2
中央国は北方の深い森の中にある三つの国の事で、大陸の中心的国家の敬称である。
ここから全大陸に続く街道があり、貿易や人々の生活に大きな広がりが出来るようになった。
これまで北方では争いが絶えず、幾つもの国が出来ては栄枯盛衰を繰り返してきた。
北方の群雄割拠の時代を乗り越え、いまだに国家として成り立っている国が中央国の一つ、エスタル王国だけである。
エスタル王国、広大な領土と古い歴史を持つこの国を、挟むかのように北のサスターク国、南のアルステル国がある。
南北の国には王の近親者が治め、エスタル王国を外敵から守る形で国が築かれている。
それゆえ中央国は三つの国を一つの国家として見なされている。
中央国南側の国、アルステル。
国の南半分が農地であり、四季の気候が作物に様々な食べ物を育み、農業生産が国庫の基盤となっており、税制も穀物、作物で支払う事も出来るぐらい農業は重要な産業であった。
北側の城と貴族街は城壁で囲まれており、南側の城壁に沿ってムスト川が町を横断するように流れ、防衛を強固なものにしていた。
希少物収集にも大いに力を入れており、国や個人からの依頼で各地の鉱物、手に入りにくい物を収集させる依頼所には多くの傭兵、金儲けで人が集まってくる。
報酬もそれぞれで、希少な物であるほど高額になる為、各地から一攫千金を狙い多くのギルドや傭兵がこの国にやってくる。
また戦争時には傭兵部隊として入隊する事も出来、武功を上げれば名声、地位を与えられる事もあるが、今のところ切迫した時代ではない為そういう公募はない。
S字に流れるムスト川を渡った所に南の町ムールがあり、その町の酒場兼宿屋にマール達一行がいた。
「トムを寝かせてきたわ、二、三日は養生させないと」
二階からマルがミエールと一緒に降りてきて皆に言う。
「毒は弱いものだったみたいで良かったわ、毒消しの薬を飲ませたから安静にしていれば治ると思うけど、肩の傷が治るまではしばらく安静ね」
続いてミエールが席に着きながら皆に伝えた。
酒場の一席にフィッシング、ミサ、ミエールと対面にはマル、スグリが向い合って座っている。
皆それぞれ風呂に入り平服に着替えた楽な格好をしていた。
マルの本名はロンド・マール十九歳、ギルド名ラビットポンズのギルドマスターであり、ファンガス・トム、アルコット・スーグリもこのメンバーだった。
マールは革の装備から宿屋の貸し服を着ていて、桃色の一枚服に腰にも桃色の帯を巻いて服を留めていた。
長身に淡い桃色は美しく見映えさせ、長い輝く灰色の髪を背に流していた。
豊満な胸と腰つきは見る者を魅了させ、大斧を振る腕の筋肉は筋骨隆々ではなく無駄のない女性らしい肉付きをしている。
小顔で整った輪郭に青く大きな瞳、筋の通った鼻は容姿端麗である。
左隣に座っているスーグリはマールより一つ歳下で、小柄な身体に短い癖毛の茶色い髪、小さい顔にくりっとした大きな黒い目がよく動くのが特徴で、何を着ても可愛くいささか子供っぽい服装に見えてしまうのが本人にとっては悩みの種だ。
今も上が赤い布地に下は白く長いスカートを履いていて、本人はいたく大人っぽいと思っているようだが、こういう感性が子供っぽいと云われる所以だろう。
こうして二人が並んで座っていると、これが先程の戦闘のように血しぶきの中で戦っていた者とは到底見えなかった。
代わってマールの対面にいるフィッシュこと、名をジュエル・フィッシングは、ゆったりとしたチェニックにボタンを二つ外して胸元を開けて、赤茶色の髪は後ろで束ねていた。
端正な顔立ちだったが際立ったのはその目の色であった。
髪と同様に赤茶色の瞳は明かりの加減で真っ赤にも見え、今いる酒場のようなランタンだけの薄暗い場所では瞳の中に炎が揺らめいているようにも見える。
フィッシングが率いるギルド名はラムズ・ラフィン。
ミサことステイ・ミサエルとロイ・ミエールがメンバーであり、この他にもダイラス・オット、ミナド・バルートがいる。
フィッシングの右隣に座っているミサエルとミエールは、ローブを着ていて顔だけを出していたので中の服装は見えなかったが、共に魔導を主としていた為、あまり私服を表立って見せる事はせず、首元から見えるきらきらと光る首飾りが隙間から見えているぐらいだった。
ミサエルは少し頬のこけた精悍な顔に黒く鋭い眼光をしているが、黒い髪はぼさぼさで額を紐で結んでおり、紐の中央には小さな雫のような石が付いている。
ミエールに関しては大人びた感じの女性で、歳もマールよりは上で姉のような存在であった。
すっきりした面立ちに品のある引き締まった唇は艶やかで色っぽく、黒髪のセミロングに黒い瞳で優しそうな目つきをしていた。
マールとフィッシングのギルドは愛称で呼び合うぐらい仲の良いギルドで、何か大きな依頼を持ってきた時など一緒に任務をこなしたり、私生活でも買い物や遊んだりもするほど仲が良い。
「まずは皆ありがとう、おかげで助かったわ、あんな所でトカゲさんに会うなんて思ってもみなかったわ」
マールがフィッシング達に礼を言った。
「いや……、俺隊も偶然同じ方向に向かってたんだぜ、もしマル達が先に行ってなかったら俺達が出会ってただろうしな、それよか何処に向かってたんだ? 俺達はまぁ、ベル山の手前の見捨てられた墓場にいるグールでも狩りに行こうかと旅をしてたんだ」
と、リザードマンにさん付けするマールに何か言いたげだったが、フィッシングは何も言わず自分達の目的を伝えた。
「私達はベル山の南に流れる川に向かったのよ、依頼所で見つけた竜鉱石の依頼を受けてたの、それであの村で一泊して装備を整えようと思ってたんだけど、あんな所にトカゲさんがいると思わなかったから秘薬も足りなくなったのよ、本当に沢山いたわねぇ」
「あははっマルちゃん、戦闘の時以外はほんとにのほほんとしてるわね」
あっけらかんと言うマールを見て、ミエールが笑った。
「本当ですよね……マルさんの戦闘中の顔は怖いのに……」
スーグリもクスクスと笑いながら返してきた。
「それよりもあのトカゲ共だが、なぜあんな場所にいたんだろうな、しかもあんなに沢山……あいつらはもっと南の暖かいとこにいるはずだ、どうやってあそこまで来たのか気になるな」
ミサエルが話題を変えるため口を挟んできて、卓に出された飲み物を一口飲むと話を続けた。
「あそこに来るには中央国はもとより西は沿岸州があるし、南には険しい山岳地帯だ、山を登って森の中の小さな村を襲いに来ましたってわけでもないだろうし、町の中を堂々と行進して来られるわけはないよな、そんな事だったら今頃大騒ぎで警備兵が動いてるだろう」
「誰かが手引きしたとしたら、どうだろうな」
フィッシングが合間に入ってぼそりと答えると、
「それがまぁ今の所妥当な予想だが、問題はあんなに多くの野獣どもをどうやって連れてきたかだぜ、あれほど大量となるとどんなに静かにしてても連れて来るのは至難の業だ、それに村に着いた時もそういった不審な奴らは見なかったぞ」
ミサエルは言うと、皆が他に何か原因がないか考え込んだ。
「じゃあ元から住んでいたって事はない?」
ミエールが間を埋めようと答えるが、フィッシングがにやりと笑って、
「いやそれはねぇよ、山岳地帯はかなり雪が積もるんだぜ、奴らは越冬なんて出来やしねえ、餌になるような物もねぇ場所であんなに多く繁殖出来るわけねぇよ……まぁあんだけ広い大森林地帯じゃ絶対とはいえねぇけどよ」
フィッシングがミエールに教えてあげる。
「北の方もないわね、ゾンビさんやグールさん、後は殆ど伝説になってるけど高位の魔法使いのゾンビさんがいるらしいけど、北の奥は死と戯れる土地って云われるだけあって生き物がいればすぐ寄ってきて食べられちゃうから」
マールが付け加えて説明した。
「高位の魔法使いって……なんです?」
と、スーグリが聞いてきた。
マールが飲み物を一口飲み一息つくと、顔をスーグリに近付けた。
「その昔、ベル山の北にあった国が滅んだ時、そこで死んだ人々がゾンビになって溢れ返っていたんですって、そこに当時、力のある魔道士が一人でそれらを退治しに向かったんだけど、一国のゾンビを相手にするには余りにも多すぎたのね、逆に殺されてしまい自分もゾンビの仲間になったそうよ、しかも力があった分、ゾンビになっても魔法を使い襲って来るという厄介な存在になったらしいのよ、だから北の奥の地にいけば帰って来られない死と戯れる土地になったわけ、魚さん達が行こうとしてた所はその手前の見捨てられた墓場って所よ」
マールが低くおどろおどろしい声で語ると、
「おおっ……そんなのがいるんですか、どんな魔法使うのか知りたいです」
目を輝かせながらスーグリが言った。
「あら、興味があるの?」
怖がらないスーグリに興醒めしたようだったが、
「一応ありますよ、これでも少しは魔法を使えるように努力はしてるんですから」
スーグリが少しふくれっ面で答えた。
「でもあなた長槍使ってるわね、それだと魔法の効果が薄くなるけど……魔道士になりたいの?」
「だって自分の属性を知ったのはこの間の適正検査で知ったばかりですよ、もっと前に知ってたら今頃は……」
ちらりとミサエルとミエールに目を移す。
「その魔導士がどんな魔法を使うのかは私も知らないけど、そうね……じゃあ魔法の基本から教えましょうか」
「おいおい、大丈夫かマル」
一人どうやってリザードマンがやって来たのかを考え込んでいたミサエルが、遠い目でマールを見つめながら聞いてきた。
「むう……なによミサ、これでも一応魔道は修めてるんですからね」
顔をスーグリに向けていたマールが流し目でミサエルを見た。
「魔法ってそもそも出来て日も浅く、まだまだ解明されていない謎の部分が多いのよ、だから何でも出来る万能な行いって代物でもないわ、それを理解していないと魔法の力に取り憑かれて廃人になったなんて人も居るぐらいだから気をつけてね」
「はい」
さらに一口飲んで本題にはいる。
「こほん、それじゃあこの世界の魔法には大系統が六つと他に一つの魔法の計七つあるの、火、水、土、風、光、闇の六つの属性と、これ以外に無属性があるのよ」
うんうんとスーグリが頷く。
「魔道を修めたい人はまずその人の特性、気質を知る事なのよ、適正試験で合格する人は六つの内二つが反応するけど、でも中には反応しない人や、反応した二つが相性の悪いものだったらその時点で魔法使いは諦めなさいって事、そういう人は剣術の道に進む事が多いわ、これは人の良い悪しじゃなくて、その人の気質の問題であってどんなに力が強かろうと関係ないの」
「相性の悪いのって何があります?」
「簡単にいうと相反する属性、混じり合いにくい性質、例えば光と闇なんてすぐに思いつくわね、影を照らす光と、光をむしばむ闇って具合にお互いの魔法効果を消し合う属性になれば、どんなに魔力があっても自ら魔法を打ち消してしまって威力がないのよ、他には火と水もね、逆に相性の良い属性だと水と光、火と風なんかは効果が上がるのよ」
「ふむふむ、なるほど」
分かった様子で感心したようにスーグリが答える。
「魔法はね、属性の魔法が全て使えるわけでもないの、精霊を召喚するには土の属性を持っている事が必須だし、炎の柱なんかは火と風が必要なのね、だから一つの属性だけだと使える魔法も限られるけど、相性の良いもう一つの属性が使えると上位の魔法も使えるわけよ、無属性についてはどれにも作用されない魔法、治癒や移動に関してはこれに当たり、魔道士なら基本の習得技術になるわ」
一息ついて飲み物を口に運ぶが、飲み物が空になっていたのに気付いて店主に注文をすると話を続けた。
「次は秘薬についてね、魔法は魔力を利用するのだけれど、本人の魔力だけだと直ぐに魔力が枯渇してしまうからそれを秘薬で補うの、秘薬はそれぞれの属性の魔力が封じ込められているからその人の属性にあった秘薬を持つ事、秘薬は木の実だったり、木の枝だったり自然界でなる植物、鉱物に魔力が蓄積されていて、それを触媒として使ってるの、自分の使う魔法に使用する秘薬の種類と量を選ぶ際、秘薬一つ一つはそんなに重くはないけど、長時間の戦闘だと使用する量もかなりな物になるからと袋一杯に持っていると、長旅にも戦闘でも邪魔になるからよく考えないといけないわよ」
フィッシング達三人はじっとマールの話を聞き入っていた。
スーグリもマールの一枚服の裾を掴んで、食い入るように目を大きくして見つめている。
「それと装備についてよ、ミサやミエールを見ればわかると思うけど、魔道を主にしてる人達は皆ローブみたいな布や麻系の服を着ていて、色んな所に宝石や護符を身につけているわね、これも魔力を高めてくれたり、身の安全を願うお守りだったりするのだけれど、杖やワンドといった魔道士が使う武器に魔力が備わっていて、これも使用する本人が持つ魔力の補助的役割を果たしてくれるのね、中には強い魔力が秘められている魔樹という木から作られた杖などはそれだけで魔法の効果は凄い物になるわ、魔法とは魔力と属性の混じり合わせによって発生する自然現象って事なのよ」
マールが新しく運ばれてきた飲み物に口を付ける。
「あっ、あと身に付ける物で金属物は魔力を散らす働きがあるから、剣や鉄鎧はなるべく付けない方がいいのよ、貴方だってトムの治療に時間が掛かったでしょ」
思い出したように付け加えると、ここでスグリが首を傾げた。
「……あれえ? でもマルさんもミサさんも斧や短剣使ってますよね、なんで?」
スーグリが疑問に思った事を口にした。
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれたわね、ミサのは知らないけれど、私の斧は特別に作って貰ったものよ、刃の部分だけに鉄を使っていて、他の部分は金属じゃないのよ、柄の部分は竜の骨だし一般の斧と違って刃の部分は薄く作ってあるから結構軽く出来てるわ、それでも魔法の威力は落ちてるけどね、あれ作るのにかなりの金額取られたわね……」
ため息を漏らしながら肩をを落とす。
「俺のは普通の短剣だが、威力が落ちる分を補うために剣自体に魔法を纏わせて付加効果をつけてるんだ、昔、短剣でよく遊んでた癖で手放せなくてな」
にやりとミサエルが笑うのを、スーグリが気持ち悪そうに顔を引き攣らせて、
「むう、ミサさんの笑顔がなんだか怖いですけど、二人ともちゃんと考えて使ってるんですね」
と、スーグリが感心していた。
「でも、マルちゃんの魔法だけど、威力が落ちてるって言うけどそれであの威力なのが不思議よね」
ミエールが言うと、
「ああ俺もそれはいつも思うな、いつも武器を持ってるから魔法のみで戦ってる所を見た事はねぇんだが……もし魔法単独で使ったらどんだけの威力なんだよ、何か別に細工でもしてるのか?」
フィッシングも不思議そうに聞いてくるが、
「何もしてないわよ」
きっぱりとマールが答える。
「私は普通に使ってるだけで何も特別な事はしてないわよ、身に付けてる魔石だって前にミエールと買いに行った耳飾りぐらいだもん」
そう言って耳に手を当てると耳飾りを見せつけた、変哲もない菱形の型枠に緑の宝石が嵌め込まれたものだった。
「いや、何も特別な物がないなら余計におかしいよなぁ……」
フィッシングがつっこむとマールは突然泣き出してスーグリに飛びついた。
「知らない知らない……うええん、お魚さんがいじめるよスグリ」
ぎゅとスーグリの胸に顔を埋め、頭でぐりぐりと擦り付けて、スーグリは苦笑いをしながらマールの頭を撫でていた。
フィッシングに周りから熱い視線が注がれる。
「はう……す、すまん、悪かったなマル」
皆の視線に我慢が出来ずにフィッシングが素直に謝った。
顔を埋めたままのマールがそろりと顔を上げると、クスリと笑っている。
「……嘘泣きかよ、わかってたが……まったく」
いつものやり取りでやれやれといった感じで、フィッシングは馬鹿馬鹿しくて酒を呷った。
「ふふっごめんね、でも本当に知らないわ、私は普通に魔法を使ってるだけよ」
「……そうか」
フィッシングが一息に杯を空けた。
「最後に魔道ってもの自体についてだけど、この世に魔法文化が出来始めてまだ数百年、主に戦争や争いで使われてきたけれど、魔法を使う人は皆そういう目的で覚えてるわけじゃないって事よ、生活で火を扱うのに使用したり、畑に水を撒くのに使用したりと利用目的は多々あるの、魔道は元々自然の一部、利用させて貰ってると感謝しないといけないわよ、間違った使用はしないこと」
「はぁい」
スーグリが元気よく返事をしマールも笑顔で応えた。
「それより皆お腹空かないの……何か食べましょうよ、飲み物だけじゃお腹が膨れないし、朝から何も食べてないのよ」
マールがお腹を押さえて空腹を訴える。
夜も深く、夕刻の戦闘と講釈ですっかり時間を取られてしまい、マールに言われるまで全員そう言えば食べてなかったなと忘れていたようだった。
「そうね、私達も食べてなかったわ、何か頼みましょう」
ミエールが同意すると店主を呼んだ。
「私はうさぎ肉のあんかけ炒めをお願い」
すかさずマールが注文表も見ずに言う。
「マルちゃんはうさぎ肉の野菜あんかけが本当に好きね」
ミエールが注文表を見ながら笑う。
「ふふっ、野菜も乗ってるしあんのとろとろ感が良いのよね、それに何といってもうさぎさんの肉がとても美味しいわ」
「ですよねぇ、私も大好きです」
マールとスーグリが顔を合わせて笑う。
他の者もそれぞれの注文をし、マールがトムにも何か食べさせないといけないというので、軽いスープとパンを後で持って行くからと注文をした。
食事が来るまでの間、ミサエルが明日からについて話を切り出した。
「明日、一応国境警備隊にあの村のことを連絡しにいってくるよ、まだ残ってるリザードマンがいるかもしれないしな、それと家に戻ってオトさんとバルが帰ってきたら今日の事を教えてやんないとな、マルの方もデビに連絡してやんなくて良いのか?」
「じゃあ私が……ご飯食べたら一度家に戻りますね、マルさんはトムさんの看病してあげて下さい」
とマールが言いかけるより、スーグリが先に答えた。
「あらいいの? 折角広い部屋取ってあるのにもったいないわ」
「うん、デビさんにも早く教えてあげたいから……私の代わりにミエールさん、マルさんと泊まって下さい」
「うーん、どうしようかしら」
ミエールが考えてると、
「良いじゃねえか、俺も自分の部屋取ってるし明日一緒に帰れば、今日はおめえの好きな酒がたらふく飲めるんだぜ」
フィッシングは顔を赤らめながらけらけら笑う。
「酒好きはあんたでしょう……そうねぇじゃあ私も一緒に泊まろうかな、あはは」
「そんじゃあフィッシュ、明日帰ったら皆の馬も用意しとく、村に捨ててきたからな」
ミサエルがそう言うと卓に食事が運ばれてきて、一気に香しい匂いがお腹を活動的にさせる。
「あぁ頼む」
短くフィッシングが返事をし、皆嬉しそうに食事に手をつけ始めた。
「で、スグリはいったい何の属性と出たんだ?」
と、フィッシングが食べながらスーグリに聞いてきた。
「んと、水と土ですよ」
「ほう、なかなか良いんじゃねえか、水は少ないし貴重だぜ」
「そうなんですか……」
「本当に魔法を覚える気があるなら、ミサやミエールについて修行を受ければいいんじゃない? 二人なら教えるの上手だし安心して預けられるわ」
マールがそう言うと、
「おおっ、魔法をちゃんと覚えられれば、マルさんを倒せるかもしれないですね」
鼻息荒くスーグリが答える。
「ふふんっ、そんなに簡単には倒されないわよ、まだ貴方に見せてない魔法だってあるのよ、貴方に教えた魔法だって基本の魔法だけなんだから」
「むぅ、打倒マルさん、ふんふんっ」
「ふふっ、いつでも掛かってきなさいよっと」
マールがスグリをぎゅっと抱き寄せる。
スーグリの顔がマルの胸に埋もれ、必死の形相でじたばたと藻掻く、押さえられた服からマールの胸の谷間が見え隠れすると、
「おおっ……」
と、フィッシングとミサエルが同時に声を出して凝視していた。
ミサエルは持っているスプーンを口元で止めマールの胸に見入っていると、隣から鉄拳が飛んできた。
「ぐっ……」
視界がゆがむ。
「こらっ、ミサ見るな、フィッシュさんも見るなぁ」
ミエールの冷ややかな声が飛ぶ。
「……何で俺だけなんだ」
頭を押さえるミサエルが叫んだ。
「煩いわよ静かに食べなさい、マルちゃん見られてるわよ気をつけないと駄目よ」
「あら……」
胸を隠すのに手を放したマールから解放されたスーグリは息を切らしていた。
「マルさんの胸は凶器です」
スーグリがマールの胸を叩いて反抗した。
「スグリちゃん、魔法の修行したかったらいつでも来て良いのよ、私がマルちゃんより強い魔道士に育ててあげるわ」
「はい、でもその前にトムさんに了解を得ないといけないかな、折角、槍術を教えて貰ったんだし申し訳がないですから」
「ちゃんと了承を得てからでいいからね」
「はい、有り難うございます」
にこりと小さな口角を伸ばし、白い歯を見せてスグリが返事をした。
その後もわいわいと騒ぎながら時間を過ごしていき、食事を済ませたミサエルとスーグリが店を出て帰って行った。