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第16話 上級職員

 シルフィード魔法学園は高い独立性を要する。

 経済力が弱かった頃にメイル共和国に組み込まれたが、それも今は昔。発展を遂げた今、学園地区は国の中にあるもう一つの国と呼ばれる。

 高い技術力。優秀な人材。そして戦力。同盟の中心であるミトライア王国にも引けは取らない。


「この前の事件で、ラプラス連は学園に無断で襲撃を決行した。以前から共和国が、ラプラスの情報を

学園側に渡さないよう手を回していることもあって、抗議の声が大きくなっている。しばらくは簡単に襲撃を仕掛けられる状況ではない」


 リンは学園の重役だ。抗議の割合はリンが大きいのだろう。


「……学園がラプラスの情報を得られれば、私が政治的に襲撃を防げるんだがな。ラプラスの情報で学園の上に立っている共和国は、アドバンテージを失って学園地区の独立をさせたくないはずだ」


「学園がラプラスの情報を持たない以上、学園と同盟の関係が落ち着けば、また襲撃はあり得るってことですか……」


 リンもそうだが、強力な学園の離反は同盟にとって避けたい。強硬な姿勢は、少なくともしばらくはないはずである。とはいえ、学園をラプラスにかかわらせるほど軟化することもなさそうだ。


「そこで学園の上級職員なんだ。学園地区の公務員ではなく学園直属の上級職員。彼らは非常時に学園を守る戦闘員となる。他国でいう軍隊だ」


 学園は常設の軍隊を持たない。上級職員と呼ばれるものが代わりとなる。教授や助手、研究員から事務員に至るまで、学園内で働く者はすべて上級職員だ。例外なく戦闘力を測る試験を受けている。教授などになるともちろん知力も。


「他国の軍隊を攻撃すれば、それは戦争だ。基本的に現代において、戦争をしたい国なんてない。上級職員となれば、ラプラス連も襲撃をためらう。特に、王族貴族と関係が深い学園はメンツを重視する。上級職員を襲われて何もしないなんてことはない。他国もそれはわかってる」


 学園には、王国などの貴族の子孫である貴族派などもいる。泣き寝入りとは無縁の存在だ。


「でも、学園に入学すらしたことない自分とリッカが、上級職員になれるんですか?」


 シンクは疑問を口にした。

 上級職員となることは強さの証明と言われている。毎年、学園の卒業生の何割かが試験を受けるらしいが、採用者はその中でも少なく、狭き門とされる。

 優秀とされる学園卒業生でもこれだ。シンクは、卒業生以外の上級職員なんて聞いたことがなかった。ましてや、そうレベルの高くない高等学校の卒業生がなれるものではない。


「学園規定では問題ない。学園設立当初は外部から教師を招いていたんだからな」


「学園設立当初って二百年前ですよね……」


 そこまで遡らなければ、卒業生以外が上級職員になった事例がないということか。そもそも当時に上級職員があったのかシンクは知らないけれど。

 当時の青空教室と、現在の準国家の頂点とではあまりに違う。当然、現学園においては例外となるだろう。


「とりあえず学園長に話は通してある。明日、学園で詳しく説明するから、そのつもりでいてくれ」


 間違いなく面倒なことになるだろうが、リンの案しか取れないため、シンクとリッカに拒否権はない。

 戦闘試験だけなら、試験基と繋がり続けている今のシンクには、どうにでもなるはずだ。リッカが消えでもすれば、リンとの敵対は決定的なのだから、ラプラス連も試験基をすぐさまどうこうしないだろう。


 それよりシンクは、どんな仕事をやる羽目になるのか不安だった。シンクは日々の生活を、リンにおんぶにだっこな状態だ。つまりは無職。家事などを受け持っているのは仕事しろという圧力から逃れるためである。コミュニケーションが得意でないシンクは、働きたくない願望に満ち溢れていた。

 上級職員といっても仕事は色々とある。シンクは最小限のコミュニケーションで済む職場を切に願う。


 シンクは、隣で食事を終えようとするリッカを見た。

 リッカは予測を歪めないよう、予測に従って生活していたらしい。ならば、今までのリッカは演技なのだろうか。この物静かなリッカが、本来のリッカの性格なのだろうか。それいかんによっては、リッカの職場も気を遣うことになる。


「さて、そろそろ行くか」


 リン本体が席を立ち、自分の食器を片付ける。


「どこに行くんですか?」


「さっき言ったろ。国境だよ」


「もう戻るんですか」


 リンは国境で帝国の牽制に戻ると言っていたが、まさかこんなに早くとは。

 シンクは、リンが戻ってすぐ襲撃されるのではと思った。リンのことだから、ラプラス連と話がついた結果が早く戻るなのだろうが。


「早ければ早いほどいいんでね」


 リン本体は、あらかじめまとめていた荷物を手に取る。


「じゃあ行ってくる。……リッカ」


 名前を呼ばれたリッカは、顔を上げる。リンは少し笑って話しかける。


「自分のために生きろよ」


「……いってらっしゃい。気を付けて」


 リッカはリンと目を合わさずに声をかけた。

 シンクもリッカと同じ言葉をリンにかける。

 リン本体は、新たな家を出ていった。

 ドアの閉まる音を聞いて、シンクは猫リンに尋ねる。


「リンさんはリンさんに、何も言わなくてよかったんですか?」


「全部わかってるからいいよ。それに私と話すのって変な感じになる」


 猫らしく手で顔を洗いながら、少し照れたように答えた。

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