Turning Point
「あのマフィアが壊滅だってよ! やっぱり俺らのヒーローは凄い!」
スマートフォンを片手に、男子学生は隣の女子学生に話しかける。
「へぇ……」
女子は前髪を整えながら生返事を返す。彼女は表情一つ変えない。そっけない態度に、男子の方は不機嫌そうに問う。
「…………ちょっと前まであんなに応援してたのに、興味無さげじゃん」
はっ、と小馬鹿にした笑いをしつつ、彼女は彼に顔を向けて答えた。
「居るのか居ないのかわかんないし、おんなじ話題ばっかり。もう飽きた」
『まさか、あなたがこんなことをするなんて思いませんでしたよ』
テレビからは毎日出ずっぱりのニュースキャスターが、いつものように薄っぺらいコメントをしている。尤もその顔からは隠しきれない不信感が伺えるが。
『ふ。言いたいことは分かってますよ。”贖罪のつもりか”、でしょう?』
小太りの男はにこやかだが、眼光は鋭い。その視線にも皮肉にも気付いていないのか、キャスターは単刀直入に問う。
『ええ……何故突然、人助けのような仕事を?』
男は表情を微塵も変えずに答えた。
『裏のビジネスというのも単調でして。少々、飽きましてね』
「何故だ!? 何故こんなこと……お前、お前は正義の味方! ヒーロー! 英雄! 私達を助けてくれた唯一人の人!」
腹から血を流し、男は叫ぶ。その顔は驚愕をありありと示していた。
「だって、ねぇ」
倒れる男の前に立つ、右腕を赤黒く染めた仮面の人間は、呆れたような懐かしむような声色で小さく笑う。
「あ、あれほど、皆から、称賛されて……何故お前は……」
縋るように疑問を投げかける男へ、仮面の人間は一つ溜息を吐き答える。
「上辺だけの褒め言葉ばっかり。良い事するの、飽きたんだ」