3:涙々聖女
正直、ショック…。大ダメージ…。
「………」
とりあえず目的地まで来たのだけど、商人さんはまだ来ていなかった…。
仕方ないので、入り口が見える階段の端にチマッと座った途端、ポロポロと涙が更に溢れてきた。
「あら!?シオーネ、どうしたの?」
「……ファニスさま…っ」
たまたまここを通りかかったのだろう。
驚いた顔の姫巫女様付きのファニス様は、「どこから…?」と聞きたくなる素早さで私にココアクッキーを数枚持たせると、笑顔で食べるようにすすめてきた。
「お菓子を食べて、落ち着こう?ね?」
「…はい、ありがとうございます…」
ポリポリと、ちょっとほろ苦いココアクッキー…大変おいしゅう御座います…。
私が泣きながらでも食べ始めたのを見計らって、ファニス様は「姫巫女様に用事があるから、ここでごめんね?」と言って行ってしまった。
仕事中に…ありがたいです。
そして私が啜り泣きながら最後のクッキーをポリポリしていると、何と姫巫女様が現れたのである!うひー!
"ススス…"と私の下にやって来て、綺麗な衣装なのに戸惑いも無くストンと同じ階段に腰を下ろした姫巫女様は、私の手を取って来た。
え?クッキー?慌てて口の中に放り込んだよ!
「わたくしの可愛い可愛い、異世界の小さな聖女様」
「姫巫女様…?」
「わたくしは貴女が心配で堪りません…」
「………」
「何に対して涙されたのです?」
「…私……あの…その…………」
い、言えない…。さっきまで生垣で盗み聞きしていただなんて…!!
しかもファニス様が姫巫女様に、私がここで泣いていたと言ったのかな?
私が「あうあう」と言いよどんでいると、姫巫女様が気を使ってくれた。
「……言えないのですか?…では…貴女の悲しみに震える心を、わたくしに少しでも温めさせて…」
「ぅ、ぁ、う…う…」
「シオーネ…、さぁ、わたくしの下へ」
「…レジェスターニャ様ぁ…!」
催され、私は結局我慢出来ずに、大きく私の為に開かれた両腕に飛び込んだ。
―ぎゅぅ………くんっ…
私を受け止めながら、僅かに身を捩ったのか…そんな身体の動きが私に伝わってきた。
しかし、直ぐに私の方に意識を戻してくれたみたいで、姫巫女様は私の頬を伝った涙をハンカチで丁寧に拭いてくれた。
優しい手つきで髪を撫でて、私が抱き付くままに受け止めてくれる。
私が男だったら、マジで惚れたなー。はぁはぁ…!
極上の柔さだし、良い匂いするし、超美人だし、スタイル抜群だし、甘やかしてくれるけど、叱ってもくれる…。最高だー!
よし、ここぞとばかりにスリスリしてこのポヨンポヨンな天然柔肉にいっぱい甘えておこう…。それで…
―…うん…。姫巫女様に早く…幸せになって欲しい。
「―…レジェスターニャ様、大好き…」
「―……ふふっ…。シオーネ、やはり貴女はとても可愛い」
「………」
「わたくしもシオーネが大好きですよ」
その言葉に、"スリ…"と身を寄せれば、優しい手つきで私をどんどん甘えさせてくれる姫巫女様。
ハンカチで私の涙を拭き終わり、姫巫女様は私から視線を外して一点を強く睨んだ。
そこに何かあるのかな?私も見てみたけど、技巧の凝らされた太い柱以外に何も無いよ?
「…若い獅子に、貴女の涙を見られてしまいました…」
「?」
「わたくしに無断でここまで乗り込んで来るとは、勇敢な獅子ですこと…。ふふっ…」
「………?」
な、何だろう?空気が…黒い…?普段の姫巫女様からは想像もつかない"凄み"を感じるよー。うわーん!
しかも、"獅子"って何?猫科の大形動物?この神殿には、そんなの最初から居ないのでは?
「…わたくしの"待て"を破るとどうなるか…。あの若い獅子は脳筋過ぎて理解出来ていない様ですわね。……いけませんわ」
「???」
「シオーネ」
「は、はい!」
「泣きたい時や一人が辛い時は、わたくしの部屋にいらっしゃい」
「…はい、レジェスターニャ様…」
"獅子"の意味は分からないが、優しいレジェスターニャ様…。
「いつでも待ってますよ」
―…さようなら、です…。
「…はい」
……みんな、さようなら…
なんです…。