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異世界交流学園の臨時講師  作者: 福耳 田助
1章.1年目1月:転機の出会い
6/25

5.連携・化物・ギリギリ

再投稿


 またも雷堂の姿が消える。


「くっ!」


 周りを素早く見回すも、影すら捉えられない。


(やっぱりこれは、魔法や特殊能力の類なんかじゃない! ただ…)


 ガキィン!


「ぐぅっ…!」

(ただ、あまりにも…速過ぎる!)


 目にも映らぬほどの超スピード、それが先の三人を瞬く間に打ち伏せて見せたモノの正体であった。

 頸部を狙う雷堂の一撃を辛うじて止めて見せたリーンベルだが、これは直感混じりの偶然に近い。

 もう一度同じことをやれと言われても、余程の幸運でもない限り不可能だろう。


「ほう」


 感心したような声を漏らすと同時、防がれ弾かれた勢いそのままに後ろへと飛び退る雷堂。

 雷堂の力を考えれば押し切ることも出来るのだろうが、どうやら攻撃を防がれた場合それ以上のゴリ押しや追撃をする気はないらしい。

 おそらくはこれも、“模擬戦”であるが故の手加減なのだろう。

 しかしそこに…。


「はあぁぁぁーーーーー!!」

「む・・・」


 後ろへ下がる雷堂に対し、追い掛けるように宗昭が大上段から切りかかる。

 雷堂は当然のように回避、即座に反撃を叩きこもうと拳を握り締めるが、そこへ更なる一撃が放たれ、その攻撃は不発に終わった。


「しっ!」

「っと!」


 それは右側面からのティアの槍による一撃、かなりの鋭さを持った“突き”だった。

 しかしそれもまた僅かに身を反らしただけであっさりと躱され、そればかりか腕が伸びきったタイミングで柄を掴まれ体勢を崩される。


「≪フレイムアロー≫!」

「うおっ!」


 そこに絶妙のタイミングでリーンベルの魔法が放たれ、またも反撃の機を逃す。

 ≪フレイムアロー≫は極初歩の火魔法だが、発動前後のスピードがかなり速く使い勝手が良い為、多用する術者は多い。

 牽制の為の魔法としては最善の選択であろう。

 事実連続で放たれた≪フレイムアロー≫により、一瞬ではあるが体勢を崩した雷堂に、左右から、そして一拍遅れて正面からの同時攻撃が襲い掛かる。


「せりゃあぁーーーー!!」

「ふぅっ…! はっ!!」

「はぁっ!」


 宗昭の刀が、ティアの槍が、リーンベルのエストックが、正面左右から間断なく繰り出される。

 並の使い手ならば、間違いなく防ぐ事も躱す事も不可能な三人がかりの猛攻。

 …しかしそれすらも、雷堂には通じない。


「うそ…だろ…?」


 それを呟いたのは誰だったのか、それは分からないが、おそらくは会場の誰もが同じ事を思っただろう。

 雷堂はその場から一歩も動かなかった。

 動かないままに、全ての攻撃を防いでいた。

 両手と僅かな上体の動き、ただそれだけで。


「付け焼き刃にしては中々の連携だな」

「くっ…!」


 あらゆる攻撃を、躱し、逸らし、捌き、受け流す。

 息一つ乱さぬ雷堂に対し、猛烈な勢いでの連続攻撃を続ける三人は既に息が上がり始めていた。

 それでも彼らは攻撃の手を緩めない。

 手を止めた瞬間、手痛い反撃が来ることは分かっているから。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


「かっ…はぁっ…!」


 しかしとうとうその時は訪れる。

 限界に達したリーンベルの呼吸が大きく乱れ、それを機に三人の連携のタイミングに狂いが生じる。

 そしてそんな絶好の隙を見逃すような男ではない。


「ほい、捕まえた」

「しまっ…!」


 胴体を狙ったティアの槍を、高く上げた足の膝裏で挟み込むように止め、残る二人の剣は素手で握り止めた。

 片足を上げた不安定な体勢にも拘らず、抑えられた武器はまるで縫い止められたようにびくともしない。

 更にはそのまま…。


「…ふんっ!!」

「なっ!」

「…っ!」

「きゃあっ!」


 片足の力のみで体を捩じるように動かし、武器から手を離さずにいた三人を振り回す。

 三人もこれには堪らず、飛ばされるように後ろに下がるも、そのまま素早く集合する。


 ガラ、ガラガラン


 持ち手の居なくなった武器はそのまま床に落ちて大きな音を立てる。

 その音が、静まり返ったフィールド内に響き渡った。


「まぁまぁの攻撃だな」

「…」

(分かってはいたつもりだけど、桁が違う…! 強すぎる!)


 改めて再認識させられる。

 この男が、“化物”だと。


(本当に…こんな相手に、あの策が通じるの…?)

「おい」

「あ…」

「今更弱気になるな。 どのみち新たに策を立てる猶予が無い以上、やるしかないんだ」

「そう、ですね。 自分で立てた策なのだから、まず私が自信を持たないと」

「ん、その調子」


 二人のチームメイトからの言葉で、萎えかけた心を何とか立て直すリーンベル。


「で? まさかもう終わりとは言わないよな?」

「当然です!」


 強がるように言い放ったのはリーンベルだが、他の二人も同調するように無手のまま構える。

 その姿を見て満足気に笑う雷堂。


「そうこなくっちゃなぁ。 さっき何やら策を立ててたようだし、動いてない二人も何か狙ってるようだし、次は何を見せてくれるのか楽しみだ」

「…(まぁ、この状況下で動きを見せない人間が二人もいれば、何か狙ってるっていうのはまる分かりよね)」


 先程から朱音とロドリオは殆ど動いていない。

 無論警戒はしているが、攻撃には一切加わっていないのだ。

 ロドリオはずっと雷堂の隙を窺っているし、朱音はその後ろで《魔力》を練り続けている。

 何かを狙っているのは明らか、しかもそれを隠す気も無い。


(そもそも経験が違うのだから、戦いの駆け引きだって向こうの方が上手。 なら下手に隠そうとして動きを悪くするより、分かるように動いて警戒してもらった方が良い)


 そう判断したリーンベルだが、実際それは図に当たっている。

 雷堂は一見攻撃を加えてくる三人にのみ集中しているかのように見えていたが、動きを見せなかった二人にもいくらかの意識を割き、その動きを注視していた。

 そのため極僅か、微かな差ではあるが雷堂の動きのキレは若干落ちていたのだ。

 そのことが、三人の猛攻を助ける一因となっていたのは間違いない。


「じゃあ、続けようか」


 雷堂がその言葉と同時に一歩踏み出そうとした瞬間。


「っ!?」


 背後で発生した、途轍もない“脅威”の気配に、思わず振り返る。

 そこで見たのは、全速力で駆け寄ってくるロドリオと、巨大な、直径3mは優に超える火球を練り上げる朱音の姿。

 しかも魔法としては既に完成しているそれに、より《魔力》を注ぎ続けることで更に威力を高め続けている。


(あれはやばい!)


 まともに受ければ、間違いなく自分でもタダでは済まない。

 即座にそう判断し優先順位を変更、まず朱音を仕留めるべく身を翻そうとするが…。


「≪フレイムアロー≫!」

「「≪エナジーブリット≫!」」


 ≪エナジーブリット≫は属性を持たない最下級の攻撃魔法。

 多少なり魔力の扱い方を知っていれば、今宗昭やティアが使って見せたように魔法の素人でも扱える。

 無論最下級魔法である事、使っているのが魔法素人である事の二点を鑑みれば、その威力はお察しである。

 小型ミサイルの直撃ですら無傷で耐える雷堂の防御力を抜く事は当然出来ない。

 それでもタイミングを合わせ、同時に着弾させれば行動を阻害するくらいは出来る。


 ドガガッ!


「ぐっ!?」


 三発の魔法がそれぞれ頭と両足に一発ずつ命中、動き出す瞬間を狙われ、流石の雷堂も大きくバランスを崩した。

 足を止めたのは一瞬、直撃を受けてなお倒れもせずすぐさま立て直すが、その数秒こそが彼らが欲しかった時間。

 雷堂に先んじて動き出していたロドリオは、既にすぐ間近。

 レスリングの使い手がここまで接敵してやる事など一つしかない。


 ガシィ!


「捕まえ、た!!」

「ぬぅ…!」


 絞め殺さんばかりに全力の力を込めた、腕ごと巻き込む背後からの“ベア・ハッグ”。

 学生達は最初からずっとこの状態を狙っていたのだ。


「この…!」

「させん!!」


 ガン!!


「なに…!」

「宗昭君!」


 咄嗟に振り解こうとしたした雷堂を、これまた抑えつけるように宗昭が刀を押し付ける。

 両腕に渾身の力を籠め、刀の刃で上から体重をかけて押し切るように押し込む。

 刃を押し当てているにもかかわらず、服すらも切れない時点で驚愕だが、今はいい。

 後少し、あとほんの十数秒抑える事さえ出来れば…作戦は成功する。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 リーンベルの作戦とは、“ロドリオが雷堂を抑え込み、そこに朱音の最大威力の魔法を叩き込む”というもの。

 言ってしまえばそれだけの単純な作戦だが、ここで一つの問題が生じる。

 即ち“どうやって雷堂を捕まえるのか?”である。


 正攻法で攻めても到底捕まえられるとは思えない。

 普通なら攻防の中で隙を見出すものだが、それすらも出来るとは思えない。

 そもそも彼らには雷堂の移動を捉える事さえ出来ないのだから。


 ならばどうするのか?


 隙を作る一番の方法は驚かせること。

 しかし多くの実戦を経験してきているであろう雷堂が、ちょっとやそっとで戦闘中に隙を作る程の驚きを見せるとは考えずらい。

 ここでリーンベルはある事に思い至る。

 実戦経験が多い、つまり様々な敵と相対してきたという事。

 その経験から、自分達の実力は既にある程度見切られているのではないか?

 ならばその想定を上回る“モノ”を見せれば動揺を誘えるのではないか、と。

 思い付くのは親友たる朱音の魔法。

 朱音が実践レベルで使えるのは中級魔法までだが、上級魔法が使えない訳ではない。

 かなりの時間は掛かるが、逆を言えば時間さえ掛ければ朱音は上級魔法、それも最上級に近いものまで行使できる。


 ここに至ってリーンベルの策は形になる。

 自身とティア、宗昭の三人で攻撃し気を引きつつ時間を稼ぐ。

 その間に朱音は最大威力の魔法を練り上げ、ロドリオは可能であれば行動に移すべく隙を窺いながら朱音の護衛。

 魔法が完成すれば間違いなく雷堂は気付くので、そこを威力よりも速さ重視の魔法で行動を阻害する。(万が一気付かなければ声などで誘導する)

 動きを止めたところをロドリオが抑え込み、朱音の魔法を叩き込む。


 これがリーンベルの策の全体像である。


 …穴が多いのは理解している。

 ロドリオの力で抑えきれるかは分からないし、朱音の魔法を見たところで実際に隙が出来るかも分からない。

 そもそも三人がかりで時間稼ぎすら出来ない可能性もある。

 そうなったら“詰み”だ。

 本当に穴だらけだ。

 それでもリーンベルが思い付く限りでは、この作戦が一番成功率が高いように思う。

 だからこそ提案したし、実行にも移した。

 

 事実ここまでは上手くいっている。

 ギリギリの綱渡り状態ながら何とか時間稼ぎは成功、魔法も完成し、雷堂はロドリオと、予定外ではあるが宗昭が抑え込んでいる。

 あとは仕上げだけ。

 学生達の作戦もいよいよ大詰めである———





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