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救済
アクアリウムの水槽の中が、水底の砂利と水草が、この世界の全貌だと──箱庭に生かされていることも、ここが箱庭であることにも気付き得ないことが、如何に幸福であるかは、遊泳している金魚に言伝るまでもない。
この金魚も含め、金魚すくいの水槽にいるあの金魚らは、せいぜい数日から数ヶ月で死んでしまうらしい。長く保っても数ヶ月──それならせめて、最後の最後に晩夏を拝めるのならば本望だ。
この金魚が死んだ日に、適当な処に埋葬してやってから、僕も死のうと思う。僕は箱庭に生かされていることに、この世界が箱庭であることに、気が付いてしまったから──不幸せの最低からの救済を、この身を対価にして成してみせようと思う。それまでは、この金魚と同じ世界だけを見遣っているつもりだ。
僕の寿命は金魚の寿命。せめて死際に散花になれるのだとすれば、晩夏に咲くあの曼珠沙華になりたい。そうしてまた、泡沫を洩らした。