11 冒険者ギルド
リンとPTチャットで会話をしながら、夜の道を歩く。サービス開始時より少ないとはいえ、それでも多い方だ。
そのプレイヤーたちはリンを見て、ざわざわとし始める。
憧れ、嫉妬、欲望、様々な視線があるが、憧れているようなのが多い。
『……すごい人気だな』
『前に言ったでしょ。これでも生産職のトップで結構有名だって』
『これほどまでとは思っていなかった』
『ふふーん。すごいでしょ! そんな有名プレイヤーの恋人さんはどんな気持ち?』
『いつもと変わらない。有名だろうが、無名だろうがリンはリンだ』
『はうっ! ……今のはグッとくるね。ベッドの上で言ってくれると好感度が限界突破するよ?』
『分かった。後で何度でも言うとしよう』
『……嬉しくて気絶しそうだから、一度だけでいいです……。代わりにーー』
「おい! リン! 俺の話を聞いてるのか!」
リンとのPTチャット中に、横から変な金色の男が叫びだした。
その声を聞いた瞬間、リンは露骨に舌打ちし、満面の笑みが崩れる。
喜びでも、怒りでも、哀しみでも無い。完全に無表情だ。……その顔も可愛い。
珍しいから写真にでも納めておきたいが、AFWでの写真の撮り方は知らない。非常に惜しいが、諦めるとしよう……。
さて、リンがここまで態度を表すのは稀だ。最後に見たのは……確か3年ほど前だ。
あの時はござる口調で二次絵をTシャツに貼った太った男にしつこくストーカーされてたな。
最終的にストーカーは手を出そうとして、機械警察にスタンガンを撃たれ、捕まっていたが……今はいいだろう。
今わかるのは、リンが3年前のストーカーと同じくらい嫌っている相手という事だ。
そいつの姿を見ると、全身金色の不審者だ。比喩ではなく、髪も目も鎧もマントも剣も盾も全部、金だ。そして、顔は作ったような美男である。
このゲームは顔を作れるから基本的に美男か美女だが……ここまでいくと不自然な程だ。
耳が生えているから獣人だろうな。何の獣人だ? 【鑑定】してみるか。
名:ルーデント 種:獣人(獅子) 職:ファイター(剣)
種族 Lv.2
職業 Lv.2
獅子? 強そうな種族だな。選択では無いから、ランダムだろう。
しかし……こんな目立つ恰好、魔物からしたら真っ先に襲ってくるんじゃないか?……タンクという訳でもなさそうだが、大丈夫か、こいつ?
『この不審者は知り合いか?』
『興味は微塵も無いけど知ってるよ。ギルドメンバー100人超えの大規模ギルド【七色の勇者】のギルマス、屑……ルーデントだよ』
『【七色の勇者】? 見事に金色一色だが』
『【七色の勇者】はギルド内に格があってね。偉い順番から金、銀、銅、赤、青、緑、白色の七色のギルドマークが付いているよ。そこの屑の胸にも同色だから見づらいけど、金色の獅子のギルドマークが彫ってあるでしょ』
『……確かにあるな』
「リン! 俺の話を聞けよ! 何故無視するんだ!?」
リンの近くで大声を出している屑……ルーデントの鎧を見ると、かなり見づらいが、真正面を向いて口を開けている獅子の顔が彫ってある
……何故、同色にしたのだろうか。
『【七色の勇者】のギルドマークは獅子の顔をモチーフにしてるからね。いい噂を聞かないしギルマス同様ゴミみたいなギルドだから、あのギルドマークがついた相手に勧誘されても、ついて行ったら駄目だよ』
『ギルドに入る予定は今のところはない。それに、こんな怪しい奴について行くやつはいないだろう?』
『それがいるんだよねー。大規模のギルドだし、それに【鑑定】で知っていると思うけど、ルーデントは獅子の獣人だからね』
『獅子の獣人は珍しいのか?』
『シャドウと同じ、獣人の激レアだよ』
『これが?』
『これが』
「くそ! 何故、無視する。俺とリンの仲だろ!」
これが……俺と同じく激レア種族か。こんな変人と同じだと思うと何か嫌だな。
その変人……いや、屑をリンは無視して歩いていく。
『誤解しないでよ? 私はβテストの時に装備を一度、作っただけだからね? それ以降、出禁にしてるけど』
『ああ。リンの事は信頼してるから、そこは心配していない。気になるのは、何でこの屑は叫んでいるんだ?』
『私を【七色の勇者】に勧誘してるんだよ。βテストの時からかなりしつこいんだ』
「リンなら銀色の好待遇で【七色の勇者】に入れてやるぞ! 銀色は俺の副官だ! 光栄だろう! 何と言ってもAFWで最強の俺が……おい、無視するな!」
『私はもう【ワークス】に入ってるのにね。それを知っても誘ってくるんだよ』
『生産のトップが欲しいからか』
『それもあると思うけど、何かいやらしい目で見てくるんだよね。このゲームって18歳以上は……あれが出来るから、それもあるんじゃない?』
『……』
暗殺してやろうか? ……いや、落ち着け。どんなに変人だろうが、ストーカーだろうが、屑だろうが、金ピカだろうが、こいつはPKや賊ではない。
殺してしまえば、俺が犯罪者になってしまう。もちろんリンに手を出そうとすれば、犯罪者になろうが、復活するのが嫌になるくらい暗殺するが……今は我慢だ。
なら、どうするか。
今はリンと冒険者ギルドに行くのが目的だ。足止めでもするか。
アイテムボックスからゴブリンの槍を取り出し、ルーデントの足元に置く。
すると、横を見ながら叫んでいたルーデントは、ゴブリンの槍を踏み、顔から盛大にこけた。
「ひでぶ!? な…なんだ? ……おい、誰だ!? こんなところに槍を置いた奴は!?」
周囲の人は、転んだルーデントを見て盛大に笑っている。どれだけ嫌われてるんだこいつは。
リンを見ると下を向き、肩を震わせながら歩いている。
『ぷぷ……あはははは! ひでぶ……って! 最高だよ! シャドウ!』
『何のことか分からんな』
『ぷぷ……ふぅ。お腹が痛い……ありがとうね』
『さあな』
俺たちは転んで叫んでいるルーデントをそのまま置いていき、冒険者ギルドに向かった。
後ろから、リンを探すように大声を出しているが、あんなゴミ……変人……屑……名前、何だったか? 忘れたが無視だ。
少しして、冒険者ギルドに到着した。
大きい。リンたちの屋敷と同じくらいの大きさだろう。その入り口には巨大な剣と盾が描かれている看板があった。
場所はサービス開始時に転移した広場から、徒歩1分も離れていない。
リンが入っていったので、俺も続くように中へと入る。
そこには、冒険者ギルドならではの酒場と受付があり、初心者の服を着たプレイヤーが大勢並んでいた。その中にはベテラン風の戦士や魔法使いもいる。
初日ではあの装備は無理だろう。おそらく住民だな。
『やっぱり混んでるね。まぁ、関係ないけど』
『どういうことだ?』
『ここが混むのは当たり前だからさ。運営がすでに対策を取ってるんだ。メニューを開いてみてよ』
リンに言われた通り、メニューを開くと、項目が増えていた。
『……冒険者ギルドが増えているな』
『そう。冒険者ギルドに入ると、メニューから売ったり買ったりできるんだよ。依頼も同様にね』
『便利だな。しかし、それなら何であいつらは並んでいるんだ?』
『このメニューの事を知らないか、そういう雰囲気を味わいたいからだと思うよ』
なるほど。分からない事では無いな。雰囲気は大事だ。
薄暗い場所で、周囲には人がいなく静寂の中、警戒しながら暗殺の依頼を受ける。暗殺者として一度経験してみたいランキングに入るだろう。
まぁ、今は置いておいて、このメニューの機能……便利だな。
俺のように暗殺者を目指していて、姿を見せたくない者や他の人と話したくない者も話さなくて済む。
『……このメニューの機能は【ワークス】のギルドにはあるのか?』
『あるよ! だから、私達の家に来た時に、メニューから依頼を見て貰っていい? 基本的に依頼をしたいときはメールするけど、生産に夢中になって忘れるときがあるんだ』
『分かった。ドロップ品の売却もメニューにあるか?』
『それもあるよ。ただ、見てからじゃないと値段をつけれないから、少し時間がかかるけど』
『了解だ』
今度から素材を手に入れたら、まずはリン達に見せてからにするとしよう。
さて、そろそろドロップ品を売却するか。
売却を選択し、初心者の装備とゴブリンの武器を売る。
……2千ゴールド。安い。
ちなみに、初期の所持金は1万ゴールドだ。
今は投擲用の武器もあるから、全て売ってしまおう。
『出来た?』
『ああ、2千ゴールドだ』
『うわぁ、安いね。流石にそれじゃあ家は無理かな』
『家は購入のところにあるのか?』
『うん。そうだよ。値段は変わるときもあるから、安いときに買うといいね』
購入を選択する。
そこにはポーションや武器が売ってあったが、どれも品質が低い。
スクロールしていくと、家があった。
古く狭い家 品質 E レア度 N 場所:アインス東南地区
値段 10万ゴールド。
大きさは6帖の1ルームの家。
壁に隙間が所々に開いていて、床は歩くと軋む。
設備:ベッド、風呂。
少し古く狭い家 品質 D レア度 N 場所:アインス北西地区
値段 15万ゴールド。
大きさは6帖の1ルームの家。
壁に隙間が少し開いている。
設備:ベッド、風呂、アイテムボックス。
……
……
どれもイメージ画像が載っている。古い家から綺麗な家まで全てだ。
選択肢も多く、1000は余裕で超えている。
値段は最低で10万ゴールドだが、最高では1000万ゴールドなどもある。大規模ギルド用か。
『どう? 気に入ったのあった?』
『これは悩むな。目立たない場所が良いんだが……』
『目立たないかー……これはどう?』
『どれだ?』
『ちょっと待ってね。シャドウを指定して、オープンっと』
通常、相手のメニューは見ることは出来ない。
だが、リンがやったように対象を指定して、オープンと言うとメニューを見ることが出来る。
『これこれ』
薄暗い家 品質 C レア度 R 場所:アインス東南地区
値段 25万ゴールド
大きさは10帖の1ルームの家。
家の中に傷は無い。
設備:ベッド、風呂、アイテムボックス
備考:日が部屋に入りにくいため、値段は安い。
……よさそうだな。
イメージ画像もアインスにある他の家と似ていて、目立たない。
日が部屋に入りにくい というところも良い。
俺のイメージだが、暗殺者と言えば暗い部屋だろう。
更に、東南地区はリンたち【ワークス】の家も近い。
『……これにするぞ。早速ゴールド稼ぎに狩りに行ってくる』
『ストーップ!』
『どうした? 急に』
『どうした? じゃないよ! 全く。私の目指している職業は?』
『? 情報屋だろう?』
『正解だよ。情報屋は情報を人から買って、他の人に売るの。そこは分かってるでしょ?』
『もちろんだ』
『さっき、シャドウは黒豹と毒魔法の事を私に売って、私は買ったよ?』
『……いや、あれは俺がーー』
『買ったよ?』
『しかしーー』
『買ったよ?』
『……分かった』
『素直でよろしい! というわけでこれが代金だよ。ドン!』
……リンからトレード依頼が来た。
こうなってはリンは絶対に折れないだろう。
ここで拒否を押しても、数秒後にもう一度来るのは分かる。
俺は礼を言いながら承諾を押すと、トレード画面に行き、そのまま承認を押す。
『これで完了だよ! これで家を買えるね』
リンから25万ゴールド送られてきた。
『ああ、ありがとう。今度埋め合わせをするよ』
『いいよいいよ。リアルで拾って貰ったし。……どうしてもっていうなら、今日からずっと一緒に寝る事。分かった?』
『いいぞ』
『即答だね。まぁ、今はほら。家を早く買った方が良いよ』
『そうだな』
リンは俯きながら、顔を赤くした。可愛い。
おっと、早く買うとしよう。早速、先ほどの家を買う。
『買ったぞ』
『おお、おめでとう! 所持品の中に鍵が入ってるから、それで開けれるよ』
『これか』
マイホームのカギ 品質 S+ レア度 EX
冒険者ギルドで購入した家の鍵。
家を売らない限り、無くなることはない。
『死んでも無くならないから、そこは安心してね』
『ああ、助かった』
『別にいいよ。っとそろそろ時間だね。家に戻って、早速ログアウトしよ!』
『そうだな。今日は初日だし、リンの大好物にするか』
『本当! やったー!』
リンが両手を挙げて、喜んだ。だが、ここは人が多く集まるギルドだ。
周囲の人は、急に手を挙げたリンの行動に驚き、リンは顔を赤くして、冒険者ギルドの外にそそくさと出ていく。
俺もリンについて行き、冒険者ギルドを出て、購入したてのマイホームに向かうのであった。
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ステータス
名:シャドウ 種:獣人(黒豹) 職:シーフ
種族 Lv 3
職業 Lv 3
HP 150
MP 150
STR 33
VIT 5
INT 15
DEX 10
AGI 49
LUK 5
BP 0
SP 1
スキル
【短剣】Lv.4、【暗器】Lv.2、【隠密】Lv.4、【察知】Lv.2、【鑑定】Lv.4、【看破】Lv.2、【偽装】Lv.1、【暗殺術】Lv.5、【闇魔法】Lv.1、【毒魔法】Lv.1
称号
<最初の黒豹>
STRとAGIが3上昇する。