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今回は短めです
俺はワンコとともに街道を【セントラルシティ】に向かって登り坂を歩き続ける。どうやらこのあたりは小高い丘が連続しているようだから仕方ない。
うん、一人で黙々と歩いてるよりも気分的に楽な気がする。それに、ワンコが街道の横の森で小動物を狩ってきてくれるので、食事も今までよりも豪勢になった。やっぱり食事は大事だね。
数日間歩いてたとある日のおおよそ昼くらいの時間になる頃。
「おぉ、この山で最後か。絶景かな絶景かな。」
俺とワンコは丘の頂上から進行方向を見下ろしていた。どうやら今いる丘で最後の丘越えになるらしい。街道も斜面に沿って下り、その先は草原に続いている。それでもまだ【セントラルシティ】とやらは見えないんですね。
見えないものは仕方あるまい。街道を下って歩いていくしかない。
「ワンコ、ゆっくり気ままに行こうか……って、どうした?」
振り返り、俺はワンコの様子を伺うとどうも様子がおかしい。いや、おかしいというか耳がピクピクして何かに警戒するような姿勢を取っている。坂道を登ってくるときは何もなかったのにな。
「どうした、わんこ?」
「ウー…」
警戒こそすれ、すぐに走り出すわけじゃない。こういうとき意思疎通できないって不便だな。ワンコも心なしか悲しそうな顔をしている。
まぁ、考えてもわからないし、キリがない。ワンコを一撫でして進むとしようじゃないか。
…
……
ワンコも唸り声を上げるでもなく、警戒したまま進む。はっきり言おう。空気が重い。俺には何が起きてるかさっぱりだし――とか考えていると、どこからともなく破裂音が聞こえてくる。続いてバキバキという、乾いた木を折るような音が聞こえる。――そして耳に届く騒ぐ声。いや、悲鳴か…?
ともあれ、俺達の進行方向から悲鳴らしき声は聞こえた。俺とワンコは一度顔を見合わせ素早く、それでいて最大限に警戒しつつ斜面を早足で下っていく。
辿り着いた先で見た光景は……巨大な熊が、正面にいた中年太りのまるまるしたお腹を晒しているおっさんを頭から肩口にかけてまるかじりしながら、宙ぶらりんにしている状態だ。分かる人にはマミった状態、といえば通じるだろうか。オレサマ オマエ マルカジリ。
そんな某ゲームの異言語の代表例を思い出すくらいには衝撃的な光景。そこに熊の後ろから火球や氷の矢が降り注ぐ。弾幕が来たであろう方向に目を向けると、何人もの人が杖を抱えて何やら唱えているようだ。アレが魔法か?すげー。
俺は初めて見る魔法に目を奪われていた。術者は数人が一列横隊で数列を構成していて、火縄隊よろしく魔法を放っては列の最後尾へ移動。そして先頭になった者が火球や氷の矢を放つ…ということを繰り返しているようだ。が、相手は熊。咥えたおっさんの亡骸を打ち捨てると、多少の魔法の直撃を受けつつも術者の列に突撃して豪腕を振るう。
正直なところ、ここまで見ていて気分のいいものではないな。知らない人間とは言え目の前で人が紙切れみたいに裂かれて飛ばされて行くのだから。
「なぁ、ワンコ。止めるなよ。」
「ガウ。」
俺は心のなかで「間に合え」と念じつつ狙いを定め、魔法を放つ術者をいとも簡単に切り裂く熊の脳天を撃ち抜く。
――ズガァァァン
大音響を残して熊を撃ち抜くのと、術者の最後の一人が切り裂かれたのはほぼ同時だった。
当たりに静寂が戻り、音を出すのは横転した馬車(もちろん破損している)の車輪がカラカラ虚しい音を立てているくらいか。吐き気をこらえ、俺は馬車の死角になっていた場所を見る。
そこには、檻の中で気を失っている少女が一人いた。
アクセスありがとうございます。
今後もゆっくりと進めていく予定です