばらくして食べ終わった。
「「ごちそうさまでした」」
そのまま片づけをして、一緒に風呂に入り、ログインの準備をする。
今は20時頃だ。夜の戦闘はするには良い時間だろう。
「ふう。さっぱりしたー。やっぱり冷斗は洗い方が上手いね」
「そうか。それならよかった」
「うん。またよろしくね!」
髪を乾かし、私室がある三階に移動する。VR機器をつけ、一緒にベッドで横になる。
「寝るまでの4、5時間やるとしよう」
「そうだね。そのくらいが丁度いいかな」
リンの言葉に頷き、俺たちはAFWを起動した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ステータス
名:シャドウ 種:獣人(黒豹) 職:シーフ
種族 Lv 3
職業 Lv 3
HP 150
MP 150
STR 33
VIT 5
INT 15
DEX 10
AGI 49
LUK 5
BP 0
SP 1
スキル
【短剣】Lv.4、【暗器】Lv.2、【隠密】Lv.4、【察知】Lv.2、【鑑定】Lv.4、【看破】Lv.2、【偽装】Lv.1、【暗殺術】Lv.5、【闇魔法】Lv.1、【毒魔法】Lv.1
称号
<最初の黒豹>
STRとAGIが3上昇する。