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第13話 二度目の死

 リンがシンクに、格闘術を始めて指導する際、少し本気を見せてくれたことがある。七年前の事件後、不安でいっぱいのシンクを安心させるためだったのだろう。私といれば、もうあんな目には合わないという。

 見せてくれた技のすごさは、時が経つほど理解できた。

 強く印象に残っていたのが、高速移動からの突き。高速すぎて目に見えなかったとしても、シンプルゆえ、子供のシンクにもわかりやすかったのだ。


 再現には程遠いが、シンクの真似事でも、威力は十分。

 ガードしたリッカの腕はしびれる。しばらく近接戦はできない。


 リッカは魔力弾を飛ばす。

 防げる。レーザーよりも密度も速さもない。シンクは腕の一振りで撃ち落とす。

 魔力弾は何発も飛んでくるが、シンクへの決定打には遠い。

 シンクは魔力を右手にまとわせて突き出した。拳圧で魔力弾はまとめて霧散する。


「それはリンの戦い方……!」


 リンならどうするか。シンクはそう考える戦い方に切り替えた。シンクが頭上に乗るリンと繋がっている影響か、案外馴染む感覚がある。


 リッカは方法を変えながら攻撃を仕掛ける。魔力弾で足元を狙ってからの蹴り。流れるように肘、かかと落とし。近距離での魔力放出。だが、どれもシンクに通用しない。


 シンクは弱いと思った。


 もともとのシンクが弱いので、いえる立場ではない。しかし、客観的に見てもシンクとリッカには力の差がある。戦闘で上手なのはリッカだ。シンクが普段の戦闘スタイルで後れを取ったのだから。なら、この差は魔力量によるもの。

 そこにはおかしい点がある。

 『過去』のラプラスは、リッカがしたことをシンクがしたことに補完した。それならば、二人の魔力量は同じになるはずだ。

 今までの戦いで消耗した。制限弾を受けた。どちらも原因ではないだろう。シンクの内にある規格外の力は、その程度で消えないと主張してくる。

 つまり、リッカの魔力がなぜか弱まっている。


 シンクは牽制の一撃を放つ。それだけでリッカは床に転がった。

 リッカはすぐに立とうとしたが、バランスを崩して膝をついた。


「こっちの勝ちだ。理由はわからないけど、リッカの魔力は七年前と比べて弱まってる。七年前のリッカと同等の魔力を持つ自分とは、かなりの差があるはずだ」


 魔力の差は威力の差。恐らくもうリッカはシンクの魔力壁を壊せない。

 シンクはリッカに歩み寄る。

 リッカはもう一度攻撃しようと右手を上げる。しかし、よろめいてあさっての方向へ魔力弾がいく。

 息が上がっている。決着はついた。


「何でそこまで……。ここで勝ってもリッカが死ぬのに……」


「私はラプラスと繋がってる。だから彼らの感情が流れ込んでくる。彼らはいつも叫んでるんだ。苦しい。助けてくれって。それも当然なんだ。ラプラスの中で彼らは自身の抜け殻に宿っている。光も届かず動けない体。ただ意識のみがある。人間がそんなところでずっと正気を保てるはずがない」


 リッカが話し始めたのは、ラプラスに宿った人たちの二度目の死の様子だった。


「シンクにはわからないよ。毎日毎日悲鳴が聞こえ続ける日常。それでも予測を歪めないように、弱音さえ吐けない。まともでいるには聞かないふりをするしかなかった。聞かないよう、私は計算補完システムの開発に逃げるしかなかった」


 シンクはリッカのことを、リンと同じ人種だと考えていた。研究が楽しい。努力を努力とも思わない、天才的な人間だと。

 実態はかけ離れていたのだ。するしかなかったからした。楽な方へ流されるシンクのほうがよっぽどリッカに近い。


「悲鳴は月日が経つほどに少なくなった。……私は安心した。彼らが死ぬことに喜びすら感じた。私とラプラスの繋がりが薄くなったことで魔力量も減った」


 リッカは自分を罰するように語る。自嘲して自らを傷つけていた。


「そして、彼らの声が聞こえなくなった時に怖くなったんだ。助けに来ない私を恨んでいるんじゃないか。彼らから生まれたのに、彼らを見捨てようと一瞬でも思った私は死んだほうがいいんじゃないかって」


 リッカは追い込まれていた。自身の運命、自身の存在そのものにさえ。

 リッカの頬を涙が伝う。

 シンクは唇をかみしめる。なぜ七年間も一緒に暮らしていて気づかなかったのか。予測を歪めないようふるまっていたリッカが上手かった。そんなのは言い訳にならない。


「リッカは生きるべき人間だ。死んだほうがいいなんて……」


 リッカはシンクよりよっぽど優れている。社会に貢献したという意味でも、誰かのために涙を流せるという意味でも。そんなリッカに言わせてはいけない言葉だ。


「じゃあ、どうすればいいの……!?私はどうすればよかったの……」

 どうすればリッカを助けられるのだろうか。


 シンクには後味の良い解決方法が思いつかない。ただリッカを死なせたくない。シンク自身も進んでは死にたくない。それだけしか満たせない方法を取る言い訳を考えていた。

 言わなくてはいけない。リッカを傷つけても。


「リッカはリッカのために生きればいい」


 シンクの言葉にリッカは固まった。

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