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「さて、こんなものか?」
「そうですね。…皆様、どうか安らかにお眠りください。」
オレと彼女は晴れた草原、ノーティベアとやらの襲撃があった場所で魔術師の亡骸を埋葬していた。どうやらこの世界では一般的には土葬らしい。穴を掘るのは重労働だったが…なんとか昼前には終わった。彼女は何やら祈りの言葉を唱えているようだが、俺は興味ないので聞き流している。
少し時間がたったが、彼女が立ち上がる。
「その、ここまで手伝っていただいてありがとうございます。」
「たまたま居合わせた縁だし、気にしなくてもいいよ。」
袖触れ合うもなんとやら。これは日本人だから感じることだろうか。そのくせ昨日はお互いのことを何も話さなかった気がするが。
「それじゃ、行くから達者で「それと、これからよろしくお願いします。」」
…数瞬の間。それから俺が出せた言葉はこれしかなかった。
「はい!?どういうことなの!?」
「どういうことって、言われても…奴隷法に則ったことですよ?」
「いやいやいや、その奴隷法ってそもそも何!?俺、知らないけど!?」
「奴隷の扱いに関する法律なのですが…?」
あ、彼女が困惑している。え、本当に知らないの?とでも言う顔だ。
「大体、俺は奴隷とかそういう扱いがないところから来たんだ。」
「奴隷の扱いがない国……?そのような国が成り立つのでしょうか…?」
「俺のいた国では成り立っているんだから仕方ないだろ。それよりも、さっき言ってた奴隷法ってなんだ?」
俺が彼女に問いかける。彼女はほっそりとした人差し指を顎に当て考えるような仕草をする。妙に様になってて可愛く見える。何故か悔しい。
「わかりました。恐らく一度見てもらうのが一番早いでしょう。」
そう言うや彼女は<ステータスオープン>を唱える。てかこの世界、ステータスとかスキルがやっぱりと言うか一般的に認知されてるのな。
「これが今の私のステータスです。是非確認してくださいね。」
笑顔で渡されても困るが…確認しろというのだから俺は見せてもらう。
名前:チアル・ベルス
称号:<ナガエ カズマ>の奴隷
ランク:
状態:【隷属:ナガエ カズマ】
Lv:13
AGI:F
DEX:D-
VIT:E-
INT:C+
MAG:D++
LUC:E-
スキル:<火魔法適正:F:Lv2><水魔法適正:G:Lv1>
「……アイェェェェェ!?ナンデ、ドレイナンデ!?」
誓って言おう。俺はこの世界に来てから奴隷なんて買ってないし、買う方法も知らない。それに、何が悲しくて自分よりLvの高い子を奴隷にしなければならないんだ。俺のプライドがクライシスだよ。
「本当に、知らなかったんですね……。」
彼女こと、ステータスによるとチアルは遠い目をしながら涙を流す。これ、俺は何も悪くないだろ!?
それからしばらく。お互いに驚いたり混乱したりしてたので落ち着くまでに時間がかかった。これは仕方ないね。ともあれ、何故チアルが俺の奴隷になっているのかを尋ねてみる。
「それは、あの商人の方がカズマさんの目の前で亡くなったからですね。」
「うん、よくわからん。」
「えっと…奴隷の主人が亡くなった場合、奴隷はいわゆる『野良奴隷』になります。街中であれば葬儀等があるのですぐに奴隷商人に連絡が行って、新しい主人を迎えるために隷属状態を解除してからまた売りに出されます。」
「野良奴隷って…またすごい呼び名だな。」
「私もそう思いますけどね…。それで、私のように町の外で野良奴隷になった奴隷は……首輪を着けていない、最初に出会った方が奴隷の主人となります。」
どうしてそうなった。俺は呆れて天を仰ぐ。いや、奴隷の身分から簡単には開放されないためなのだろうが……まてよ?
「なぁ、首輪をつけていない、最初に会ったやつが主人になるってことは…運が悪ければ盗賊とか……それこそ、さっきの熊みたいのに拾われることもありえるのか?」
「はい、盗賊に拾われてしまうことはあります。その場合は犯罪を強要されるので…間違いなく犯罪者になってしまいますね。」
ドン引きだわ。そんな穴だらけのシステムでも運用し続けているのはメリットのほうが大きいからだとか。ついでに聞いたところ、犯罪者になると街には入れないわ、冒険者登録できないわと、最低限生きていくことすら厳しくなるようだ。ていうかこの世界、冒険者とかあるのね。
「そして、魔物に最初に会ってしまったら…その魔物の人形として扱われたり、慰みものになったりすると聞いています。もちろん、どう扱うかはその魔物次第なのでしょうけど。」
わぁい、胸糞な話だなコレ。元の世界ならオークに云々だとかゴブリンとかに云々と、人によってはオカズとなるジャンルなのだろうが、あれは実際に身の危険を感じないからだとよくわかる。
「で、話を戻しますけど。私のご主人様となったカズマさんには、私を…正確に言うと、隷属状態になった奴隷を保護する義務があります。これを放棄するとカズマさんは犯罪者の仲間入りになります。」
「うわぁー……」
色々端折られてる説明だろうが、要点としては俺は彼女のことを保護しないと犯罪者となり今後の生活にかなりの不自由が出るだろうということだ。チアルが言っていることが真実かを調べる術はないが、ここで無駄なリスクを追う必要がないと思われる。奴隷商人がいる、ということは恐らく売却もできるということだろう。そのあたりは追々考えていけばいい。俺はチアルと【セントラルシティ】へ向かうこととした。体よく現地の案内人と出会えたと思えばいいだろう。…異性なのと状況が問題な気もするが。
俺とチアル、ワンコは街道へ戻りあるきだす。まだ日が高いため、進めるだけ進んでおきたい。もちろん安全は最優先で。
「そう言えば、私流れで『カズマさん』と呼んでしまいましたたけど、奴隷らしく『ご主人様』とか『旦那様』のほうがいいですか?」
「やめてくれ。俺はそんな大層な者じゃない。」
「では、なんとお呼びすればよろしいですか?」
「そのままで頼む。ご主人様とか旦那様って呼ばれると違和感しかない。」
日本のオタク文化に染まっていたせいもあるんだろうけどな。だが気分のいいものではないので確かなのでそれとなく伝えておく。一応〈命令〉と言うかたちで指示すれば奴隷は従ってしまうんだそうだ。これは反抗したら首輪|(というか見た目はチョーカー)が締まったり、即死魔法が発動してしまうからだとか。首輪によって違うらしいが怖すぎる。
会話しながら歩くってだけで気分も軽くなる気がするから不思議だ。俺のいきさつを<命令>で他言しないようにしてからチアルには話しておく。この先フォローしてもらうことも増えるだろうしな。
この世界の常識だとかを触りだけ聞いたりしたが、このあたりはほぼ日本と変わらないな。正直助かる。何より違うのは文明レベルと魔法の存在だろう。チアルも魔法を使えるので、魔法の初歩を明日歩きながら話してくれるそうだ。
そんなことを話しつつ、今日も日が暮れる前に野宿だ。……交代で見張りができるってだけで安心感が違うな。「私が一晩中起きてます」とか言い出したのでそれをなだめるのに一番苦労したが。
とりあえず、おやすみなさい。
アクセスありがとうございます。
恐らく年内最後の投稿になります。皆様良いお年を