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さて、どうしたもんか。そう考えながら俺は気絶した女の子を横たわらせる。檻?丸かじりされたおっさんから鍵を拝借させてもらった。さすがに檻ごと運ぶほど力があるわけじゃないのは自覚している。横転してた馬車の残骸も、ロクに動かなそうだったしすぐに諦めた。熊だけはなんとか持ってきて血抜きはしているが。こらワンコ、こいつのワタは食うな。物欲しそうな目をしてもダメだ。
それにしても、何故檻の中になんていたのだろうか。ぱっとみた感じ髪は明るい茶色で所謂ロングヘアーで全体的にウェーブがかかっている。顔も整っているし、服にしても薄い桜色とでも言うようなドレス
を着ている。唯一違和感を感じるとしたら首につけられた、鎖がついているゴツいチョーカーらしきものだろう。もしかしたら流行りのアクセサリーなのかもしれないが。
ひとまず、夜明かしの準備はしたが…なるようになるか。たまにはのんびりしてもいいのかもしれない。そう思い頭上の空を見上げる。……綺麗な青空だなぁ。あ、鳥が飛んでるわ。俺も空飛べたらなぁ…。
そう考えていると、近くの草むらがガサガサ音を立てる。ちなみにワンコは幸せそうな顔をして熟睡中だ。俺は護身用の銃に手を伸ばし、草むらに目をやる。
―ガサガサ
――ガサガサ ガサガサ
どうやらこちらに近づいてきているようだ。思わず銃を抜こうとした時、音を立てていた主が現れた。主と言っても体高20センチくらい、体長も30センチくらいだろうか。ドバトに似た鳥がピョンピョンと、雀が跳ねるようにして地面のあちこちをつついている。俺はすかさず<鑑定眼:Lv2>を使い見てみる。
種族名:クックー
名前:
称号:
状態:
Lv:1
STR:G-
AGI:E+
DEX:F
VIT:F
INT:G+
MAG:F-
LUC:E
スキル:<飛行>
進化先:クックー>???
どうやらあの鳥はクックーという鳥らしい。灰色の身体といい、首周りが虹色に光って見えるところといい、赤く見える目といい、俺にはどう見てもドバトにしか見えない。だがクックーと言う魔物らしい。
俺が<鑑定眼:Lv2>を使っても、クックーは相も変わらず跳ねながら地面をつついている。そういえば、某集めて育ててバトルするゲームを題材にしたアニメではああいうモンスターを捕まえてたりしたっけか。確かこう…上半分が赤くて下半分が白いボール。色の境目に黒のラインが入っていて…そう思いながら<アイテム作成>を念じる。
詳しい原理とか知らないし、そもそも実現してたわけじゃないアイテムだ。できなくても仕方ない。そう思ってた時期が俺にもありました。
「……成功してるし。これ、あの鳥にぶつければ捕まえられるのか?」
俺は呆然としつつも、右手に握ってるボールに向けて<鑑定眼:Lv2>を使う。
捕獲玉:野生の魔物を捕まえるためのボール。捕獲が成功すれば従順状態にして、使役することができる。強力な相手ほど捕獲に失敗する確率があがる。
はい、まさしくあの玉ですよ、これ。恐らく<賢者の石:Lv1>が悪さしたのだろうと当たりをつける。グッジョブ。
「……できちまったものは仕方ないし、挑戦だけしてみるか。」
あのゲーム通りなら目標に当たらなかったボールは使いものにならないはずだ。俺は大きく振りかぶ…らずに下手投げでトスするようにクックーに向かって捕獲玉を投げる。
ボールに当たったクックーは捕獲玉に吸い込まれ…1回、2回、3回と揺れて、カチッという音とともに動きを止める。恐らく捕獲に成功したのだろう。俺は捕獲玉を手に取り覗き込む。どういう理屈か知らないが、中でクックーが羽ばたいている。深く考えるのはよそう。
「変わった魔法ですね。私は初めて見た魔法です。」
「いや、魔法じゃない。これはアイテムの効果だな。」
「投げて当てるだけで魔物を捕まえてしまうのですか…すごい効果ですね。」
「確実にというわけじゃ…な…」
あれ、俺は誰と話してるんだ?さっきまでは俺とワンコと、気絶していた少女だけだったはず。ワンコは言葉を理解してるようだが話すことはない。俺はここでクックーとやらを捕まえていた。―ならば、と状況を考え声のする方に身体を向ける。
そこには、まるで人形のような青い瞳をした少女が行儀よく座っていた。明るい茶髪に青い瞳って見慣れてないからか違和感あるな。ともあれ、目を覚ましたようなので聞くことだけ聞くか。
「怪我とかはなさそうか?」
「はい、お陰様で。」
「そっか。」
―そして、会話が止まる。やべー、こういう時どんな顔すればいいのかわからない。いや、ネタとかじゃなくて。目の前の子も不安そうにキョロキョロしてるし。てかドレスって結構身体のラインハッキリするのな…こう、出てるところは出てて…じゃなくて!
「「えーっと…」」
俺と彼女は同時に口を開いてしまい、更に気まずい雰囲気になる。やべ、喉がカラカラだ。とりあえず、こういうときはレディーファーストってことにしておく。逃げたとか言われても構うまい。あ、話したいことがあるならどうぞどうぞ。
「では、失礼しまして。まずは助けて頂いてありがとうございます。正直、ノーティベアが視界に入ったときは死を覚悟しました。」
「へぇ…あの熊ってノーティベアって言うのか。」
「……?知らなかったのですか?このあたりでは有名な魔獣なのですが…。」
「あぁ、知らん。そもそも、俺があの場にいたのも偶然だ。」
実際に偶然以外の何者でもないしな。ちなみに撃ち抜いた後にノーティベアとやらに<鑑定眼:Lv2>を使用しても何も表示されなかった。基準がわからん。
そんなことを考えていると目の前の女の子が悲しそうな顔をし始める。ヤベ、考えてること顔に出てたか?
「あの、私と一緒にいた方たちは……?」
「あぁ、そうか。魔法使いの人達のことかな?それなら……」
さて、どう言うべきか。俺は語彙力なんて乏しいからな。どう伝えるべきか。少し間が空いてしまう。
「…迷ってる、ということは皆さん助からなかった、ということですね。」
「悪い。」
「いえ…こればっかりは仕方なかったことだと思います。」
しばらくお互いに無言で時間が過ぎる。どうしようもないことだが、空気が重い。俺は思わず天を仰ぐ。あ、鳥がまた飛んでる……こんな時こそ飛べればな…。益体もないことを考えていると、目の前から声がかかる。
「あの、お願いがるんですが。」
無言で続きを促す。聞いてみないと返事なんてできないからな。
「…みなさんを弔うのを手伝っていただいてもよろしいですか?」
「そういうことなら、手伝わせてもらうさ。」
聞いたところによると、やはりと言うか埋葬もせずにほうっておくと死体が魔力を取り込んでアンデッド化してしまうらしい。さすが異世界ファンタジー。
ひとまず今日はもう日も暮れてきたので、休んで明日作業をしようということで話がまとまった。野宿だがその辺は納得してくれたので助かる。
そして、就寝直前に気がついた。――名前、聞いてないし名乗ってないわ。
アクセスありがとうございます。
前回に比べたら長めに尺取りましたが、どのくらいのサイズがちょうどいいんでしょうね。
年内は忙しくなりそうなので不定期で続けていきます。