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異世界交流学園の臨時講師  作者: 福耳 田助
2章.1年目4月:授業始まる
24/25

18.想定外・組手・三つの理由

若干短く微妙な位置で切れていますが、少し投稿に間が空いたのと、これ以上切りの良い所までやるとさらにかかりそうなので、ここで投稿します。

後一話、今月中に何とか…


 戦闘学部学部棟通常訓練室―――


「「「セイッ!」」」


 今日も訓練室には八人の掛け声が響く。

 当然雷堂と晶(間兄妹)の姿もあり、型をなぞる八人に細かい部分を指摘し、都度修正させている。

 雷堂は《流動》の流れを、晶は型の動きを、それぞれ分担して指導している。


「「「ハッ!」」」

「シルフィ、下半身の《生命力(オーラ)》が若干乱れ始めてる、もっと全身に意識を廻せ。 二コラ、《流動》のポイントに集中し過ぎだ。 他の部分の《生命力(オーラ)》が薄くなりすぎてる。 ロドリオは逆、もっと集中させろ」

「「「はい!」」」


「朱音、脇はもっとコンパクトに、肘をわき腹から離さないように。 ヴォルフは腕だけを意識し過ぎです。 突きの時は腕だけではなく、足腰を起点とした全身の動きを意識して下さい。 リーン、型を正確に丁寧になぞろうとしているのは分かりますが、それだけではだめです。 その型が何を目的とした何の為の型なのか、それによって同じ動きでも力を込めるべき場所は変わります。 一つ一つの動作に対して目的意識を持って下さい」

「「はい!」」「おう!」


 ゴン!


「訓練中の返事は“はい”」

「…ハイ…」


 実は雷堂よりも晶の方が手が出るタイプだったりする。

 因みに殴られた回数はヴォルフが断トツで多い。

 理由も大体似たような物で、今の注意(物理)も毎日一回は必ず受けている。

 やはりちょっとアホなのだろう。


 閑話休題(それはさておき)


(もう目標達成、か。 思っていたより大分成長が早い)


 授業開始よりすでに三週間、現在四月半ばを過ぎ既に終盤に差し掛かっている。

 三週間前、この一月(ひとつき)の目標として《流動》を併用した型稽古を、《流動》無しで行う時と同じ速度・練度で出来るようになる事と設定していた。

 しかし、なんと彼らは既にこの目標をクリアしてしまった。

 型一巡で凡そ三十分、これを昨日の時点で達成したのだ。

 念の為今日もう一度やらせてみた訳だが、《生命力(オーラ)》操作の甘い部分や、動作の改善点こそ見られるモノの、やはり今日も同程度の時間で終わらせている。


(予定を前倒す必要があるな…)


 雷堂の当初の想定では、目標を達成するまでに掛かる時間は一ヶ月を少し超える程度、と考えていた。

 しかし彼らは雷堂の想定よりも一週間以上、二週間近くも早く達成してしまっている。

 当然その分の予定時間が浮いてしまう訳だから、これを無駄にする手は無いだろう。


(“宿題”の時と言い、今回と言い、想定外の前倒しばかりだな。 …くく、こりゃ思った以上に大した連中だったみたいじゃねーか)


 教え子たちの《生命力(オーラ)》の流れを注視し続けながらも、その顔には楽しげな笑みが浮かんでいた―――


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 昼休みを挟み同日午後、一同の姿は再び訓練室にあった。


「今日から新しい訓練を始める」


 学生達は一瞬きょとんとした後…、


「本当ですか!?」

「よっしゃあ!」

「やっと次の訓練が…」

「何かすごく長かった気がしますね~」


 一斉に歓声を上げた。

 基礎が大事だという事は分かっているし、この三週間も手抜きは一切していない。

 常に真面目に全力で取り組み、だからこそ雷堂の想定をも上回る速度で結果を出すことが出来た。

 が、そこはそれ、若い彼らにはずっと同じ訓練だけ、というのが退屈なモノだったのも事実。

 真面目なリーンベルや宗昭とティア(無口コンビ)でさえ、声こそ上げないモノの嬉し気な様子を見せているのだから、もしもう少し続いていたらダレてしまっていたかもしれない。

 雷堂としても気持ちは分からなくもないので咎めたりはしないが、まだ話は途中である。


 パンパン!


「ほら、まだ話は終わってないぞ。 これから訓練の内容を説明するから、ちゃんと聞け」


 その言葉に全員が口を閉じ居住まいを正す。


「訓練内容は組手、それも、当然《流動》を用いた組手だ」


 告げられた内容にまた空気が浮足立ちかける。

 やはり地味な基礎訓練よりも、組手とは言え対人戦の方が楽しいものだ。

 が、もちろんただの組手である筈も無く。


「素手は大前提として、主なルールは二つ、

 一つ、攻防には必ず《流動》を用いる事。

 一つ、一撃ずつ交互に攻撃と防御を行う事」


 一つ目は当然として、二つ目のルールにはどういう意味があるのか。

 そんな彼らの疑問を察して、と言うよりも始めから教える気だったのだが、直ぐに説明が始められる。


「この組手稽古の目的は幾つかある。 まず一つ目」


 ピッと、指を一本立てる。


「《流動》の自由度を高める事」

「自由度、ってどういう事?」

「一番最初に言っただろ? 全身自由自在に《生命力(オーラ)》を操れるようになってもらう、と。 これはその一環だ」

「…確かに言ってましたね~」

「君らは今日まで只管に同じ型、同じ動き、それに沿った《流動》の使用を繰り返してきた。 これは《流動》の土台作りであり必要な訓練だったが、しかし結果として今の君らの《流動》の流れは固定化されてしまっている。 例えば同じ型を流れだけ逆にして、直ぐに同じレベルで《流動》を使えるか?」

「…無理です」


 少し考えてはみたものの、恐らく無理だろう。

 感覚的にどうにも出来る気がしない。

 応えたのはリーンベルだが、それは全員が同じように感じている。

 いや、出来なくはないのだが、練習は必要だろう、少なくとも直ぐには無理だ。

 書き順を逆にして字を書くような感覚、とでも言おうか。


「そこでこの組手稽古だ。 組手と言うからには当然相手の、つまり“自分以外の誰か”の動きに合わせなければならない。 すると自然型通りの動きをしている訳にはいかなくなる」

「そっか、攻撃と防御を交互に、っていうのはその型の流れを切るためなんだ!」

「それだけって訳じゃないが、それも理由の一つだな」 

「…他にも理由があると?」

「そこは二つ目の目的に絡んでくる。 先に一度まとめると、要はこれまでの型稽古で培ってきた《流動》の流れを敢えてぶつ切りにし、それを必要に応じて自由に組み替えられるようにする事、これが目的の一つ目。 で、二つ目」


 もう一本指が立てられた。


「相手の《流動》の流れを見る事。 分かるか?」


 突然振られた質問に、即座に手を上げたのはティアだった。


「相手の《流動》の流れを見れば、その相手が“どこ”を使って“何を”しようとしているのか分かる」

「その通り、良く分かったな」

「ん」


 雷堂に褒められたティアは、若干のドヤ顔を浮かべ僅かに尻尾がピタピタと床を叩いている。

 同級の七人にもこの四ヶ月ほどの付き合いで分かったことだが、ティアは言われているほどクールでもなく、意外と感情も表情も豊かだ。

 無口は事実だが会話には応じるし、分かりづらくはあるが表情も変わりやすい。

 特に尻尾に表れる反応は顕著だ。

 女性陣でスウィーツを食べに出かけた時などに、機嫌良さげにフリフリと揺れる尻尾はとても愛らしい。

 その尻尾を見て微笑まし気にする周囲を、本人は不思議に思っているのだが。


「相手の《流動》を見切る事が出来れば、次の行動そのものを予測できる。 そうすれば自分もそれに合わせて《流動》を使い、攻撃を完全に防ぐ事も、相手の防御を躱すことも出来る。 ただ勿論フェイントの可能性もあるからそこは留意しておくように」

「「「はい」」」


 唱和した返事を聞いて雷堂は満足そうに頷きつつ、三本目の指を立てる。


「三つ目。 これが一番の理由だが…」


 一番大事な理由。

 そう聞いて学生達の背筋が伸びる。


「《流動》使い同士の戦闘に慣れる事」


 雷堂の顔には真剣な表情が浮かんでいる。


「《流動》使いの戦闘は非常に危険だ。 何しろ多量の《生命力(オーラ)》を込めた強力な一撃を、溜めも何もなく、即座に放って来る。 《流動》を使えない人間なら受けることも出来ず、下手すりゃ即死。 《流動》使いであったとしても、《流動》で受け損ねれば同じ事。 《流動》使いの攻撃を捌くという事は、実は一撃ごとに全て命がけなんだよ」


 ごくり


 誰かが唾を飲み込む音が鳴る。

 《流動》という技術の有用性を知り、だからこそその危険性を理解出来てしまったが故に。


「ふ…」


 直前までとは全く別種の緊張感を持った八人の顔を見て、雷堂はそれまでの、鋭ささえ感じさせるほどの真剣な表情をフッと緩める。

 そこには穏やかな微笑が浮かんでいた。


「今のを聞いてそういう顔が出来るなら大丈夫だな」

「それは、どういう…?」

「自分の持っている武器の強さ怖さを知らない奴には、その武器を本当に使いこなす事なんて出来ない。 何より危なっかしい。 刃物の怖さを知らない奴に、抜き身のナイフを持たせられるか? 君らも、最初に武器を持たされた時や魔法を教わった時は、その怖さについて確り説かれたんじゃないか?」


 それぞれに心当たりがあったのか、深く頷く。


「自分が、そして相手が持っているそれは、人の命を奪いうる“凶器”である。 それは、絶対に自覚しておかなければならない事だ。 自分が(・・・)死なない為にもな」





短編投稿しています

「田舎暮らしのラノベ作家はドラゴン娘とラーメンを啜る」

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