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星の呼び声  作者: Who
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その1

その日は珍しく星の見える夜だった。


「いよいよ、明日……。」


探索者になるための試験を翌日に控えたボクは、これから始まる自分の新しい道に胸を踊らせながら、その星空を仰いでいた。

そこに。


「もぉ、まだ起きてるの?早く寝ないと、明日寝坊しても知らないよ?」


後ろから声をかけられてそちらを振り向くと、相棒のミリがその小さな体を浮かせていた。

ミリ。

妖精族と言われる種族で、その体はボクたち人間の1/10ほどの大きさだ。

力はほとんどない代わりに、ボクらでは決して使えないような魔法を使うことができる。

今も、その魔法の力でボクの肩の辺りをふよふよと浮いている。


「……って、いつも寝坊してるのはそっちじゃないか。」

「ま、まぁそうとも言うわね……。」


それきり、ミリが黙ってしまったので、ボクも黙って窓を閉めた。

確かに、これ以上起きていても明日に響くだけ。


「じゃあ、もう寝ようか。」

「そ、そうね。おやすみ!!」

「うん、おやすみ。」


手を振って、寝床に潜り込む。

目が覚めたら、いよいよ探索者試験だ。


なお。

翌日、時間になってもミリが起きなかったのは言うまでもない。



◇◆◇◆◇◆



「おはようございます!!」

「まーす!!」

「おう、おはよう。ユグ、ミリ。」


準備もそこそこに家を出て、探索者のためのギルドへ向かった。

ギルドとは探索者のための寄り合い所みたいなもので、探索者と依頼者の橋渡しをしている。

簡単に言えばここに集まる依頼を探索者に紹介してくれる。

他にも、今日みたいに探索者になるための試験や、探索者用の装備の販売など、探索者に関わることのほとんどはここですることができる場所だ。

その入り口に立っていた、近所のおじさんに挨拶をすると、おじさんも笑って返してくれる。


「そうか。ついに今日、ユグも探索者の仲間入りか。」

「うん。ボクも立派な探索者を目指すんだ!!」

「ははは!!威勢がいいな。……だが、これだけは覚えておけ?」

「『どんな時でも無理はしない。イノチ大事に』、でしょ?もう何回も聞いたよ。」


聞き慣れた言葉を聞かされそうになったので、ミリが被せるようにしておじさんの言葉を止める。

止められた側のおじさんは、一瞬きょとんとしたものの、すぐにまた笑い返してきた。


「ははは!!大事なことだからな、何度でも言うさ。……だが分かっているならそれでいい。試験頑張れよ。」

「……うん、ありがとうおじさん。」

「またねー!!」


おじさんに手を振って建物の中に入る。

いつもはあまり多くないけれど、今日は賑やかだった。


「おはようございます。」

「まーす!!」

「おはようございます。今日も元気ですね、ユグくん。ミリちゃんも。」


そんな人混みをかき分けて、まっすぐ受付に向かうといつものおねーさんが暇そうにしていた。

このギルドには、受付のカウンターが4つある。

そのうちの一つに並んで、それぞれ自分の用事、仕事の依頼や、報酬の確認なんかを伝えて仕事を始める。

それなのに他の列は混雑していて、そのおねーさんの前だけは誰一人として並んでいなかった。


「うぅ……。ユグくんぐらいですよ。私に受付をさせてくれるのは。」

「あはは……。」


まるで泣くように、目を抑えるおねーさん。

苦笑いをしながらも、ボクはその巨体・・に震えてしまう。

おねーさん(シスさんというらしい)は、いわゆる華奢で可憐な女の人、じゃない。

身長2メートルで筋肉むきむきの、おねーさんオカマさん、だ。

当然、声も男の人だし、その威圧感はハンパじゃない。

本当に、なんで戦士とかじゃなくて受付嬢(?)やってるんだろうか。


「ぐすん……。っとごめんなさい、今日は試験を受けに来たんですよね?」

「は、はい!!」

「うふふ、緊張しちゃって。待ってて、すぐに手続きするから。」


声が震えたのは、緊張じゃなくて目の前にいる何かが怖いからです、なんて言えないので黙って頷く。

カウンターの下から、シスさんが髪を取り出して渡してくれる。

そこに名前を書いて、受付は終わりだ。


「……っと。」

「はい、確かに。」


後ろの棚に紙をしまってから、名札のようなものが渡された。

ギルドのマークがついているけれどなんだろう。


「これは、仮の登録証です。試験を受けている間は、ずっと見えるように身につけておいてください。試験が無事に終わったら、それと引き換えにギルドカードを作ることになるので、くれぐれも無くさないようにしてくださいね。」

「わかりました。……これでいいですか?」

「バッチリです。」


紐がくくりつけてあったので、そのまま首から下げる。

ちょうどおへそのあたりに来るように調整してから、ボクとミリはカウンターを離れる。

受付が終わるまでもう少しかかるみたいで、それまではこの部屋で待つように言われたので、邪魔にならないように角の方へと移動する。


「ねーユグー、受付終わったんだし何か食べよー。私お腹すいちゃった。」

「あ、そういえばボクも……。」


同時に、お腹を鳴らしてしまった。

ミリと笑いながら、ギルドの一角にある食堂に移動する。

人が多かったから座れるか心配だったけれど、ちょうど空いている場所があったので、サンドイッチを買って座る。

サンドイッチは、野草と味付きの干し肉を挟んだ簡単なものだけど、お腹が空いたボクらにはご馳走だ。

そのいい匂いを嗅いでから、さぁ食べるぞと手に持ったところで。


「どけどけ!!そこは俺様の席だ!!」


そんな声が隣の席から聞こえて来た。

見ると、山賊のような格好をした二人、大柄な男と小柄な男が席に座った人達に詰め寄っているところだった。


「そんな、先に座ったのは僕らですよ!」

「うるせぇ!!先に座ったところで関係ねぇ!!俺様がそこに座りテェんだ、さっさとどけ!!」

「う、うわっ!!」


椅子を蹴られて、座っていた人はそのまま後ろにひっくり返ってしまった。


ガタタッ!!


それを見て、他の人も席を立つ。

そのまま、慌てて倒れた人を助け起こしてギルドを出て行った。

それだけのことが起きても、誰も助けに入らなかった。

少しだけざわつくと、何事もなかったかのように元に戻る。

これはギルドの不文律。

基本的に、諍いは当人たちだけで解決すること。

けれど。


「うわ、なにあれ。感じ悪いの。」

「ああん?俺たちに文句でもあんのか!?」


ミリだけは違った。

そして、小さい声だったけどはっきりとしたその声は、大柄な男に届いた。

ジロリとこっちを睨みつけた後、フンと鼻を鳴らす。


「なんだぁ!?なんでこんなところにガキがいるんだ?」

「ぎゃはは!!迷子にでもなりまちたか〜?」


そう言って、机をバンバンと叩く。

ぐぬぬ、と悔しそうに唸るミリとは別に、ボクは内心ワクワクしていた。

だってこれは、聞いていた話だから。

そういうこともあるだろうと。

近所のおじさんも、コーにいちゃんも、こういうことがあったと。

探索者になるときには・・・・・・・・・・こうして絡まれる・・・・・・・・、と。


ガタッ。


「お?なんだよやる気か?」

「大人しくお家に帰った方がいいんじゃないの?僕ぅ?」

「いけーユグ!やっちゃえー!!」


なぜか煽って来るミリは無視する。

けれど、その声のせいでさらに注目されてしまった。


「おい、流石に止めた方が……。」

「よせよ、無視だ無視。」

「ざわざわ……。」


周りから聞こえてくる声も、聞こえないふりをする。

だってこれは探索者になるために必要だから。

だから。


「初めまして、先輩!!ボクはユグ。今日から探索者になります。えと、よろしくお願いします!!」


そう言って頭を下げた。

まっすぐ、二人の男に向かって。


「…………。」

「「…………。」」

「「「…………。」」」

「あれ?」


おかしい。

周りから音が消えてしまったみたいに静かだ。

こっそりと振り返って見ると、ミリが頭を抱えていた。

あ、もしかして聞こえなかったのだろうか。

そこでボクはもう一度二人を見て。


「初めまして、せんpーー」

「うっるせぇ!分かってるよ、そんなこと!!」


さっきより大きな声で言ったら、怒鳴られてしまった。

反省、をする前に大柄な男が立ち上がって。


「なめてんのか、小僧?ああん?」

「え!いえ、そんなつもりは。」

「ごちゃごちゃしつけーんだよ!これでもくらいやがれ!!」

「うわわっ!!」


大柄な男が手を振り上げ、ボクは思わず目をつぶってしまった。


(殴られる……!!)

「おっと、そこまでだぜ。センパイ?」


と、思ったのにその攻撃はいつまでたっても来なかった。

代わりに聞こえてきたのは、聞いたことのある声で。


(?)


ざわ……、ざわざわ……。

おそるおそる目を開けると、やっぱり見たことのある背中だった。


「コウにーちゃん!!」

「よぉ、ユグ。久しぶり、ってほどでもないか。」


大柄な男と、ボクとの間に立っていたのは、「コウにーちゃん」。

本当はコウスケっていうらしんだけど、長いからそう呼んでる。

コウにーちゃんも探索者で、「実力ある若者」らしい。


「なんだ、てめぇは!?」

「俺が何者かなんてどうだっていいっしょ?それよりも、後輩がこんなに礼儀正しいんだぜ?失望させないでくれます?センパイ。」

「いでででで!!」


コウにーちゃんはそのまま、ギリリ、と音がするほど掴んだ腕をねじり上げた。

悲鳴をあげながらも、大柄な男はなんとかコウにーちゃんを振りほどく。


「クソ!覚えてやがれ!!」

「おう!忘れるまでならなー。……、さて。災難だったな、ユグ。」


そう言って、ボクの頭を撫でてくる。

そして。


「で、なんだってお前がここにいるんだ?」

「覚えてないのですか?今日は探索者の試験の日でしょ?」

「あ、メアねーちゃん!!」


今度は横からひょっこりと出てきたメアねーちゃんが答えてくれた。

メアねーちゃんもメアリーって言うんだけど、長いからそう呼んでいる。

コウにーちゃんと同じで、メアねーちゃんも探索者だ。


「うぉ!まじか!?……もうそんな時期かー。」


ユグもでかくなるわけだ、と最後にボクの頭をポンポンとしてから、手を離す。

そんなコウにーちゃんに、メアねーちゃんがため息をついた。


「私もあなたもそんなに変わらないでしょう?」

「細かいことはいいんだよ!とにかくーーー」

「お待たせしました。試験の受験者はカウンター前に集まってください!」


何か言いかけたコウにーちゃんに、ギルドの人の声が被る。


「あー。とにかく試験、頑張れよ。」

「私たちも応援していますよ。」

「うん、ありがとう!行ってくる!!」

「バイバーイ。」


二人とは手を振って別れて、ボクとミリはカウンター前に戻った。

いよいよ始まる、ボクの探索者試験が。

腰に釣っている、お守りがわりの短剣ナイフにそっと触って、気合を入れ直した。

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