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異世界交流学園の臨時講師  作者: 福耳 田助
1章.1年目1月:転機の出会い
13/25

12.春休み・宿題・冬の終わり

再投稿


「じゃ、また四月にな」


 模擬戦から三日後、間兄妹が一度本拠である日本に戻る日が来た。

 学園校門前で見送っているのは、ソフィアと“間教室”所属予定の八人である。

 元々今回の来訪は紹介を兼ねた顔合わせであり、二人が正式に赴任するのは四月からになる。

 三ヶ月近い時間が空く訳だが、双方ともすることが無い訳では無い。

 雷堂は“間流戦技”の仕事の他に、“間総合警備保障”の方にも経営者一族の役員として籍があるため、そのあたりの調整が必要になる。

 晶はまだ大学生なので、新年度からは一年間休学して仕事に就く予定である。

 因みに晶だけ一年なのは、幾ら何でも学生を二年も休学させて働かせるのはどうか、という意見が身内から出たからだ。

 なので一年後には別の人物が晶と入れ替わりで来る事になっている。


 一方学生達の方は三学期に入ったばかりで、当然まだ授業がある。

 一応クロスハート学園にも春休みはあるが、安穏としているものは少ない。

 学園生の長期休暇の過ごし方は二通り。

 全寮制の学園の為、長期休暇を利用して実家に帰るか、もしくは学園に残って自習や自主訓練に励むかである。

 夏・冬休みならば実家に帰る者の方が多いのだが、春休みの場合、冬休みに帰ったばかりだからという理由で学園に残って自主訓練に励む者が多い。

 雷堂の教え子となる八人も全員が後者であった。

 しかも彼らには雷堂から、“春休みの宿題”も出されている。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 一日前、クロスハート学園空き教室―――


『《気》と《魔力》…《生命力(オーラ)》の操作精度と速度を向上させろ。 今のままじゃ雑だし遅すぎる』


 《生命力(オーラ)》の操作能力は気功でも魔法でも、その性能に直結する。

 現時点での学生達のそれらの能力に、雷堂はあっさり落第点を付けた。

 彼らとしてはその評価に多少の不満を感じなくもないが、実際に目の前で自分達よりも遥かに優れた、それこそ針孔に糸を通すがごとく、緻密で繊細な《生命力(オーラ)》の制御を見せられてはグゥの音も出ない。

 そしてその為に彼らに言い渡された宿題は…。


『これを使う』


 そう言って雷堂が取り出したのは、ソフトボールほどの大きさの球体。

 一見プラスチックのような材質に見えるが、それにしては色合いが不可思議で、強いて言えば水に浮いた油のような、不安定な鈍い光沢を放っている。

 雷堂が揺らすと、中に液体が入っているのか、チャプンと音が聞こえた。


『それは…?』

『これは最近になって開発された《生命力(オーラ)》の操作訓練用のアイテムでな。 まだ一般には出回ってないが、ちょっと伝手を頼ってモニターを兼ねて借りてきた』

『そのボールがですか?』


 とてもではないが、そんな最新技術が使われているような、大層なアイテムには見えない。

 そんな雰囲気を滲ませる彼らを無視して説明を続ける。


『こいつは機械的な技術は使われていない。 テラの“分子構造学”と“量子力学”を元に、マナの“錬金術”によって通常の科学理論と物理法則ではありえない分子結合の特殊な状態変化を…まぁ細かい理屈はいいか。 別に知った所で意味もないし。 取り敢えずそれぞれに一個ずつ配るけど、まだ触んな』


 何やらやたらと高度な上に長くなりそうな説明を自らぶった切り、晶に指示して全員の目の前に一個ずつ置いていく。

 何故か机の上ではなく、その横の床の上に。

 触るなと言われたのでまだ見ているだけだが、やはりそんなすごい物には見えない。


『あ、それ一個五百万はするから、無くしたり盗まれたりしないように気を付けろよ』


 …そう思っていたらいきなり恐ろしい事実をぶっ込まれた。

 そういうことは最初に言ってほしいものである。


『さて、じゃあまずそれを持ち上げてみろ。 慎重にな』


 言われなくともそんな高額な物品を粗末に扱ったりできるはずもないが、それはさておき。

 全員が慎重に、しかし特に何も考えず持ち上げようとするが…。


『っ!?』

『えっ!?』

『何これ!? 重っ!』

『全然、上がらない!』


 ソフトボール大の大きさからは考えられないような、途轍もない重量。

 とても生身の人間が、素の腕力で持ち上げられるような重さではない


『ぐぬぅっ…うおっ…!?』


 強化して無理矢理持ち上げようとしたヴォルフが、驚きの声を上げる。

 凄まじい重さだったボールが、突然風船のように軽くなったのだ。

 いきなり重さが無くなった所為で、込めていた力が勢い余ってボールを空に放り出してしまう。

 放り出されたボールは壁に当たり、こつんと軽い音を立てて跳ね返るが、次の瞬間、


 ヒュッ ゴンッ!


 まるで重さを思い出したかのように、勢いよく垂直に落下、床に大きくめり込んだ。


『は…?』

『え?』


 全員が呆気にとられる中、ただ一人、雷堂だけは面白そうに笑っていた。


『くくっ、予想通りの反応だな』

『あの、これは一体…?』

『こいつには二つの新素材が使われている。 外側のボールと、中の液体だな』


 言いながら雷堂はボールを見やすいよう、自身の目線の高さまで持ち上げる。


『中に入っているのは特殊な液体金属。 こいつは《生命力(オーラ)》に触れる事で質量が変化するという特性を持っている』

『質量が、変化?』

『《生命力(オーラ)》に触れることが条件…。 今ヴォルフが持ち上げられたのは強化の為に《生命力(オーラ)》を発生させたからですか?』

『その通りだ。 通常状態では一センチ四方で凡そ三キロ、このサイズでも三百キロ以上になる。 しかし《生命力(オーラ)》を籠める事でその重量は消え去り、驚くほど軽くなるのさ』

『成程、だからさっきヴォルフは…』

『あれ? でも…』


 納得すると同時に、疑問が生まれた。

 さっきから雷堂も晶も、ごく普通にあのボールを持っている。

 《生命力(オーラ)》を籠めずにはとても持てないという話なのに、特に強化している様子もない。


『気付いたか? 実はこいつの質量を変えるのに《生命力(オーラ)》の量は関係ない。 ほんの僅かでも《生命力(オーラ)》を籠めれば、いや、ただ生身の人間の手で触れるだけでも質量は変化する』

『なら一体どうして…』


 “生身の素手で触れるだけで軽くなる”ならば、何故さっきはヴォルフのものしか軽くならなかったのか。

 雷堂や晶のものは質量が変化しているのに、何故自分達のボールは変化しないのか。

 考えられるのは…。


『…そのボールですか?』

『正解』

『二つの新素材、つまりそのボールの方の素材には、中の液体金属の特性を打ち消すような、何らかの特性があるということですね』

『その通り』


 雷堂は再びボールを持ち上げ、今度は外側の素材について説明していく。


『このボールの方に使われているのは、マナのスライムから作られる特殊な樹脂素材だ。 軽く硬く、樹脂だから加工も容易な中々に優れた素材だが、何よりすごいのはその特性。 なんとこいつは《生命力(オーラ)》を弾く性質を持っている』


 それは驚愕の特性である。

 《生命力(オーラ)》を弾くならば、気功や魔法のような、《生命力(オーラ)》を用いた攻撃に対しては高い防御力を発揮するのではないか?

 あるいは触れた瞬間、《気》による身体強化を打ち消す可能性すらある。

 しかし残念ながらそれらの可能性は、雷堂の口から否定される。


『と言ってもまだまだ研究途中の不完全な代物だ。 《生命力(オーラ)》を弾くにも限度があって、普通に攻撃すれば通じるし、硬いと言っても所詮は樹脂だから、それなりの力でぶっ叩けば普通に割れる。 現状出来るのは、こんな風に内側に《生命力(オーラ)》を通さない、《生命力(オーラ)》に触れさせたくないような物質をしまう容器にするぐらいだな』


 そうそう旨い話は無いようだ。

 さらにこの素材の弱点はもう一つある。


『おまけに元々がスライムの生体素材を使っているせいか、状態が安定せずに常に変化し続ける。 色が揺らめいて見えるのはその所為だ。 色だけならまだしも、《生命力(オーラ)》を弾くというその特性すら不安定。 しかしそこにこそさっきヴォルフだけがボールを持ち上げられた理由がある』

『特性が不安定、という点ですか?』

『そう、こいつが不安定っていうのはな、その時その瞬間の素材の状態に合わせた《生命力(オーラ)》の波長、強さで触れると、そのまま通過させてしまうことにある』

『じゃあさっきヴォルフが持ち上げたのは…』

『使った《気》の量が偶然素材の状態に一致したから。 そして今俺が持っていられるのは、ボールの変化に合わせて《気》の放出量を変化させ続けているからだ』

『そういう事ですか。 なら、訓練というのは』


 気になっていた疑問が氷解すると同時に、このボールを使った訓練方法も予想がついた。


『察しの通り、こいつを持ち上げ、持ち続ける、それがこれから君らに課す訓練だ』

『やはり…』

『もう分かってると思うが、口で言うほど簡単じゃあない。 何しろこの樹脂の性質は秒単位で目まぐるしく変わる。 ボールの変化を肌で感じ取り、瞬間的に、それこそ無意識にでも《生命力(オーラ)》を調整できるようにならないとまず不可能だ』


 全員がその難易度を理解したのだろう、表情を険しくしている。


『訓練は三段階で行う。 最初は無理に持ち上げようとしなくていいから、置いたまま手を触れて、性質が変化する感覚を体に刻み付けろ。 その感覚を覚えたら、次は《生命力(オーラ)》の調整だ。 ボールの状態によってどの程度の《生命力(オーラ)》が必要なのか、自分で試しながら覚えるんだ。 そして最後に“持つ”。 ボールを持ち上げ、合わせて自分の《生命力(オーラ)》量を変化させ続け、その状態を維持するんだ』


 それぞれに雷堂の言葉を書きつけたり、頭の中で反芻して覚えたり、早速とばかりにボールに手を置いたりと反応は様々。

 行動はバラバラだが、その表情は一様に真剣だ。

 たった三ヶ月弱でそれをマスターする事がどれほど高難度なのか、全員が正しく理解しているのだ。


『次回俺がこっちに着たら最初にこいつのテストを行う。 十分を目安に評価を付けるが、十五分も維持できれば文句なしに満点をやろう。 実際二ヶ月でそこまで行ければ間違いなく天才レベルだ』


 その言葉に全員が闘志を燃やす。

 何が何でも十五分、クリアしてやる。

 そんな意思が透けて見えている。

 雷堂としても本音を言えば、彼らなら出来るだろうと思っているが、そこは言わない方がやる気を出すだろうと判断し、黙っていることにした。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 校門前からタクシーに乗り込み、空港に向かう二人の見送りを終えると、学生組は直ぐに引き返し始める。

 早速“宿題”を始めるつもりなのだ。


「しゃあ! やるか!」

「まずは感覚を掴む訓練かー。 出来るだけ早く次に移行したいよね」

「…焦りは禁物だぞ」

「そうそう、一つ一つ確実に行こうよ」

「そうね~。 焦ってやって失敗したらかえって時間の無駄だものね~」

「ん、急がば回れ」

「取り敢えず訓練室行こうよ! 部屋でやって床に落としたら大変だし」

「この時間なら、第4訓練場のスペースが空いてそうね。 …では学園長、失礼いたします」

「うむ」


 ワイワイと賑やかに去っていく学生達を、何処かまぶしく思いながら見送り、彼女も自身の仕事のために学園長室へと歩を動かす。

 ふと空を見上げれば、そこに広がるのは雲一つ無い快晴。


「…良い天気だな」


 その暖かで穏やかな陽が降り注ぐ空は、近々の春の訪れを予感させた―――








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