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第6話 目的地

「北西、ルリオーネ神国、ラプラス連に向かう」


 リンは車の行き先を指定する。シンクはその場所に驚いた。


「相手が遡行官なら懐ですよ。殺されに行くようなものじゃ……」


 ルリオーネ神国は同盟中立国である。

 神国ということからわかる通り、宗教が国家の基盤にある。公明正大をうたうこの国は、基本的に中立の立場をとる。

 だが、その精神の破壊者たる帝国に対しては明確に敵対する。

 簡単に言うと、四国同盟に入っていないが、同盟と同じ陣営の国。

 同盟の国同士といえど、利害関係で対立することもある。神国の中立はあくまで同盟国間の対立においてとなっている。


 同盟国側三基のラプラスをどこに造るかは大いに揉めたそうだ。どこも自分の国が管理したい。他国に独占されたくない。

 各国それぞれが持つ案もあったそうだが、予算や運用効率から却下。

 そうこうしているうち、帝国がラプラス研究を進展させたとの報が入り、各国は妥協を余儀なくされた。

 同盟側の中で中立。文化的に重要だが、国土、国力は最小。

 こうして、ルリオーネ神国に技術者、運用者、遡行監理官などの人材と、各国の拠出予算を集められた組織、ラプラス連が置かれた。


 ラプラスは当然、最重要警備対象だ。今のシンクたちには近づくほど危険が増す。


「私が冤罪の可能性について上と話す。それしかない」


「電話は……?」


 シンクはリンに携帯電話を差し出そうとする……が、ない。

 先の襲撃で落としてしまっていた。リッカも反応しないので同様らしい。


「誰かに借りて……」


「それはやめておいた方がいい。奴らに市民を巻き込む気だと勘違いされて、急いで仕掛けられるとまずい」


 リンの言葉は、時間がたてば状況の好転があり得るという風にシンクには聞こえた。


「話すにしても、話通じますかね……?」


 部隊を出すほどだ。可能性について理解してくれても、結論は、危険かもしれないので殺すもあり得る。


「とはいえ、逃げ続けることもできんだろう。奴らは簡易予測を使っている」


 リンの言う通りだ。

 簡易予測は精度が低いとはいえ、未来がわかる。予測を元に未来を望む方へ変えようと動けば、簡易予測そのままの未来になることはまずないが、他の未来を変えようとする者の妨害を受けない限り、結果は良い方に転がる。シンクにとっては悪い方に。

 簡易予測を出し抜けるのは簡易予測。同盟側と帝国の化かし合いの道具を敵に回して、逃げ切れるはずがない。

 シンクの頭に、帝国に逃げればとの考えも一瞬よぎるが、罪を認めるに等しい上、帝国にかかわるのはごめんだ。


「もし話を聞いてくれなかったら、私が何とかする」


 リッカが顔を上げ、決意を口にする。


「何とかって……」


「システムの欠陥を直す」


 無理だろう。シンクは二重の意味でそう思う。

 まず、ラプラスに触れさせてもらえない。向こうはデータ改ざんの可能性を考えるだろう。

 そして、時間もない。欠陥を直す前に事態の解決する方が早い。どのような解決かはともかく。

 だが、シンクはリッカの決意に口をはさめなかった。


「決まりだ。私たちはラプラス連へ行く」


 リンもシンクと同じことを思ったに違いない。だが無駄なことは言わない。


「シンクも戦う覚悟しとけよ」


 こんな状況だ。備えておくに越したことはない。


「足引っ張るだけですよ」


 これでもシンクは毎日鍛錬している。近接戦のみならそれなりの自信もある。

 ただ、一般人と比べてだ。特殊部隊が相手では、一対一で完敗する。身体強化のレベルからして違いすぎるのだ。

 リッカに一度も勝てたことがない人間が、まともに戦える想像をするのは難しい。


「いるだけましだ。装備、トランクに積んだままだよな?」


 手から前腕を覆う手甲に、脛から下を覆う足甲(甲掛)がシンクの武装だ。

 本格的な鍛錬を行うときは、マンション近くの空きスペースでは物足りないため、広い場所へ移動する。それもあって、シンクは車のトランクに保管していた。


「ま、向こうに着くまでに覚悟ができればいい。おそらく道中の襲撃はない」


「ないんですか?」


「ないな。向こうには簡易予測がある。来るとわかっているなら待ち受ければいい。機密保持で封鎖区画に指定されてるラプラス連周囲なら、一般市民を巻き込む心配もない」


 それは、今まで全力を出せなかった遡行監理官たちが、万全の態勢でシンクたちを迎え撃つということだ。正直、道中の不安が最後に凝縮されただけ。むしろ、シンクの不安は大きくなる。


 シンクは車を高速道路に進ませる。

 今日の夜には目的地に着く。

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