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優しいままでは終われない

この次の話もお読み頂けると幸いです。

(訳:次話は私の持てるだけの力を詰め込んだ描写をしています。読んで。読め。

──幸せが逃げていく気がした。

少年はそう思いながらもなお、目の前の白髪混じりの男へと──己が父親であるにも関わらず──.44口径(フォーティーフォー)の照準を静かに合わせた。


風が髪の間を通り過ぎて行く。

カチン、と撃鉄を起こす音がした。

弾倉が回り、銃弾は常時発射可能な状態になっている。


少年と父親が相対している此処は、深夜帯のコンテナターミナル。彼等の他に人は誰一人としては居らず、閑散としている。

天然のスポットライトに照らされた少年は、眉尻一つ動かしもせず、小さく口を開いた。


「──カルト宗教団体。人身売買、人体実験諸々の違法行為。それに対しての政府機関と民衆を混乱させるためのプロパガンダ。免罪符なんて与える気にもならないな」


こんな人間に免罪符など──下らない。所詮、少年の中で父親を見逃すことなど、空理空論でしかなかった。

少年も依然として組織に名を残しているのだが、それは彼の意思とは別物だ。


「自分の息子だからと甘んじてたのが運の尽きだ。地位を与え、情報を与え──。それを横流しされることすらも、考えてなかったとは。……いやはや、実に愚かな」


皮肉を隠すこともせず、少年は己が父親へと静かに語り掛ける。


初めて明かされた真実。

同胞の裏切り。

目の前に迫る死。


父親は何を思っているのだろうか。一向に、考えが窺えない。


「御生憎様だが、俺はこれ以上と加担するつもりは微塵もない。何せ、組織の崩壊を約束に……国から幾ら入ると思う? ……百億だ。アンタが違法に使い込んだ金より、遥かに多い。結局、そんだけのモノだったってことさ」


言い終えるが早いか、少年は引き金に指を掛ける。

最後の最期まで、彼の想いが少年へと伝わることは無かった。

しかし、少年からすれば、そんなことはどうでも良いのだ。


「さて──」


耳を劈くといわんばかりの鋭い音が、辺りに響いた。音源である銃口からは硝煙の匂いが立ち込め、それらは静かに空気へと溶けていく。

1つの鈍い音も、それに連なるようにして響く。少年はそれを睥睨すると、口の端を歪めて呟いた。


「──さようなら、だ」


もう既に聴こえてはいない。育てられたという恩はあるにしろ、父親の行っていた数々の真相を知ってしまえば、行った行為(ひとごろし)などはほんの通過点にすぎない。


懐に入り込む巨額の富。

カルト宗教団体の崩壊。

父親の暗殺。


最早少年に、慈悲などは無かった。


……否。無かったと言えば、嘘になる。

殺したのだ。自身の思う『義』を遂行するために。

富などは、付属品でしかない。


ポタリ、と水滴がコンクリートの床に落ちた。

それは少年の心か、父親の心か、はたまた神の心か──。

何れかを形容するかのように、雨は豪雨へと変わってゆく。

少年の身体は、静かに闇へと融けていった。


──優しいままでは、終われない。

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