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桜花
──知恩院の桜が入相の鐘に散る春の夕べに、少女は鴨川の河川敷にあるベンチへと腰を下ろしながら、僅かに時雨る水滴を身に受けていた。
ヒュッ、と風が髪の間を通り過ぎてゆく。春らしい、暖かな風だ。
髪が靡き、川沿いに咲き乱れている薄紅色の花弁が、一つ、また一つ、と虚空に散ってゆく。
散り際までを美しく飾ろうとする彼等彼女等は、見る人の心をも浄化させる。例に漏れず、少女もまた、それを感じていた。
──桜が、泣いている。少女はふと、そう思う。桜も泣くのだろうか、と。
花弁は時雨た水滴に打たれ、それが消えゆく音色を奏でる。
それと同時に、自らもまた、虚空に散りゆく。音色を奏でて。
風に揺られ、穏やかに地に舞い落ちる。或いは、雲間から差し込む夕日を反射する鴨川の流れに身を委ねて。そして、音色を奏でる。
──桜は、泣くのだ。