まさかのお迎え
コメディーになっていれば良いなぁ。
「あんのクソ王子~〜!!」
怒りに任せて、混じりっけない純白の高級紙で書かれた手紙をビリビリに破き、思いっきり踏みつける。
そうしてやりたい人物は、今頃ニヤニヤ笑いながら優雅にお茶でも楽しんでいるに違いない。
そう思うと、さらにイラついて踏みつけた紙をグリグリと踏みにじった。
「す、すみませんクローディア様!あ、主が失礼を…っ!!」
大きな栗色のおめめに涙いっぱい溜めて、フルフルと震えながら謝るイシュルに、少し怒気が下がる。
そうだ、落ち着けエリス。小動物を怯えさせてどうする。
深呼吸をして気持ちを調え、淑やかに穏やかにイシュルに向かって微笑む。
「ごめんなさいイシュル。私としたことが、少し取り乱してしまいましたわ」
「えっ!あれで少しなんですか!?」
主君が主君なら従者も従者だな!このやろー!!
主君と違って悪気がないぶん、イシュルの方が質が悪い。
ピシリッと音を立ててヒビが入ったであろう笑顔を何とか繕い、小さく咳払いをしてから、怒気が含まれないよう気を付けて、ゆっくりと口を開く。
「それは良いとして……。イシュル、残念ですが私これから大切な用事がありまして、今日はお伺い出来ないのです。ですから………」
「お嬢様、街へのお忍びを“大切な用事”とは言いませんわ」
「私にとっては大切な用事なのよ!」
お父様とお兄様が領地視察に行って居ない、今がチャンスなのに!!
これを逃したら、次に街へ出れるのは何ヵ月後になるかわからない。
「だから、殿下にはお断りをー」
「それで許すと思ってる?まさか第一王子の呼び出しをお忍び以下とか言わないよね、エリス?」
不意に響いた絶対零度の声音に、私は完全に固まった。
どうして、まさか、そんな、なんでー、そんなとりとめのない言葉だけが脳内でぐるぐると回り続ける。
「殿下、せめてノックくらいして下さい」
「あぁ、すまないセリーヌ。どうやら立て込んでいるみたいだったので、勝手に入らせて貰ったよ」
「殿下!いらっしゃるなら僕が手紙を届けることなかったじゃないですか!!」
頬を膨らませてプリプリ怒るイシュルの頭を宥めるように軽く叩き、未だ固まったまま動けない私の前に歩を進める。
そしてー。
「ーーっ殿下!何をっ!」
突然ひょいっと肩に担がれて、流石にフリーズが溶けた私は足をバタつかせて抗議の声をあげた。
「降ろして下さい!ていうか肩に担ぐとか、私は米俵ですか!?王子なら王子らしくお姫様抱っこの一つでもしてみたらどうですの!?」
「結婚適齢期の可憐な夢みる乙女になら喜んでするけど、古米の米俵にはこれで充分でしょ。駄々こねてないで、さっさと行くよ」
こちらの意見をガン無視してスタスタと歩き出す王子に、慌てて暴れるがちっとも揺るがない。
「ーっ誰が古米の米俵よ!そこまで重くないわよバカ!!降ろせっ、降ろしなさい!!セリーヌっ、助けて!!」
目があったセリーヌに助けを求めて手を伸ばしたが、セリーヌはにっこり笑ってハンカチを振った。
「いってらっしゃいませお嬢様。骨は拾って差し上げますわ」
「薄情ものーー!!」