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異世界交流学園の臨時講師  作者: 福耳 田助
2章.1年目4月:授業始まる
23/25

17.型・並列・明日から…

次回からもこれぐらいのペースになるかと思います。

今月は後二回投稿が目標です。


「それじゃあ《流動》の鍛練方法を教えていくぞ」


 場所は変わり、ここは学部棟の訓練室。

 訓練室と言っても然程広くはなく、先程までの教室の倍程度、床や四方の壁は頑丈なコンクリートで固められているが、特殊な設備は何もない。

 ここは型稽古や約束組手のような、余り激しい動きのない訓練で使われる部屋なのだ。

 広さだけで言えば別に先程の教室でもよかったのだが、固定されて動かせないタイプの机だったので、こちらへ場所を移したのである。


「まず普通に立って、その状態で《生命力(オーラ)》を纏え」

「はい! 《生命力(オーラ)》の量はどれくらいですか?」

「この場合《生命力(オーラ)》量はあまり関係ないから、自分のやり易い自然な量で良い」

「はーい」


 朱音の言葉を皮切りに、全員がそれぞれの適量の《生命力(オーラ)》を纏っていく。

 そこにはやはり個人差があり、量が多いのは宗昭・ヴォルフ・ロドリオ・ティア、逆に朱音とシルフィアーネは少なく、二コラとリーンベルはその中間程度。

 これは《気》による全身強化が基本の近距離タイプの気功使いと、魔法そのものに《魔力》を注ぐ魔術師の差だ。

 同じ気功使いでも二コラは遠距離タイプ、《気》の扱いは魔術師の《魔力》のそれと自然似通ってくる。

 魔法戦士であるリーンベルは気功の方が主体ではあるが、魔法の方にも力を割く必要があるため、《気》を使いすぎないようセーブしている。


「次はどうすれば良いのでしょう?」

「一年の時に教わったっていう武術の型、まだ覚えてるだろ? 無手のやつ」

「そりゃ一年間みっちりやらされたし、まだ忘れるほど昔じゃねーよ」


 クロスハート学園戦闘学部では、全科共通の必須授業として無手の格闘術を教えられる。

 無手で戦わざるを得ない状況、というのは本来の戦闘法に関係なく誰でもありうることであり、例え魔術師であってもいざという時の為に身に着けておくべきだ、という考えからである。


「じゃあ今の状態を維持したまま、その型を一度やってみろ。 《生命力(オーラ)》は乱すなよ」

「? なんでそんな」

「説明は後でするから」

「はぁ…」


 首を傾げつつも、取り敢えず言われたとおりに、体に染みついている型をなぞっていく。

 体に刻み込んでこそいざと言う時に動くのだ、と朝から晩まで只管やらされたこともあり、その動きは淀みない。


「フゥッ…! ハッ!」

「ふむ…」


 型自体は特段変わったモノではなく、近接格闘技の基本動作を集めたようなもので、強いて言えば日本の“空手”に近い。

 しかし雷堂は、その何の変哲も無い型に感心していた。


(基本に忠実な、極オーソドックスな近接格闘の型だな。 独自色はないが、汎用性が高く様々な武技に通じる動きがある。 下地(ベース)としてやらせるには最適だろう)


 一見した所只管堅実で、ある意味面白みの無い型だが、必要な動作は全て組み込まれている。

 まず基礎を固め、土台を確り形作ってこそ、その上に更なる研鑽を積み重ねることが出来るのだ。

 これを考案した人間はそれが良く分かっている。

 この型を反復するだけでも、かなりの基礎能力を身に着けられる筈だ。


(後でソフィアに誰が考案したのか聞いとこう)


 その人物は間違いなく優秀な指導者だ。

 指導者としては新米で未熟な自覚のある雷堂としては、是非そういう人物と話してみたい。

 出来るなら、何かしらの訓示を賜りたいものだ。


 閑話休題(それはさておき)


「フゥーーー…」


 そのまま三十分ほど、仁王立ちのような体勢でゆっくりと息を吐き、残心を取って締める。


「これで一巡ですが」

「よし、じゃあもう一度やるぞ」

「もう一度ですか…?」

「ああ、ただし今度は《流動》を併用しながらだ」

「併用?」

「君らは今まで動かない状態、しかも片手でしか《流動》を使ってないだろ?」

「ええまぁ…」


 事実彼らはそれ以外のやり方で《流動》を使った事はなかった。

 先のボール訓練で使う為に思い付いたものなので、当然と言えば当然なのだが。


「実際の戦闘では当然だが動きながら使う事になる。 それは例え魔術師でも同じだ。 戦闘中の激しい動きの最中にも使えなければ意味が無い。 これはその為の訓練の一環。 肉体の動きに合わせ、スムーズに《流動》による《生命力(オーラ)》の移動を行えるようにする」

「成程…」

「だがこれはあくまで基礎の基礎、“《生命力(オーラ)》を動かす”という事に慣れるためのモノだ。 これだけをやってたって、応用は聞かなくなるからな。 いずれは全身自由自在に《生命力(オーラ)》を操れるようになってもらう」


 雷堂の言葉に真剣な顔で頷く八人。

 基礎の基礎という極僅かな前進、けれど基礎と言う土台を疎かにするような、そんな愚か者はここにはいない。

 …まぁもしいたら一発殴ってお説教コースなのだが。


「具体的なやり方だが、まず型の動作は特別何か変える必要は無い。 《生命力(オーラ)》の量も含めて、さっきと全く同じで良い。 各動作の要点に合わせて、《流動》を使い《生命力(オーラ)》を集中させていくんだ」

「…要点とは?」

「型の動作にはその一つ一つに意味があり、使い方と使う部分が違う。 この場合の要点とはその使う場所、例えば“突き”なら拳、蹴りなら足、防御なら攻撃を受ける場所。 要するに“攻撃”や“防御”を行うポイントに《生命力(オーラ)》を集中させるという事だ。 …一つやって見せようか」


 そう言うと、全身に《生命力(オーラ)》を纏って、先程彼らが最初に取ったものと同じ様に拳を腰だめに構え…


「フッ!」


 所謂正拳の形で真っ直ぐ前に突き出す、と同時にその拳は構えを取った段階では無かった、巨大なグローブのような分厚い《生命力(オーラ)》で覆われていた。


「…ま、こんな感じだ。 取り敢えずやってみな」


 言われた通り素直に再び構えを取る八人。

 同じ様に構え、同じ様に《生命力(オーラ)》を纏い、ただし今度は《流動》を使うよう意識しながら、雷堂と同じく拳を突き出す。


「「「フッ!」」」


 しかし…


「あ、あれ?」


 そこには雷堂がやって見せたような、《生命力(オーラ)》の変化は無かった。


「…もう一回やってみる」


 ティアの言に従い再び同じ動作を繰り返すが、やはり結果は同じ、変化は起きない。


「…なんで?」


 原因が分からず戸惑う八人に対し、雷堂は始めから予測していたのか、面白げな笑みを浮かべている。


「難しいだろ」

「これは、どういう事でしょう?」

「実は体の動作と《生命力(オーラ)》の操作を同時並行に行うのはかなり難しい。 何しろ体の同じ場所で、二つの動作を同時に行うようなモノだからな。 右手でグーとパーを同時に出すような感覚だ」

「それ、無理なんじゃ…?」

「あくまで感覚の話、訓練すればちゃんと出来る。 実際には“同じ右手”ではなく、同じ場所にある別の器官なんだからな」

「…“右手”が、重なった状態で二本ある、そんな理解で問題ないですか?」

「中々良い例えだロドリオ。 もう少し言うなら、その“二本の右手”は根っこで繋がっている状態で、普段は脳からの命令を同時に受信している。 だから片方を動かせば、もう一方も全く同じ動きをしてしまう」

「そうか、さっき《流動》が出来なかったのは、体に合わせて《生命力(オーラ)》もそれと同じ動きをしてしまったからなんだね」

「そうだ。 体の動きに合わせて《流動》を使うには、“肉体”と“《生命力(オーラ)》”に対する指示を意識的に、しかも同時に使い分ける必要がある。 つまり“身体動作”と“《生命力(オーラ)》操作”をそれぞれ別に、かつ並列に脳で処理出来るようにならなければならない。 それが出来ないと、実戦での《流動》の使用は不可能だ」

「…難しそうですね~」

「難しいとも。 《流動》を実践レベルで体得出来るかどうかは、ここに懸かっていると言って良い」


 実際問題ここがクリア出来ずに挫折する人間はそれなりに存在する。

 《流動》が使えても、その場から動くことが出来なければ意味が無いのだ。

 その場合多くの人間は軍に入り、魔術師であれば固定砲台として拠点防衛の任に、気功使いは一般兵になるなど、少なからず身につけたモノを生かすための道は用意されている。

 実践レベルでの使用は不可能だったとしても、お互いに補い合う集団戦闘が基本の軍隊では、《流動》が最低限使えるだけで十分な戦力だ。


「以上の点を踏まえ、ではどのように行うかと言うと、やること自体は変わらない。 ただ今まではまず肉体ありきで行っていた動作を、《生命力(オーラ)》を優先して行うようにする」

「? つまりどういう事?」

「さっきは先に体を動かすことを意識して、それに合わせて《流動》を使おうとしただろう? 今度は逆に、まず《流動》で《生命力(オーラ)》を動かし、それに合わせて体を動かすんだ。 まぁ言うよりやってみるとしよう」


 言われて三度(みたび)構えを取る八人。


「初めはゆっくりでいい。 その状態から徐々に右拳に《生命力(オーラ)》を集中、《生命力(オーラ)》が動き始めたらその速度に合わせ拳を突き出していけ。 最終的に《生命力(オーラ)》が集まりきるタイミングと、拳を突き切るのを合わせるんだ」


 言われるまでも無く、その速度は非常に遅い。

 体でも《生命力(オーラ)》でも、少し早く動かそうとしただけで、集まりかけた《生命力(オーラ)》が霧散してしまいそうになる。

 結局腕を真っ直ぐ伸ばすだけで、三分近く掛かってしまった。


「よし、いったん止め」

「…ぷはっ!」

「はぁ…はぁ…」


 この僅か数分で、かなりの集中力を要したのだろう、全員息が切れてしまっている。


「きっつ…!」

「これは、型を一巡するだけで、何時間掛かるか、分からないわね…」

「それ以前に、体力も、集中力も、持たねえよ…」


 まだ多少息は荒いが、ある程度呼吸が整って落ち着いたタイミングで、雷堂は手を打って視線を集める。


「さて、この訓練の厳しさは理解できたな?」

「それはもう…」

「そりゃあ良かった」


 何やら良い笑顔で言う雷堂に、微妙に嫌な予感を覚える


「明日からの授業では当面これ(・・)だけを行う。 大体一ヶ月を目途に、一番最初に《流動》無しでやったのと同じ速度で出来るようになるのが目標だな。 それが出来るまでは他の実技は一切無し。 さっき教室で言った自習時間の確保はちゃんとするからな」

「それはつまり、明日から毎日、何時間もこれを…?」

「その通り」

「「「…」」」


 辛うじて声にこそ出さないモノの、全員が「げっ」と言わんばかりの表情を浮かべているのを見て、雷堂は実に楽しそうに笑っている。

 この男は基本Sなのだ。


「そうそう、これはあくまで授業で行う本格的な鍛練方法。 自室で出来るような簡単な方法も教えておくから、出来るだけ実践するように」

「まだあるんですか」

「こっちはそんなにきつくないから安心しろ。 と言うのも、単に日常の動作でも《流動》を使うように意識するってだけだ」

「日常の、動作?」

「例えば何かを取ろうとして伸ばした時の手、階段を上る足、食事の時の顎、そういう時に使うんだ。 出来るだけ自然に、無意識でも使えるようになるまで」

「《流動》を使う事自体に慣れるのが目的って事ですね。 でも《生命力(オーラ)》の消耗が激しそうですね」

「それも目的の一つだ。 《生命力(オーラ)》は筋肉と同じで、消費と回復のサイクルを繰り返す事で量が増えるからな。 あ、それとこれをやるときは力加減に気を付けろよ。 《生命力(オーラ)》が集中して力が増してる分、迂闊に何か触ると壊したり怪我したりするから」


 最後の雷堂の忠告は確り心に留めておく。

 抜き身の凶器でもあるまいに、触れるものを一々壊すなど御免である。


「さて、少し長くなったが今日の所はこれで終わりだ。 本格的な方は授業でやるから良いが、簡易訓練の方は早速今日からでも始めるように。 では、解散」






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